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催眠

本来は男性に望まない性行為を強要された少女から汚れを祓う為に光が儀式という名目の性行為を行う予定でしたが、普通にR18要素なので泣く泣くカットしました


ぴえん。

「お兄ちゃん、帰ってこないなぁ……」


 王の間にある玉座に腰掛け、退屈そうに脚をブラブラと揺しながら、光はロウの帰りを待っていた。

 退屈な公務も終わり、やっと最愛の兄との幸せな時間が過ごせると浮かれていたが、その肝心の兄が帰ってこないのだ。


「えっと……まずは一緒にご飯を食べて、それから……そうだ! 一緒にお風呂にも入って!」


 ロウが帰ってきた後のことを考えて、退屈な時間を潰す。

 だが、この予定は叶わないかもしれない。

 もしかしたら、このまま帰ってこないということもありえると光は覚悟している。

 兄妹とは言え、今は殺し合う敵同士。のこのこと光の元に帰ってきては隙を晒すことは命に関わること。

 いつでも殺せるようどこかの物陰で好機を伺っているかもしれない。

 それに光の右腕であるリヒトがロウに激しい敵意を向けていた為、不意に攻撃を仕掛け、戦闘になっているかもしれない。

 ロウが本気を出せばリヒトでは太刀打ちできないのは安易に予想出来る。しかし、本気を出せないのであればリヒトに圧倒的有利。

 リヒトが死のうが光にとってはこの蟻が死ぬくらいどうでもいいことだが、ロウなら別だ。

 敵とは言え、最愛の兄が死ぬのを見届けるのは酷く辛い。

 それにロウが死んだら誰が自分を殺してくれるのか?

 光はロウ以外に殺されたくはない。最愛の人に愛情でも憎悪でも構わず、特別に思われながら死にたいと願う光はもし、ロウが死んだら後を追うつもりだ。

 

「ちゃんと……生きて帰ってきてよ」


 ポツリと言葉を呟いたその瞬間。まるで、爆弾が爆発したのかと思える程の大きな揺れが城を襲う。

 光は瞳を輝かせ、顔を上げる。


「プ、プリンセス!! 大変でござい」


 王の間の扉を開け、燕尾服のコスチュームに身を包んだ着ぐるみが飛び込んでくる。

 しかし、着ぐるみは最後まで言葉を発することなく、体を縦半分に切り裂かれる。

 着ぐるみから赤い血飛沫が噴き上がる。周囲には臓物が乱雑に飛び散る。

 足元でグロテスクな出来事が起きているにも関わらず、光は動じるどころか


「お兄ちゃん……」


 着ぐるみだったものの背後にはロウがいた。

 全身には赤いを血を浴び、ロウの背後には着ぐるみ達の無残な遺体が転がっている。


「どうしたの。こんなに暴れて……」


 ロウを悪魔のような鋭い目で光を睨みつける。

 兄のもう一つの姿に恥じない鬼のような形相と口元に付いた血を見て、光は確信した。

 自分を殺す気でいると。

 光は笑みを浮かべた。恐怖はなかった。

 元々、ロウになら殺されても、殺されたいと願っていた光にとって、ただ夢が叶っただけのことだ。


「どうして、あんなことをした!」


「全て……知ったんだね」


 だが、『殺してくれる人ロウがいい』と言うだけで、死にたいわけではない。

 残念ながら無抵抗に首を指す出す程、光は利口な妹ではなかった。


「光!」


「……そっか。お兄ちゃんにはわからないもんね。それならしょうがないよね」


 怒りでヒートアップするロウは声を荒げる。

 一方で光は反対に実の兄に敵視され、殺意を向けられているにも関わらず、平然としている。

 それどころか自分の行いを理解できないロウを嘆き悲しんでいる。

 そして、光はゆっくりと階段を降りる。


「光……何を言っているんだ……?」


 ロウは戦慄した。

 屈託のない笑みを浮かべながらも、ハイライトのない瞳でロウを見つめる光はまるで人形のような不気味さを漂わせている。

 そして、どんな理由であれ、人を死に追いやっても尚、それを罪と思わない光がまるで化けの皮を被った悪魔なのではと疑ってしまう。

 もう、ロウの知る光はもういないという事実を受け入れるしかなかった。


「お兄ちゃんは『恵まれた人』だから。私のような……『持たない人』の気持ちも考えも理解できないんだよ」


「恵まれた……」


「お兄ちゃんと私は光と影なの。おかしいでしょ。私は光って名前なのにお兄ちゃんの影なんだよ」


 光は階段を降り切るとロウの目の前まで迫る。

 殺意を向けているにも関わらず、いつも通りの妹として振舞う光に手を出すことができなかった。

 最愛の妹をそう簡単に殺すことはできない。どうしても、兄としての情が邪魔をする。

 それに光がロウの影という言葉に気を取られてしまった。

 ロウは兄として光のことを十分理解していると思っていた。

 しかし、ロウが気づけなかった何かが光にはある。もし、その何かが原因で、光が過ちを犯しているのであれば、それは兄としての責務を果たせなかったロウの罪でもある。

 光の影を、自分の罪を知らないまま、終わらせることをロウはできなかった。

 その甘さが隙を生んでしまった。


「だから、見せてあげる。私の……全て」


 まるで子供をあやすような優しい声色の光。 

 そして、正面からゆっくりとロウに抱き着く。


「夢を……見せてあげる」


「……光」


 ロウの鼻孔に甘ったるい匂いが侵入する。

 アロマのような心地のいい匂いはロウから力と意識を奪う。

 膝からゆっくりと崩れ落ち、光に脱力した体を支えられる。

 瞼がゆっくりと閉じていき、世界が暗転していく。

 意識が暗い渦に吸い込まれていく。

 朦朧とする意識の中でロウは微かな声を聞いた。


「ごめんなさい」


 光の謝罪の言葉と涙が零れた音を聞いた瞬間、ロウの意識が途切れた。

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