終焉
エーテルが上空から狼鬼を叩きつけたことによって神殿頂上に巨大なクレーターが生まれる。
その中心には瓦礫に混じって黒い生態鎧の破片と肉片が散乱していた。
そして、頭だけとなった狼鬼が転がっていた。
「面白い絵面だなぁ!」
無残な姿と化した狼鬼を目の当たりにし、エーテルは高笑いを上げる。
あれほど手間をかけさせた存在が今ではサッカーボールのような見た目になり、殆ど力の無い無害な道具になったことに笑いを堪えることができない。
エーテルは頭を踏み潰してやろうとゆっくりと近づく。
だが、頭だけになっても狼鬼はまだ無力化していなかった。
クレーターの周辺に散らばっていた狼鬼の肉片がまるでファンタジーのスライムのように気持ちの悪い動きをしながら、狼鬼の頭に集まっていく。
グチュグチュとグロテスクな音を立てながら新たな狼鬼を形成していく。
首から下に肉片が集まっていき上半身が出来上がる。
だが、普通の人型の上半身ではなかった。
背中から巨大な腕が二本が生え、肩から手先がカマキリの鎌のように変形した腕が生える。首も恐竜のように太く、長くなる。
下半身は馬のような胴体に変態となり、像のような太い脚が昆虫のように左右三本ずつ生える。
下腹部には蛸のような丸状の牙の生えた口が現れ、臀部から九本の狐のような毛の生える。だが、その毛も針のように固く、鋭く、毛先に毒が仕込んである。
顔も瞳が四つに増え、口も上下だけでなく左右に開くようになり、耳も悪魔のように尖る。
聞くに堪えない悪魔の咆哮が室内に響く。
ただの咆哮だけで空気が震え、石の壁に亀裂が入る。
堕天魔獣―狼鬼。
力に身も心も全て預け、理性亡き化け物に変化した災厄の獣。
人型であることを辞め、醜悪な化け物になった狼鬼。人の感情と姿を失ってでもエーテルを殺す。
それほどまでの捨て身の覚悟で戦っているのだ。
「これはこれは。醜い姿だな」
文字通り醜悪な姿になった狼鬼をエーテルを嘲笑う。
ここまで人は目的の為なら堕ちれるのかという愚かさ。
救いようのない化物に堕ちて、残念ながら神には勝てない無様な結末が待っていることを
その下衆な笑い声が耳に入った狼鬼はゆっくりとエーテルへと顔を向ける。
そして、視界にエーテルが入った瞬間、狼鬼は目にも止まらぬ速さで六つの腕を同時に叩きつける。
エーテルは咄嗟に跳んで回避する。
極限まで進化した狼鬼の動体視力は寸分違わずエーテルの動きを目で追い、体から触手を伸ばし、追い打ちをかける。
圧倒的手数と速さと攻撃力は人型であった時よりも強化されている。
しかし、知性なき今、エーテルを追うのも反射と本能だけだ。
今までの戦いのように先を読んでの行動はほぼ行えない。
狼鬼の強みは強靭な的な力と速さと進化、それらを最大限引き出せる知能を持つこと。
同じ知性を持たない化物同士の戦いならば狼鬼に軍配が上がる。だが、知性を持つエーテルにとっては速く、力が強いだけの化物ならば狼鬼の強さは半減する。
否、それ以下だ。
「獣が神に勝てるわけなかろうが!」
エーテルは右腕を上げると、狼鬼の足元から先端が釣り針のようにかえしのついた刃がついた黄金の鎖が七本、現われる。
そして、腕を振りおろすと鎖が狼鬼の巨大な体に巻き付き、拘束する。
狼鬼は雄叫びをあげ、巨大な図体を激しく動かし、鎖を引き千切ろうとする。
だが、鎖の強度はかなり強固でヒビ一つも入らず、また先端のかえしが狼鬼の体にくい込む、外すこともできない。
「グウォォォォォ!」
「これで我の勝ちだ!」
身動きの取れない狼鬼をトドメを誘うとエーテルは膨大な力を使い、最強の武器を生み出す。
血のような鮮やかな赤色をした長さ十メートル、直径ニメートルを超す巨大な十字架型の槍。
エーテルを強靭な力でそれを片手に持つと跳躍。狼鬼の頭上を取る。
「これが貴様の墓標だ!」
エーテルは槍を両手に持ち、狼鬼に向け、大きく振りかぶって投擲。
槍はそのまま一直線に狼鬼の頭部目掛けて、突き進む。
狼鬼は鎖によって身動きが取れず、回避することも防御することもできない。
ただ、その一撃を受けるのを待つばかり。
そして、槍は狼鬼の顔面を貫き、串刺しにする。
鼓膜が破れんほどの狼鬼の叫びが虚空の空に響く。
狼鬼は大きく仰け反った後、ゆっくりと力なく前に首を倒す。
槍の柄が地面に当たると、貫かれた狼鬼の顔面がズルズルと奥深くへと突き刺さっていく。
頭部に深いダメージを負い、力も果たした狼鬼は再生も絶望的。
それにも関わらず、エーテルは念入りに槍を追加で八本投げ、体を貫く。
狼鬼の体はズタズタに裂け、肉片が辺りに飛び散っている。
心臓や胃、腸などの内臓が体に空いた穴から零れ落ちている。
息もなく、四つの瞳全てに生気はなかった。
「神を邪魔する化物。これにて討伐」
この瞬間、狼鬼の生命活動は完全に停止し、死に絶えた。




