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寝食

 日が段々と沈み始める。

 タウシェンが「今日はここまで」と言ったことで今日の修行は終了した。

 ここは森の中。街灯なんて物は存在せず、日が落ちればあっという間にこの場は闇に包まれる。そうなってしまうと右も左もわからず、元居た道場に帰れず、何もない森の中を彷徨うことになる。

 タウシェン曰く、この森には獰猛な動物が生息しているらしく野営は非常に困難らしい。

 その為、ロウは厳しい修行終わりで疲労困憊にも関わらず、タウシェンに「早く帰るぞ」と鞭打たれる。

 ロウは笑う膝を無理矢理を動かし、急いで今朝、訪ねた館に戻る。


「タウシェンさん。お帰りなさい」


 崖を登り、足場の悪い岩場を超え、やっとの思いで館に就くと門の前で茶髪の青年が箒で葉や塵を払っていた。


「おう、丁度いい。ガク、お前の部屋って空きがあるよな」


 すると、タウシェンはそう聞くとガクと呼ばれる青年は首を縦に振る。

 それなら決まりだなとタウシェンは指を鳴らし、ロウを見る。


「そんじゃあ、ロウ。お前はガク達の部屋だ」


「え? あぁ」


「僕は一応室長のガクです。これから一緒に生活する仲間としてよろしくお願いします」


 そう言えばどこで寝泊まりすればいいか気になったところだったが、その問題はたった今、タウシェンの気まぐれで解決した。


「保谷ロウだ。よろしく頼む」


 ガクは丁寧に頭を下げる。一方で、ロウは頭を下げることなく、短く一言で済ませる。


「そんじゃあ、ガク。後は任せるぜ」


 タウシェンがガクの肩を叩くと、ガクは声を上ずらせながら「はい」と元気よく返事をする。ガクの顔はほんのりと赤くなっていた。

 そして、タウシェンは「それじゃあ、また明日な」と手を上げ、格好をつけてロウ達とは別の裏にある館に戻っていった。

 ロウとガクを繋いでいたタウシェンがいなくなり、二人の間に気まずい空気が流れる。そんな空気を破ろうとガクがまず「それではご案内します」と言って、ガクはゆっくりと歩き出す。その後をロウがカルガモの子供のように付いていく。

 それから間もなくして、九と彫られたドアの前でガクは立ち止まる。

 

「ここが僕達の部屋です」


「あと、彼はルームメイトのチカゲとヒナタです」


「あなたはタウシェンさんと一緒にいた人! よろしくお願いします! チカゲです!」


 見た目通り、元気溌剌なチカゲはまるでアイドルのような眩しい笑顔と仕草でロウとの距離を縮めようとする。

 しかし、あまりの勢いの良さにロウは一歩、後退る。


「あの子はヒナタ。少し引っ見込みじあんだけど本当にいい子だから」


 そんなロウの心境など露知らず、チカゲは意気揚々と話を続ける。

 チカゲが指差す先にはヒナタという少女がまるで怯える小動物のような表情で俺を見つめている。

 ヒナタはチカゲと違って盲目的ではないようだ。感心するが残念なことにヒナタの反応は至極普通だ。


「……なぁ、いいのか?」


「え?」


 今、この空間ははっきり言って異常だ。

 それなのにロウ以外の三人はそのことに全く気づいていない。というより、この空間に慣れてしまっているのだろうか。もしくは、受け入れているのか。

 だが、新参者のロウにはいささか簡単に受け入れられることはできない。

 つい先日、キャシーという少女と一夜を共にした後に、この口で食らい、トラウマを抱えているなら尚更だ。


「いや……男と女が一つの部屋で寝食を共にするのは……」


 年頃の男女が同じ部屋で寝食を共にする。正直、


「私は気にしないです。特にあなたはタウシェンさんに認められているから良い人だと思うし」


 チカゲの能天気な言葉にロウは溜息を吐いて、呆れる。

 

「アホか。いくらタウシェンを信用しているとは言え、俺までも信用するなんて」


 尊敬している人と関わっている人間が必ずしも同じように尊敬に値するとは限らない。

 現にロウは生きるために他人をこの手にかけてきた罪人だ。


「とういうか俺以前にガクはいいのか?」


「それに関しては問題ないです。僕、興味ないんで」


 喉が石が詰まったような感覚に陥って言葉が喉を通らない。

 この際、性的趣向なんてどうでもいい。恋や愛の対象は同性だろうも無機物だろうとその人の自由だ。決して否定してはならない。

 それでもロウは一言だけ言いたかった。


「……そういう問題なのか?」

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