過酷
熱風が荒野に吹き荒ぶ。乾いた大地を踏み締める度にザクザクと砂と靴底が擦れる音が奏でられる。
空から容赦なく降り注ぐ熱い日差しはロウの白い肌に突き刺さり、全身から汗を噴出させる。
「かなり……厳しいな」
身を焦がすような暑さに流石のロウも弱音を吐く。
出発地点であるアルフレッド村を出て、既に半日以上経過していた。
周囲には何もなく、地平線の果てまで望める殺風景が広がる。歩けど歩けど、全くと言ってもいいほど村といった集落は一切に見たらない。
「次の村まで遠いと聞いていたが……ここまでとは」
顎に滴る汗を拭う。
アルフレッド村で聞き込みをしていた時、次の村まではかなり遠いと忠告は受けていた。
遠いだけなら問題はなかった。道中に雨風、日差しが防げて睡眠が取れそうな洞穴や木があればロウ十分っ立った。
しかし、現実は甘くない。まさか、何も存在しない荒野を歩くことになるとは考えていなかった。休憩を取るにしても強いを日差しを防ぐものはなく、それなら休憩を取らず一秒でも早く村に到着した方がいい。
早く村に着かないかと願うものの見晴らしが良すぎるが故に村が全く見えないという現実がロウの精神を蝕む。
「早く……見えてくれ……」
弱音を吐きながら歩き続けること約二時間。ようやく目的地らしき村の建物が米粒程の大きさではあるが見え、ロウは歓喜する。
正直、村まではまだ一時間程かかると見受けられが、それでもゴールが見えるだけマシだ。
「やっと着いた……」
予想通り、一時間後。ロウはようやく目的地のシガナイ村に足を踏み入れる。
これで体をゆっくりと休めることができると喜び、安堵の息を漏らすつもりだった。しかし、妙な雰囲気だとロウは首を傾げる。
目につくレンガ造りの家は壁が欠けていたり、窓が割れたりしていた。道端には壊れた台車が転がっている。何より日中という人間の活動が盛んになる時間にも関わらず、人の気配は全くない。少し村の中を歩いても村人には一人も会えなかった。
「この村は……死んでいる」
「そう、このこの死んでしまった」
「誰だ!」
声が聞こえた方向にロウは体を向ける。
「その台詞は儂こそが相応しいが」
ロウの視線の先にはくたびれた服姿に白髪の老人がいた。
服や顔には土がついており、後ろには作物が僅かに乗せられた台車があった。。
「……すまない。勝手に入って」
「いや、仕方ない。こんな寂れた村だ。廃墟と勘違いするのが妥当だ」
老人は物寂し気に答える。
一体、この村で何が起きたのだろう。もしかして、転生者が関わっているのか?
断定するのはまだ早いうえに疑いすぎるのは良くない。それに感情的になって下手に首を突っ込むとまたリーンドイラのような惨劇を引き起こしかねない。もうリーンドイラの以上の惨状かもしれないが、この老人を悲しませ、死なせることになればロウの心に再び深い傷を負うことになる。
「なぁ、次の村までどれくらい距離がある?」
「近くの村までは歩きなら三日以上かかるぞ」
「本当か?」
「あぁ、それにこれからの時間、気温が異常に高くなる。炎天下の中、歩くつもりか?」
「それは……本当か」
ロウは転生者という人間をはるかに超えた力と生命力を持つ。一日程度、食事や睡眠取らずとも活動はできるし、過酷な環境でも普通の人間と比べて適応できる。
しかし、あくまで活動ができるだけで万全の状態を維持できるわけではない。特に戦闘を行うロウにとって僅かな疲労や脱力感の有無で生死を分ける可能性もある。いくら厳しい環境に適応できるとは言え、そもそも栄養や休息を取らない状態では普通の人間と耐性は変わらない。
どんなに力があってもロウは転生者という生命体だ。神のように万能で隙のない存在ではない。食事や水分、睡眠をとらなければ死に至るし、凍土や火口付近に長い時間滞在していても死ぬ。
「何、勝手にどこかの家で休んでいろ」
「でも、戻ってくる可能性は……」
「どうせ戻ってこないのだから勝手に家を使っても問題はない」
「そうかもしれないが……」
そう呟いた瞬間だ。ロウの腹が悲鳴を上げる。
「こ、これは……」
「体は正直だな」
ロウは顔を真っ赤にし、腹を抑える。
一応、半日前に食事はした。しかし、この村に到着するまで高温の下、休むことなくひたすら歩き続けていた。腹が減るのも致し方ない。
「折角の尋ね人だ。歓迎しよう」
老人は豪快に笑い「着いてこい」とロウに命令する。
あまりの恥ずかしさにロウは今すぐこの村を去ろうと考えていた。
しかし、拒絶するかのようにもう一度腹から悲鳴が上がる。
結局、本能と空腹には勝てず、泣く泣く老人の後を付いていくのであった。




