日常
「帰るぞーシュウ」
終わった、この時期に昼の2時なんて奇跡だ。
「はい!おつかれっした!」
言って元気良く挨拶をするシュウ、なんと言っても今日は土曜日なのだ。テンションが上がっても仕方のないことだろう。
「元気いいな、今から別現場行くか?」
「勘弁してくださいよ、昨日だって寝てないんですから」
親方の冗談にたいして明らかにテンションが落ちていく。それも仕方ないだろう、なにせ昨日は一日中仕事をしてそのまま別の仕事場に向かったのだ。
「ははは、冗談だよ。」
疲れたように笑って返してくる親方にシュウも苦笑い。
だがその目は明日の休み、いや、今から何をするかを考えるように泳がせている。
「若いからってあんま遊びすぎんなよ。ただでさえ寝れないんだ、事故ったら馬鹿みたいだろ?」
「大丈夫っす、気を付けます」
心配してくれる親方は本当にいい人なのだろう。シュウは自分の母を思い出しながらこの人が父親だったら、なんて思ってしまった。
「まぁいい、月曜は5時発だからな、遅れんなよ」
「了解です。じゃあ帰ります」
「おう」と手を上げて返してくれる親方に頭を下げて車に乗り込む。
スマホを取り出し電話帳を開いて目的の名前をタップする。
2~3コールの後に目的の人物は電話に出た。
『ぁい』
「俺だけどって、大丈夫か?」
相手の声を聞いて思わず尋ねてしまう。それはそうだろう。その相手の声は今にも死んでしまいそうなほど掠れていたのだから。
『だいじょぶくない、頭かち割れそうなぐらい痛いよ』
「お前そりゃ飲みすぎだ、また飲まされたのか?」
『まぁね、女こわい』
その返答を聞いて苦笑いする。
そいつは飲み屋街でボーイの仕事をしているのだが、事あるごとに仕事終わりに店の女性に飲まされているのだ。
その酒量は尋常じゃなく毎回土曜日は死んだように寝ているのである。
『でー、なんのよう?』
「あぁ、明日の誘いの電話なんだけど行けそうか?」
『?、なんも聞いてないの?』
「何が?」
『明日中3の時の同窓会?があるらしいけど、連絡来てない?』
その言葉を聞いて記憶を巡らせる。
即ち、来ていないと
「聞いてないんだけど?え、俺だけ除け者ですかねそれ」
『んー、一応全員にいったって言ってたけど・・・あ』
電話の人物は記憶を巡らせて考えていたが、次の瞬間には何かを思い出したのだろう、言葉に詰まりながらも言い訳をしだした。
『あーシュウ?あのね、ほらやっぱり人っていうのは失敗と成長を繰り返していくものだと思う訳なんだよ』
「それで?」
シュウの返しは冷たい。それで電話の相手も悟ったのだろう、言い訳はきかないことを。
『あははー、ごめんなさい忘れてました』
素直に謝った、最初からそうすれば良かったのだが、考えが及ばないようだった。
「はぁー、まぁいいよ、賢士のいつもの癖だから」
『そう言ってもらえると助かるかな』
あはは~とのんきに笑う友だち高橋賢士にため息を一つ。
「それで時間と場所は?」
それから賢士に時間と場所を聞いて、今日は大人しく寝ようと思い帰るのだった。