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情景

「遊園地か……」

 

 光に連れられて、初めに向かったのは遊園地であった。

 上空から見えた観覧車やそれ以外にメリーゴーランドやジェットコースター等があり、至って普通の遊園地。

 しかし、ロウにとっては普通なんて言葉では片づけられない懐かしい雰囲気を感じた。


「なぁ、ここって」


「うん。昔、よく行っていた遊園地を再現したの」


 ロウは「やっぱりな」と呟く。

 小さい頃に家族でよく遊びに行っていた遊園地に酷似していた。


「私にとって、大切な思い出の場所だから」


「俺もそうさ」


 核戦争によって世界は崩壊。遊園地なんて存在はたちまち廃墟になって、楽しい場所から雨風を防げるただの建物へと風化した。

 もう二度と遊園地で遊ぶことはないと思っていた。平和だった頃の幸せをもう味わえないはずだった。

 しかし、不思議な話だがまた楽しむことができる。それも亡くなったはずの妹と一緒に。

 平和だった頃の数少ない思い出。色褪せていた情景が鮮明になっていく。


「お兄ちゃん! 早く早く!」


 光は先へ先へと感傷に浸っているロウをおいて、進んで行く


「バランス崩して、倒れるなよ」


「大丈夫だよ……うわっ!」


 偶然、横に通りかかった通行人と肩が当たってしまい、光は後ろにゆっくりと倒れ始める。

 ロウはすかさず走り出し、光の腰を抱いて、体を支える。


「言った傍から……」


「えへへ、ごめんなさい」


 光は可愛らしい笑みを浮かべる。

 一国を統べる王女になっても相変わらず抜けた部分は直っていないようで、目が離せない。

 本来ならまるで成長していないと落胆する場面だろう。しかし、ロウにとっては王女という地位に立っても、転生しても昔と変わらずにいたことが嬉しく、安心した。


「相変わらずだな、光は」


 ロウはそっと光の手を握る。


「お兄ちゃん?」


「いや……はぐれないように……転ばないように手を繋いだだけだ」


 幼い頃は一人でどこかに行ってしまう光を繋ぎ止める為、ロウはずっと光の手を握っていた。

 成長してからは流石に恥ずかしくなり、光も落ち着き始めた為、手を繋ぐ機会はなくなった。

 だが、今は光が子供に戻ったようにはしゃぐのともっと温もりを感じたいという細やかな我儘からロウは手を繋いだ。

 羞恥等はなかった。周りからどう見られようと光と一緒ならそれで良かった。


「うん! 絶対に離さないよ!」


 光は満面の笑みを浮かべ、ロウの手をぎゅっと握り締める。

 それから二人は並んで園内を歩き周り、様々なアトラクションを楽しむ。

 ジェットコースターに乗って、腹の奥から叫び、スリルを味わったり、メリーゴーランドでゆったりと流れる時間を楽しむ。

 お化け屋敷にも入ったが、ロウ達にとってお化けら幽霊といった類よりも理性を失った人間の方が恐ろしいものという認識だったため、全く楽しめなかった。

 一通り、アトラクションを楽しんだ後は売店で甘いバニラ味とチョコレートのアイスクリームを購入し、近くのベンチに隣り合って座る。


「光はバニラだよな」


 ロウは光にバニラ味のソフトクリームを差し出す。すると、光は「ありがとう」と言い、満面の笑みを浮かべて、ソフトクリームを貰い、早速味わう。


「やっぱり、疲れた後に甘い物は最高だよ」


 隣でソフトクリームを味わい、幸せそうな光を見て、ただロウは嬉しかった。

 滅んだ世界で光は一切笑顔なんて浮かべておらず、ずっと死んだような変化のない仮面のような顔だった。

 もう二度と光の笑顔を見ることは叶わないと思っていた。死んだということもあるが生きていた時も地獄のような環境で一秒でも長く生きるのに必死で、そもそも笑えない程過酷な経験をしてきた為、笑顔を奪われたからだ。

 それがこの世界ではすっかり取り戻し、笑っている。

 ただただ、感慨深かった。


「お兄ちゃん、もーらい!」


 感傷に浸っていると光が顔を近づけ、ロウのチョコレート味のソフトクリームをパクリと頬張る。


「うぇ!?」


「隙ありだよ」


 光は口回りに付いたソフトクリームを舐め、悪戯な笑みを浮かべる。まるで小悪魔。そんな姿ですらロウには愛おしい。


「光……まぁいい。それより、まだ口に付いてるぞ」


 そう言って、ロウはポケットからハンカチを取り出し、光の口を拭こうとする。光はロウに甘えて、顔を前に出して、取ってもらおうと任せる。


「まぁ、嘘なんだけどな」


 ロウはニヤリと笑い、光のソフトクリームを頬張る。


「あぁ!」


「お返しだ」


「もう! 大人気ないよ!」


「いや、大人じゃないけどな」


 そう反論すると光は「そういえば」と納得する。

 確かにロウは同年代の人間と比べれば、大人びているどころか達観しているがそれでもまだ十七の青い男だ。

 今までは子供という弱い立場でいれば死ぬしかない、弱肉強食の世界で生きていてため、無理にでも背伸びをして、大人にならなければならなかった。

 しかし、背伸びはずっとしていられるものではなく、何度も倒れたことがある。

 見栄なんてものは張るものではない。子供なら子供らしく振舞うのが一番いい。

 ここならロウも一人の子供として生きていける。それくらいこの楽園は安全で平和な場所だった。

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