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異世界放狼記 神ヲ喰ラウ獣  作者: 島下 遊姫
神を喰らう獣
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希望

 瓦礫が積み重ねられ、最早街とは言えない程交配した地、ミルディアス。

 ロウが去った後、火災は三日も続き、遺体も建物も全てを焼いた。

 それからというもの近辺の街に住む住人達が集まって復興作業に取り組んでいた。

 そんな最中だ。激しい地震が起き、瓦礫の山が崩れ落ちる。人々は慌てて、瓦礫の山から離れる。


「おいおい! また地震か! 今日だけで何度目だ!」


「こんなじゃ、復興もまだ遠いな」


 一向に進まない復興に人々は溜息を吐く。


「しかし、まぁ。不幸中の幸いと言うか、あれだけの死体があって運良く焼けていたおかげで疫病は蔓延しなかった」


 だが、それでも復興できるかどうかはまだ現実的だった。

 ロウが街に火を放ったおかげで遺体が焼却された。

 ダイオキシン等の問題があったもの、遺体の腐敗による伝染病による被害は特に見受けられなかった。

 もし、遺体が焼却されず、そのまま腐敗していればミルディアスは死の街となり、復興は絶望的だっただろう。

 今こそ止まることのない天変地異によって復興は進んでいない状況だが、世界が終わらなければまだ兆しは残っている。


「まだ、この街は……復活できそうだな」


♢ ♢ ♢


「保谷ロウ!」


 フードが外れ、その姿が顕になったロウ。

 姿を隠す意味も強風に吹かれて飛び回る砂や石から身を守る意味もなくなり、マントを外し、豪快に投げ捨てる。

 そして、ロウはアマリを鋭く睨む。

 睨みつけられたアマリはまるでゴルゴンに睨まれたかのように体が石のように固まって動けなくなる。

 今まではフードとマントによって隠れ、漏れ出ていた殺気。だが、鬼のような鋭く睨み目と隠す必要もない純度の高い殺気は桁違いの重さであった。

 

「これが……数々の転生者に手にかけた鬼の……」


 ただ、只管に怯えるアマリ。

 そんなアマリを他所にロウは足元で仰向けに倒れている首無しとなったネルコの遺体を目を向ける。

 頭部のあった首の切り口から大量の血が流れ、赤い水溜まりを広げている。

 すると、ロウはゆっくりと腰を落とし、ネルコの腕を引きちぎりる。

 そして、プライドチキンと同じ要領で腕に被りついた。


「なっ!?」


 残酷で無情な光景。敗者には死に方も弔い方も選べない。

 ロウの顔にネルコの返り血が付着する。肉を食べ終え、残った骨を丁寧に骨を置く。

 そして、膝と手を付き、残ったネルコの遺体を貪り食う。

 さっきまで生きていた人間が人間に食われてしまう。加えて相棒が食われている様を目の当たりにして、アマリは言葉を失う。

 驚くのはそれだけではない。

 今、この場には自分という敵がいるにも関わらず、ロウは一切アマリに注意を向けない。

 完全な隙を見せ、殺すには絶好の機会。

 そう思えた。


「私を無視するのか……」


 だが、体が動かない。

 動けないのだ。

 ロウは敢えて隙を作り、アマリの動向を伺っているのだ。

 迫るのなら直ぐ様捕食を中断し、アマリを迎え撃つ。

 来ない、もしくは逃げるのなら十分エネルギーを溜めた後に殺す。

 ロウにそれだけの余裕とアマリとの力の差を理解していた。


「当然だ。お前は俺が迫りながらも攻撃してこなかった。それにこの女がいても背後で指示を出しているだけのことを考えればお前に戦闘能力がないのは十分見抜けた。そんなお前なんか、後回しでいい」


 ロウの予測は十中八九当たりであった。

 ネルコの能力はあくまで未来を見ることしかできない。

 見た未来によって最善策の攻撃を行うことはできるが、あくまで人並みのパンチや剣技で戦うしかない。

 ネルコのように特殊な攻撃を持たなければ、ロウのように規格外の力があるわけではない。

 ロウにとってアマリを殺すことなど蟻一匹を踏み潰すのと同じくらい容易いこと。

 そんな相手に注意を割くのは無駄の一言。


「後回し……だって!? 私も……転生者だ!」


 目の敵にされることも驚異として認識されてもいないことにプライドを激しく傷つけられたアマリは懐に忍ばせていたナイフを手に持ち、ロウに飛びかかる。

 瞼を閉じ、未来を見る。

 アマリの見た未来ではロウはナイフをバックステップで避けていた。

 ならばと、後ろに逃げる分を見越して、ナイフを早めに付き出す。

 瞼の裏に映る未来が変化し、ロウの喉元にナイフが突き刺さる。

 大口を叩いているわりには大した抵抗もせずに最期を迎えるなど呆気ないとアマリは余裕の笑みを浮かべる。


「ネルコの……仇!」


 ロウはゆっくりと立ち上がり、バックステップを行う。

 だが、先手を打っていたアマリの攻撃はロウの回避を先を行く。

 未来視の通り、ロウの喉元にナイフが突き刺さる。


「このまま、首を!」


 アマリがナイフを横向きにそのまま喉を切り裂こうとしたその時だ。


「あぐうっ!」


 背中と腹部に鋭い痛みが襲いかかる。

 脳が焼き切れるかと思う程の激痛と口から吐き出た血の味を味わう。

 アマリは恐る恐る自分の体がどうなったのかとゆっくりと見下ろす。

 地面から生えた剣……否、地面の中を掘り進めたロウの尻尾がアマリの死角となっている背後を取り、体を貫いていたのだ。

 

「その程度か」


 ロウが喉元のナイフなど諸共せず、片手でアマリの首を握り締める。

 そして、腕と尻尾の力でアマリを持ち上げる。


「え……ぎぃあぐぅ……そんな……みら……いは!」


 メキメキと首の骨の軋む音が鳴り響く。

 気道は完全に潰され、酸素は一切体に入らない。

 呼吸ができないアマリは次第に体が痙攣していき、脚をバタバタと暴れさせる。

 目は段々と白目を向き、何か吐き出したいのかしゃっくりのように定期的に大きな痙攣を起こす。


「未来が見えるようだな。それならば、未来を見たところで変わらない回避不可能な攻撃をすればいいだけのことだ」


 アマリの能力は未来を見ることであって未来予知ではない。最大の弱点として、自分の視界に映らない未来は一切見ることができない。

 だから、死角外からの攻撃に全く反応ができなかったのだ。

 否、それ以前の問題だった。

 未来を見ることができ、一手先早く攻撃が出来ても一撃で殺せなければただ、素早いだけの攻撃。一手先を早く回避できても回避不可能な攻撃ならば何も意味がない。

 あくまで身体能力が人並み以上のアマリでは規格外の身体能力と再生能力を持つロウには勝ち目などゼロであった。


「……し……にたく……」


「……未来は見えているはずだ」


 ロウは一切の慈悲なく、アマリの首を手折る。

 首が折れる音と共にアマリの体から力が抜け、手足が下に垂れる。

 軽くなったアマリを地面に丁寧に置くと、ロウは手を合わせる。

 そして、アマリの肉を貪るのであった。

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