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異世界放狼記 神ヲ喰ラウ獣  作者: 島下 遊姫
神を喰らう獣
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決戦

 静かな風が吹く。

 嵐の前のような静けさと張り詰めた空気が流れている。

 

「よくここまで来たな。それは褒めてあげよう。化け物」


 満月を背景に怪しく照らされたエーテルはゆっくりと拍手をし、ここまで上ってきたロウを労う。

 だが、まるで勝ち誇ったような憎たらしい笑みを浮かべており、労いも挑発の一環であるのは明白だった。

 見え見えの挑発にロウは乗ることはジッと睨みつける。


「神直々の祝福だぞ。少しは喜ぶといい」


「世界を滅ぼすあんたが神だとは思わない。そんなあんたに祝福されるなんて反吐が出る」


「そうか。それは残念だ」


 ロウがエーテルを拒絶したその瞬間。

 エーテルの頭上から八つの剣が現れる。剣先はロウを向いている、


「なら、死ね」


 剣が銃弾のように放たれ、ロウに迫る。

 だが、何の変哲もない直線的な攻撃であり、ロウは悠々と回避する。

 外れた剣は床に突き刺さると、光の粒子となって跡形もなく消える。


「この程度で死んでいたら、ここにはいない」


「だろうな! なら、本気でいこうか」


 無論、今の攻撃で仕留められるとはエーテルも思っていない。

 あくまで小手調べでしかなかった。


「今から我は神に刃向かう化け物を英雄となる。刮目せよ!」


 エーテルから発せられ禍々しい殺気と覇気、そして視覚化できるほどの巨大なエネルギーのオーラを目の当たりにし、ロウですら気圧されそうになる。

 世界が震撼する。大地が恐怖で揺れ、風が悲鳴を上げるかのように吹き荒ぶ。

 まるでこれから君臨する神に畏怖ふるかのよつに。

 恐怖と混沌を陥れる中、エーテルの体がロウのように変化していく。

 肌色の肉体は鱗のような意匠が特徴の白銀の生態鎧へと変化し、背中から翼が生える。

 頭部は鳥のような鶏冠と二本の鋭利な角。口には牙が生え、眉間の間に第三の瞳が開眼する。

 手足の爪は剣のような爪が生え、腰から尻尾が生える。

 そして、血管のように全身に張り巡らされた黄金のライン。

 

「その……姿は!?」


「趣返しだよ。世界を導く救世主の姿に相応しいだろう?」


 龍と不死鳥を混ぜ合わせたような生態鎧を纏った肉体へと変身し、この世界に完全覚醒したエーテルが降臨する。

 エーテルの肉体には一切の無駄がなくまるで彫刻のように美しい。

 汚れのない白銀は数多の血と肉を食らってきた狼鬼とは対照的。

 背中から生える天使のような翼。

 神々しく、そして雄大なその姿は狼鬼以上に救世主らしい。

 ロウは畏怖した。天龍神の姿はそれこそファンタジーの主人公が変身するようなヒロイックなデザインをしているがだが、それでも隠しきれないドス黒い悪意と殺意。

 自身が正義と語る悪ほど厄介で存在してはいけないものはない。


「何が……救世主だ! 命を何だと思っている!」


 人々の命を、世界を奪っておいて救世主と名乗るエーテルにロウは激しい怒りを燃え滾らせる。

 ロウの肉体も変化し、赤と黒のメインに黄金のラインが装飾された狼鬼へと雄叫びを上げながら変身する。

 黒い鬼と白い天使が睨み合う。


「我は神だぞ! 生物の命は無下にしてもいい権利がある!


