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変体

 ロウは思わず息を飲んだ。

 見た目はついさっき息の根を止めたリヒトの姿を被っているが、目の前にいるこの存在こそがこの世界を影から脅かし、己の欲望の為だけに人間を殺す悪の権化。

 邪神エーテル。

 その悪は配下である光を背後から剣で突き刺し、悪魔のような笑みを浮かべていた。


「光ィ。もう転生者の数は少ないんだ。それにここは一番生贄の量が多いんだぁ。だから、そう簡単に放棄されては困るんだよぉ」


「もういい……私は……お兄ちゃんに殺されたいの!」


 エーテルは「アヒャヒャ」と狂った笑い声を上げる。

 

「散々、エゴを押し付け、人を殺しておいて最期は自分勝手に満足して死ぬぅ? そんなご都合がまかり通ると思うかい!?」


「光から離れろ!」


 光の頬を艶かしく撫でるエーテルに吐き気を催す嫌悪感を抱いたロウは光から引き剥がさんと飛びかかる。

 だが、エーテルが右手を上げた。

 とてつもない殺気がロウの肌を突き刺す。

 その殺気を浴び、本能がたった一歩左へ、かつ自然と動いた。

 その瞬間、ロウの右半身が一瞬で消し飛ぶ。

 驚愕の表情を浮かべ、ロウは地面に落ちる。


「な、何だが……!?」


「生物風情が神に抗うな!」


 攻撃の隙も軌道も何も見えない。

 まるで元からロウの右半身がなかったかのようにあっさりと消滅した。

 これが神の力とロウは冷や汗をかく。

 消し飛んだロウの半身は瞬時に回復し、五体満足に戻った。


「おいおい。その回復速度ぉ、尋常じゃないなぁ。どれだけ人を食ったことかぁ」


「覚悟は……決まっている」


「悪魔になってまでかぁ。面白い」


 ロウとエーテルは鋭い目つきで睨み合う。

 呼吸すらも許されない程の殺気がぶつかり合う。

 この殺気から逃れたのはエーテルであった。

 神とは言え、本調子ではなく、ましてや死体の体を借りている状態では大量の人間を食い、力を溜め込んだロウ相手には苦戦は免れない。

 最悪、死に至ってもおかしくない。

 生物の究極の位置に立つロウは最早、神であるエーテルですら無視も油断もできない相手であった。


「今のままでは流石に勝てん。だから、代わりにこいつと戦ってもらおうかぁ!」


「こいつ?」


「我が愛するペットだ!」


 エーテルは光から剣を抜き、蹴り飛ばす。

 力の抜けた光の体はふわりと宙に浮く。


「光!」


 地面を強く蹴り、ロウは跳ぶ。

 放物線を描いて落ちる光を掴もうと限界まで手を伸ばす。

 光もロウに救われ、殺される為に手を伸ばす。

 互いの手が後数センチで触れる。

 その瞬間だ。

 光の丁度真下の固い石の床から、巨大なる異形が現れる。

 それは巨大なワーム。百メートルをも超える大きな体は特撮作品の怪獣そのもの。

 瞳はなく、長い二本の触覚に何十本もの鋭い牙を生えている大きく丸い口。

 気味の悪く滑りのある赤黒い体表から人間の腕や脚、頭等の体の一部が生えている。

 リヒトは処分された人間は食料になると言っていた。

 グロテスクな見た目を目の当たりにして、合点がいった。

 処分された人間はあの怪獣の食料だったと。

 ワームは大きな口を開け、


「お兄……ちゃん!」


 光を飲み込んだ。


「光!」


「さぁ、覚醒せよ! ヴェルノアーガ!」


 ワーム――ヴェルノアーガは光を飲み込んだ瞬間、気色の悪い呻き声を上げながらのたうち回る。

 巨大な体がのたうち回ることで城はやがて崩れ落ちていく。

 瓦礫の降る中、ヴェルノアーガの体が段々と固い外皮に変化していく。


「美しい! 下等な人間の肉がこんな美しいものになろうとはなぁ! 素晴らしい!」


「人を……なんだと思っている!」


「ただの材料だ! 貴様達が牛や豚の肉を食すように人を食わせただけだ!」


「違う! お前のはただの虐殺だ!」 


「違わなくない! 命を食わせただけ! なまじが知性があるだけで自分達の存在を棚に上げる! それが愚かしさだ!」


「違う! 命に対する敬意を払わないお前なんかと!」


「下等な存在に敬意など払う物かぁ! 我は神ぞ!」


「神なら……何をしてもいいと言うのか!」


「そうだとも!」


 ロウは諦めた。

 エーテルと話にならない。

 完全に生物を見下し、自身が頂点にいると疑わない。

 止めるにはエーテルそのものを殺さなくてはならない。


「さぁ、救世主よぉ……忌まわしき怪物を殺せるかなぁ!!」


 エーテルは高笑いを上げる。

 そして、まるで糸の切れた操り人形のように事切れた。

 元あるべき死体に戻ったリヒトの頭はコロコロと転がり、やがて瓦礫に押しつぶされる。


「エーテル! お前は! 絶対に許さない!」


 ロウは怒りのあまり叫んだ。

 人の命を道楽のために奪い、死んだリヒトまでも利用し、光を手にかけた。

 許すことなどできなかった。

 世界を仇なす神を何が何でも、命と引き換えにしてもエーテルを殺さなくてはならない。

 そして、その前に目の前にいる怪獣を仕留めなければならない。

 まるで鬼のような鋭い目つきでヴェルノアーガを睨む。

 急速にワーム型からサナギへと変化していた。


「いくぞ……。俺も世界を救う為に……鬼となってやる!」


 ロウは変身する。

 複数人を食らったことで得たエネルギーは凄まじく、変身するだけで体が焼けるな苦痛を味わう。

 悲鳴に似た絶叫が響き渡る。

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