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異世界放狼記 神ヲ喰ラウ獣  作者: 島下 遊姫
神を喰らう獣
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互角

 神々しい輝きを放つ狼鬼を前にエーテルは苦笑いを浮かべる。

 人が神になるのにはいくつか条件がある。

 一つは死んで蘇る。

 死は生物では決して抗うことのできない運命の果て。その果てを超え、終焉という運命を克服してしまえばそれは生物ではない。

 二つ目は業を背負いすぎることだ。

 自分自身だけでなく、他人の願いや苦しみを全て背負った者は人間という小さな器から神という巨大な器に乗り換える。

 ロウはその二つを満たしている。

 エーテルによって殺されたが息を吹き返した。

 人々を業ごと食らい、世界を救う為に戦い、思いを背負うロウは最早、人の器では成し得ない使命を背負っていた。


「何だ……この感覚。力が体の奥底から湧き上がってくるような!」


「神化か。つまらない冗談だ」


 エーテルは空間圧縮の能力を使い、狼鬼を空間ごと押し潰そうとする。

 一瞬、狼鬼の体は歪みはするものの、押し潰されることはなく、そのままの姿を保っている。

 続いて、雷撃や火球などの攻撃を放つが全ての攻撃は狼鬼に直撃する寸前、まるで見えない何かに食われたかのように消滅する。


「やはりか」


 エーテルが溜息を吐いている間。

 狼鬼を見様見真似で火球を放つがこれもまたエーテルに直撃する直前に消滅する。


「面倒なことだなぁ」


 神の力は世界を滅ぼせる程の巨大なものだ。

 しかし、あまりにも強大すぎるが故に二つの神の力がぶつかり合うと相殺される。

 例えるなら最強の矛と最強の盾が衝突。

 どちらが勝つでも負けることもない。矛は盾の防御力に折れ、盾は矛の攻撃力によって砕け、引き分けになる。

 神同士の戦いに力は決め手にならない。

 神自身の鍛えあげた肉体と知力によって勝敗が決まる。


「いくぞ……」


 狼鬼はゆっくりとエーテルへと迫る。

 能力が相殺される以上、エーテルも肉弾戦を行わなければ狼鬼を殺せない。

 エーテルもゆっくりと狼鬼へ迫る。

 同時に拳を突き出し、同時に胸部へと激突する。

 互いの胸部から破裂したように光り輝く血が吹き出る。


「グゥッ!」


「ガハアッ!」


 二体は後ろに転がり込むがすぐに立ち上がる。

 胸部から大量の血が流れるが両者は一切気にも止めず、ぶつかり合う。

 狼鬼は音をも追い越す程の速さで拳を乱れ打つ。

 だが、エーテルも一筋縄ではない。

 狼鬼の乱撃を全て、掌で受け止める。

 エーテルは神の力だけ頼りで戦っていたわけではない。

 それ相応の実力を備えていたからこそが驚異的な力を使いこなせていたと言っても過言ではない。

 神に至ったとは言え狼鬼はエーテルを超えたわけではない。同じ土俵に立っただけ。

 そう簡単に勝つことはできない。


「単調な攻撃!」


 嵐の攻撃を受けながら、エーテルは狼鬼の脚を払う。

 体制を崩され、狼鬼は空中でひっくり返る。

 無防備になった狼鬼をエーテルは回し蹴りを浴びせ、まるでボールのように蹴り飛ばす。

 狼鬼は勢いよく後方に吹き飛び、石壁に叩きつけられる。

 壁が崩れ、狼鬼は瓦礫と粉塵に埋もれてしまう。


「神になったところで我に勝てるわけがなかろうが!」


 エーテルは生まれながらにして神であった。

 


「それはどうかな?」


 エーテルが奢った瞬間だ。

 瞬きすら許されない一瞬で舞っていた粉塵が吹き飛ぶ。

 粉塵が消え去り、壁には大きな亀裂ができていたのが確認できた。

 しかし、そこに叩きつけられたであろう狼鬼の姿はどこにもない。

 どこに逃げたと辺りを見回すが、姿は全く確認できない。


「どこに逃げた!」


 見回す傍らで不意に振り返ったその時。


「ハァッ!」


 神速とも言える速さで背後を取っていた狼鬼の鋭い爪によってエーテルの胴体が切り裂かれる。


「ガハッ!」


 エーテルの光り輝く鮮血が宙に飛び散る。


「いつの間に……背後を!」


 問いには一切答える素振りを見せず、狼鬼はエーテルの首を刎ねようと爪を立てる。

 それは阻止せんとエーテルは掌から小さな竜巻を作り、地面に放つ。

 小さいながらも竜巻としての力は十二分にあり、エーテルを後方へと吹き飛ばす。

 狼鬼の攻撃はあと数センチのところで回避される。

 二つの脚と右手で着地をすると、エーテルは狼鬼を睨む。


「この我に……傷をつけたか!」


「それがどうした? 敵同士なら当然だろ?」


 エーテルは胸についた三本の切り傷を手で撫でる。

 神の世界では幾度となく刻まれた傷。傷一つで取り乱す程、エーテルの精神は幼稚ではない。

 だが、まさか神が存在しなかったこの世界でつけられるとは全く思っていなかった。

 怒りはあった。元々は神によって作られた生物に傷をつけられ、気が狂いそうになる。

 人間が蚊に刺され、鬱陶しく感じるのと同じだ。


「面白い! これは殺しがいがあるじゃないかぁ!」


 だが、下等な生物だった存在が今や同等の存在となって、対峙している。

 稀有な事象を前にしたこと。そして、自身に楯突く愚か者をさらになぶり、生き返ったことを後悔させられる機会を得たことにエーテルは歓喜した。

 それは創造主である神として。

 死と滅びを求める悪として。

 戦いを求める戦士として。


「さぁ、最後の戦いを始めるぞ! 世界と貴様が滅ぶか! 我が滅ぶかの決戦をなぁ!」


「……言われなくても!」


 世界の命運は間もなく決まる。

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