「減らず口を!」


 狼鬼は強靭な脚力で跳躍し、エーテルに襲いかかる

 いよいよ、狼鬼とエーテルの戦いが幕を上げる。

 怒り任せ全力で振るう狼鬼の右手の拳に対し、エーテルは左腕の拳をぶつけて相殺する。

 神と悪魔の衝突は空間をも震わせ、雲海をも裂く、規格外な衝撃波を起こす。


「クウッ!」


「その程度か?」


 相手は神だ。生物ではない。その力は未知数ではあるが狼鬼の力ならば多少は拮抗するかと狼鬼は予測していた。

 だが、その予測は非常に甘かった。

 狼鬼の力も凄まじいものではあるがそれ以上にエーテルの力が強かった。


「そんな……わけが!」


「あるんだよぉっ!」


 段々と狼鬼はエーテルに圧されていく。

 この状況を打開せんと、狼鬼は空いた左拳を振るう。

 だが、単調な攻撃は天龍神には通じず、右手で受け止められる。

 そして、エーテルは狼鬼の腕を捻る。

 狼鬼の腕から水を染み込ませた雑巾を絞ったように血が吹き出、骨は粉々に砕け、肉がブチブチと音を立てて千切れていく。


「弱い! 弱いなぁ! それで世界を救おうなどと! 片腹痛い!」


「クソッ!」


 このままではエーテルに左腕を引き抜かれ、片腕になってしまえば流れは完全に奪われる。

 腕を失っててでもこの流れを断ち切らねばならない。

 狼鬼は尻尾を使い、使い物にならなくなった左腕と拮抗し、押され気味の右腕を切り落とす。


「何!?」


 ぶつかり合っていた狼鬼の拳から力が失われ、エーテルは思わず前のめりに倒れそうになるが、何とか片脚で踏ん張る。

 その隙に狼鬼はエーテルの懐に潜り込むと腹部に一発蹴りを入れ、後方に蹴り飛ばす。

 そして、蹴り飛ばした勢いを利用して、エーテルと距離を取る。

 エーテルがよろけ、直ぐに行動を取れない僅かな時間の間に狼鬼は新たな腕を生やす。


「無限とも言える再生能力……厄介だな」


「力が駄目なら!」


 狼鬼は強靭な脚力で跳躍し、エーテルと一気に詰める。

 そして、残像が見えるほどの神速の連撃を浴びせる。


「力で勝てないなら速さか? 甘いなぁ! 甘いすぎる!」


 だが、ただ速くて手数が多いだけの攻撃などのエーテルにとって驚異でも何でもない。

 エーテルは欠伸をしながら狼鬼の攻撃を全て、掌で受け止める。


「馬鹿な!?」


「馬鹿なのは貴様だ!」


 狼鬼は唖然とする。

 まさか、連撃が一度も通らないなどとは思ってもいなかった。

 動揺によって狼鬼の攻撃の勢いが弱まり、僅かな綻びが生まれる。

 その隙をエーテルは見逃すはずがなかった。

 弱体化した拳を弾き、狼鬼は一瞬だけ無防備になった。

 その一秒にも満たない瞬間、エーテルを攻撃を行う。

 だが、攻撃をしたはずがエーテルは指先一つ動かしていないように見えた。

 何を企んでいると思考を巡らせた時。何百発もの拳が狼鬼の打ち込まれた。

 生態鎧が粉々に砕け、体全体から赤い鮮血が吹き出る。

 エーテルの攻撃は生物の動体視力では認識できない速さであり、だからこそ止まっているように見えたのだ。

 狼鬼は激痛と衝撃によって膝をついてしまう。


「貴様のような分からず屋には神の圧倒的な力を味わせてやらないとなぁ!」


 既に力の差は圧倒的。それにも関わらず、エーテルは攻撃の手を休めない。

 エーテルは右手を出し、力を込める。


「クッ!」


 失神しかけるほどの殺気を肌に受け、攻撃が来ると察知すると狼鬼は咄嗟に回避行動を取る。


「無駄だ!」


 次の瞬間。狼鬼の傷口から炎が発火する、狼鬼は忽ち火達磨になる。想像を絶する激痛と熱さのあまり、悲鳴を上げる。

 神の炎は太陽の表面温度と同等以上の熱さであり、本来ならば一瞬では溶け落ちるはず。

 だが、狼鬼は驚異的な再生能力で皮膚が焼けた瞬間に新しい皮膚を再生し、何とか命を繋いでいた。

 しかし、体自体は回復できてもゆっくりと炙られていく内臓へのダメージが苦しく、自分自身が火の元になっている影響で自然と周囲の酸素が薄くなり、悲鳴を上げれば上げるほど呼吸が苦しくなる。

 酸欠によって狼鬼の動きが鈍くなり、狙いが定めやすくなる。

 さらにエーテルは加減することなく能力を絶えず発動する。

 空間圧縮の能力で狼鬼を消滅させようと試みる。狼鬼は力を振り絞って回避するが、完全には回避できず両脚が消滅してしまう。

 地面を這いつくばることしかできなくなった狼鬼に追い打ちをかけるようにエーテルは床から先の尖った円錐形の巨大な柱を創造し、狼鬼を貫く。


「グウウッ!」


 口から血だけでなく、内臓を吐き出しながら呻く狼鬼。

 これが神の力。

 ここまで歯が立たないとは到底思ってもいなかった。

 狼鬼の力は強力とは言え、所詮は『進化』という生物の範疇でしかない能力。

 生物である限り、生みの親とも言える神に勝てるわけがない。

 それでも狼鬼は諦めない。

 諦めればこの世界に生きる人々が死ぬことになり、世界も終わることになる。

 何億人もの命を背負う狼鬼はそう簡単に逃げることも負けることも許されない。

 狼鬼は背中から蝙蝠の翼を生やすと、即座に羽ばたけかせ、体を纏う炎を消し飛ばす。

 そして、柱を砕き、腹部から抜くと空を飛ぶ。


「空中戦か! 無茶なことを!」


 エーテルは高笑いをする。

 そして、翼をはためかせ、狼鬼を追いかける。

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