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小粋

 空き家で眠っていたロウが目覚めると外はすっかり暗闇に落ちていた。

 月明かりが窓から差し込んでいる。昼間とは打って変わって非常に寒い。

 楽園について話を聞いた後、老人からご馳走を頂いた。ご馳走と言うが、殆ど干し肉といった保存食ばかりで高級店に比べれば流石に劣る。

 しかし、この作物が育ちにくい過酷な環境で食料をたらふく食べれることは幸福だ。

 それに誰かと楽しみ、話しながら食べることは最高の調味料となる。

 久々に人と話しができたということとお酒も飲んでいたことでで老人はかなり饒舌であった。過去の武勇伝だったり、この世界のことなど色々と語ってくれた。そのどれもがロウにとってどれも興味を惹く話で面白かった。

 中学に入学する前に亡くなった大好きな祖父と話している感覚で、正直泣きそうであった。

 孤独なロウにとってはこれ以上ない幸福だった。このままここでゆっくりとスローライフを楽しみたくもあった。

 だが、転生者というこの世界の癌であり、数多の命を奪ってきたロウに許されない幸福。

 ロウは幸福を脅かす転生者を倒す為に旅を続けなくてはいけない。それが使命であり、贖罪なのだ。


「行かないとな」


 毛布を畳み、部屋の隅に置く。リュックから着替えを取り出し、赤いジャケットを羽織り、黒いスボンを履く。

 出発の準備が整い、いよいよ家から出る。

 恐らく老人は見送りはしないだろう。かなりの量、アルコールを摂取していて、食べ終わった後はいびきをかいて寝てしまった。それに男の別れに潔くあるべきだと豪語していたからだ。


「これは?」


 ドアを開けると、足元に固い何が当たり、コロコロと転がる。

 ロウはその転がる物体を目で追う。転がる物体は二本の水筒だった。

 ロウは一本の水筒を拾いあげ、マジマジと観察する。至るところ傷や凹みがありお世辞にも綺麗なものではなかった。

 しかし、この乾いた土地では水はかなり貴重だ。それなのにあの老人は二本もくれた。


「ありがとうな」


 本当に粋な計らいをしてくれると礼を呟くと、水筒をバッグに仕舞い、肩にかける。

 老人の家に向かって深く頭を下げるとロウは歩き出し、名残惜しさを感じながら村を後にする。


「さあ、行くか。楽園に」


 行く先は決まっていた。楽園に向かい、そこがどんな場所なのか確認する必要があった。

 転生者が作り出した場所なのか。そうなら楽園に辿り着いた人々の末路はどうなるのか?

 生贄として殺されるのか。それとも、普通の人間が統治していて、本当に幸福だけが存在してるのか。

 どちらにせよ確認する必要がある。転生者が関わっているなら殺さなくてはならない。


「それにしても、どうすれば楽園に行けるのか」


 しかし、肝心の場所が不明であった。

 空飛ぶ機関車に乗ると言っても肝心な乗り方がわからない。

 何処かに駅でもあるのだろうか? 

 周りを見回しても駅らしい建物もな線路もない。指針すらもなく、早速ロウは路頭に迷った。


「望めば希望が手を差し伸べる」


 老人の言っていた楽園への行き方。

 果たしてこれが比喩的な意味なのか、それとも言葉通りなのか。

 何にせよ、当てとなるものがこれしかない以上、試す他なかった


「俺は……楽園に行きたい。だから!」


 疑い半分で願いを口にしたその時だ。空から汽笛の音が聞こえてくる。

 そんなまさかと冗談半分で空を見上げる。


「……本当なのかよ。空を飛ぶってのは」


 幻想的な光景に啞然とする。

 星が散りばめられた夜空を煙を吐きながら駆けるピンクの機関車。

 機関車の下にレールはない。飛行機のようなエンジンもなければ気球のようなものもない。どういった原理で飛んでいるのかさっぱりわからない。

 そもそもどこから来たのか?

 機関車が目の前に停まる。ロウは奇々怪々な機関車を観察する。


「この機関車……見覚えがある」


 ピンクの機関車。

 昔、まだロウが小学校に入学したばかりの頃。家族で遊園地に遊びに行ったとき、妹と一緒に乗ったアトラクションの乗り物がピンクの機関車だったことを思い出した。

 小さな敷地をゆっくり回るという正直、地味なアトラクションだったが妹は気に入っていて何度も乗ったことが印象に残っている。

 

「……懐かしいな」


 感傷に浸っていると、車両の扉がスライドし、開く。

 ロウは恐る恐る、車両に足を踏み入れる。

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