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宿命

 夢は終わり、二人は現実の世界に戻った。

 現実らしい張り詰めた空気が流れている。

 血の繋がった兄妹でありながら殺し合わなくてはいけない残酷な宿命。

 この宿命からロウは逃げなかった。

 ここで光を見過ごせば無関係な人間がさらに命を落とす。例え、望んだ結末だろうとエーテル覚醒スキルの礎になり、世界の均衡を崩れるならば鬼となっても止めなくてはならない。

 今まで犠牲になり、ロウの命を差し出した人々の存在を無駄にしない為にも。

 そして、これ以上、光の罪を増やさない為にもロウは覚悟を決めたのだ。


「言ってたよな。俺になら殺されてもいいって。だから、俺が殺す」


「本当に殺すの?」


 光の言葉にロウは黙って首を縦に振る。

 ロウの固い覚悟を受け取り、光は大きく深呼吸をする。

 そして、


「ありがとう。お兄ちゃんならそう言ってくれると思ってた」


 と言い放った。

 怒り、悲しむどころか頬が緩んだ笑みを浮かべ、感謝を見せた。

 殺意はなく、本当に心の底からロウの選択を喜んでいた


「ちゃんと思われて、理解されてから殺されたい。愛されながら……逝きたいの」


「だから、見せたのか。人生を。わざわざ、両親を殺したことも含めて」


「私はお兄ちゃんが思っているほどいい子じゃない。それを含めて、私だから。保谷光という人間だから」


「……そうか」


「私は誰でもない保谷光という人間として命を終えたい。それができるのはお兄ちゃんだけ」


 前の世界では人間と扱われず、思われることなく光は死んだ。

 戦前から両親から家の汚点として、クラスメイトからサンドバッグ。そして、最期の瞬間は性玩具として扱われ、人間として扱われていなかった。

 そんな光の願いが人間として死ぬこと。願いとして至極哀しく、それでも光にとってはこの上ない幸せ。

 その最期を導けるのは心の底から愛し、光の正義も悪も理解したロウしかいない。


「……わかった。俺は世界も救って……光も救う」


 光が拉致された時、ロウは救えなかった。

 だからこそ、今この瞬間は光が望みを叶えてやりたい。

 それがこの手にかけることになっても。光が死を望むなら、兄として殺したくないという当然の思いを押し潰してでも。


「危ない!」


 光は瞳孔を限界まで見開く。

 まるでロウの背後に得体の知れない何かを見たかのように。

 そして、光は咄嗟に駆け出し、ロウを突き飛ばす。

 暴力や殺意はないあるのは、ロウの身を案じる優しさ。

 ロウは何も状況を飲み込めず、あ然とし、不意に光に手を伸ばしたその瞬間。

 光の胴体を背中から剣が貫いた。


「光!!」


 光は口から血を吐く。

 誰が光をと光の背後を睨む。

 剣の持ち主にロウは衝撃を受ける。

 おかしい。あれはここにいるはずがない。

 あれは首を切り落とし、確実に息の根を止めたはず。

 それなのにどうして、ここにいる。


「ダメじゃあないか。勝手に死んじゃあねぇ」


「お前……どうして生きてる! リヒト!」


 リヒトはゆっくりとロウに視線を向ける。

 首を切り落としたはずがリヒトの頭は胴体と綺麗にくっついていた。

 そして、ニタニタと不気味な笑みを浮かべる。

 様子がおかしい。

 戦った限り、リヒトは紳士的な人間であり、不気味な笑みを浮かべるような人間ではない。

 それに言葉遣いも全く違う。

 リヒトの面を被った別人にしか見えなかった。


「お兄ちゃん……これはリヒト……じゃない」


「お初にお目にかかる。保谷ロウ」


「誰だ……! お前は!」


 リヒトの姿を模倣し、光を背後から刺す外道。

 これの正体はロウをこの世界に転生させる要因となった黒幕であった。


「我はエーテル! この世界を統べる絶対神だ!」

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