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隔絶

核戦争後の生活のイメージを掴む為に「SF 核戦争後の未来 スレッズ」という映画を観たのですが、あまりにも残酷で悲惨、救いがないラストに十秒くらい放心状態になりました。



 終わりの始まりはさざ波のように静かだった。

 いつもの変わらない授業の最中。しんと静まり返った校内を切り裂くように突然サイレンが鳴り響いた。

 聞いたこともないサイレンの音。身の毛がよだち、緩んでいた緊張の糸を無理矢理にでも張らせる不穏な音。

 サイレンが鳴り終わると今度は教室に備えつけられた電話が鳴る。先生は慌てて、受話器を取る。話が終えると先生は「自習をしていなさい」と一言残して、教室から飛び出る。

 授業が中断したにも関わらず、誰も喜びはしない。

 誰が痛感した。これは非常事態だと。

 居心地が悪い張り詰めた空気が教室を支配した。

 時間にして約三十分後。教室に先生が戻ってくる。

 そして、「直ちに下校するように」と短く命令する。

 先生の表情は酷くは強張っていて、まるで世界の終焉を目の当たりにしているようだった。

 何が起きているのか説明されないまま、光達は帰路につく。

 いつもと変わらない帰路がいびつに感じた。明らかに非常事態が起きているにも関わらず、風景は全く変わっていない。建物が倒壊しているわけでも、戦火に包まれていてもなければ死体が転がってもいない。

 平和な日常ならそれでいいと思いながら、光は家に到着した。

 家には既に母とロウがいた。


「光……大丈夫か?」


「うん。……何があったの?」


「……核戦争が起きたみたいだ」


「……え?」


「前からA国とB国が緊張状態とはニュースで言っていたけど、こんなことになるなんて」


 光は状況を上手く呑み込めなかった。

 核戦争などフィクションの舞台でしかないと思っていた。

 核戦争が自分が認識する間もなく起こった。

 人類滅亡、地球崩壊のカウントダウンが始まっている可能性があるにも関わらずだ。

 未曾有の事態を知らない自分がこの世界の住人ではない、ハブられた存在と思い込んでしまう。


「今はどうなっているの?」


「わからない。情報が流れてこない。多分、電磁パルスの影響が衛星にまで……」


 一体、これから先、どうなるのだろうと光は不安に思った。

 だが、同時に抱いてはいけない喜びがあった。

 世界が滅亡すれば自分を蔑ろにしていたクラスメイト達やその他の人間は苦しみながら死ぬ。そのことを想像すると、心が浮き立った。

 自分を理不尽に突き放した世界が終わると思うとざまあみろと愉快な気持ちになった。

 もう二度と自分だけが理不尽な悪意に苦しめられることはない。皆、平等に苦しむことになる。光自身は何もしていないが世界に復讐した気分になった。

 この時だけた。核戦争が起きたことを喜んだ瞬間を。

 光は知る由もなかった。これから味わう地獄は今まで受けた苦しみとは比ではない苦しみを味わうことを。

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