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暴走

 触手達は牙を向け、狼鬼に襲いかかる。

 正面からや左右から回り込む個体

 背後や上空、地面を食い破って襲い掛かる個体など、上下左右三百六十度から隙のない攻撃を行う。

 ある個体は体に巻き付き、絞め殺し、引きちぎろうとする。ある個体は硬い生態鎧に噛み付き、肉を食い破ろうとする。

 触手を紙のように容易く引きちぎる。


「ヒカ……リ!」


 引きちぎられた触手を食らいながら、巨大な花の怪獣と化したヴェルノア―ガを睨む。

 楽園の惨状を目の当たりにし、一旦ヴェルノアーガを無視し、人々の救出に優先した。

 所詮は時間稼ぎだ。こんなところで一々触手を相手にしてもキリがない。

 今、この瞬間にも別の場所では触手達が罪なき人間を襲い、食っている。

 一刻も早く元凶でなるヴェルノア―ガを仕留めなければ終わりはしない。

 

「コロ……ス!」


 狼鬼は殺意の炎が着火し、燃え盛る。

 体内から怨嗟の言葉が反響し、狼鬼の精神を蝕み、理性を奪う。

 コロセ! コロセ! コロセ!

 光によって殺された者達の憎しみは深海のように深く、冷たい。

 自らの善意とエゴを押し付け、人を死に追いやった。さらに死後も散々な扱いをしたのだ。真っ当な死に方など望まれる筈ない。

 死ぬ瞬間まで罪を償い、死ぬことが逃げであると思える程の苦痛を与えて殺す。それがこの楽園で死んだ者達の願い。

 その者達を食った狼鬼は怨嗟の意志までも取り込んでしまった。加えて、光を殺すというロウの願いが憎しみ塗れの殺意へと誤った方向に増長されてしまい、理性を支配されかけていた。

 辛うじて世界と人を守るという決意だけは残っているが、それ以外は化け物と変わりなかった。


「コロスゥゥ!」


 狼鬼は咆哮を上げ、跳ぶ。

 極限まで強化された脚力での跳躍は最早、飛翔とも見間違う程の耐空。

 だが、所詮は跳躍であり、鳥のように自由に空中で移動できるわけではない。

 その隙を掴んと四方八方から触手が襲いかかる。


「グウオォォォ!」


 狼鬼は空中で体を捻り、蛇腹剣のような尻尾を振るい、迫る触手を薙ぎ払う。

 だが、全ての触手を払うことはできなかった。一本の触手が狼鬼の首元に噛み付くと、続々と触手は四肢を絡みつく。

 触手達は簡単に引きちぎられないよう四肢の各部分に何体も何重にも巻き付く。

 堅実な対処は確実に成果を出し、狼鬼は触手を引きちぎることができなかった。

 狼鬼の動きを封じた触手達は仕返しと言わんばかりに狼鬼の体を引きちぎろうと外側に引っ張る。


「ハ……ナセ!」


 狼鬼は尻尾で触手を切り裂こうとするが尻尾も絡みつかれ、動かすこともできない。


「ジャマダッ! ドケェェ!」


 狼鬼のアドレナリンが増幅と同時に腰から尻尾が生える。

 合計九本となった尻尾で体にまとわりつく触手を斬り刻む。細切れになった触手の肉片は重力に引かれて地面に落ちる。

 斬られた触手達の仇を打たんとばかりに直径五メートル程の触手が口を開け、狼鬼を丸呑みにせんと襲いかかる。

 巨大な触手が迫る中、狼鬼は冷静に対処する。

 尻尾を伸ばし、触手の側面に突き刺し、アンカーのように引き寄せ、触手の上に乗る。

 そして、触手の上を走り、ヴェルノアーガの本体へと向かう。

 本体はやらせんと触手達は襲いかかる。

 迫る触手は狼鬼の鋭い爪や腕部から生えるアームブレードで全て切り裂く。

 ただ、やられるばかりの触手達ではない。

 一部の触手は口から消化液を吐く。初見の攻撃に狼鬼は対応できず、左腕で防いだ結果、ドロドロのスライム状態になって溶け落ちる。


「グアァァァ!」


 気絶しかけるほどの熱い激痛に狼鬼は断末魔を上げる。

 だが、歯を食いしばりながら溶けた左腕を即座に切り落とす。

 暴走した狼鬼の力は異常な回復力は必要以上に左腕を回復させた。

 先程の腕と比べて倍以上の大きさとなって、新たな腕が生える。

 異常発達した左腕とバランスを取るかのように右腕も同様に肥大化。

 あまりの腕の重さに二本足での自立はキツく、ゴリラのように腕をついて、自立する。


「ウォォォォォ!」


 狼鬼は獣と遜色ない声を上げ、四本脚で走り出す。

 二本足の時とは倍。否、二乗の速さ。

 触手達は止めようと襲いかかるがその勢いから噛み付くことも絡みつくこともできない。そもそも、一定の範囲に入れば尻尾が取り付く前に触手を斬り落としてしまい、近づくことすらままならない。

 暴走機関車のような勢いとパワーを止められるものはいない。


「コロスッ! コロスゥゥゥ!」


 理性も殆どなく、ただヴェルノアーガを殺すという殺意だけが燃料となって狼鬼を動かしていた。

 迫る敵をも諸共せず、驚異的な脚力で跳躍。

 いよいよ、ヴェルノアーガの花弁へと着き、本体である無残な姿となった光を標的に定めた。

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