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鬼斬り かぐや  作者: はるかわちかぜ
43/406

10.最期の言葉 ◇4

「終わったみたいだなっ」

「ってか、いっつも容赦とかしてたんだぁ~」

「気持ちの問題だろっ?」

 粒栗を倒し終えた輝矢の方を見ながら、笑顔をこぼしつつ暢気な会話をする桜時と由雉。

「さっすが俺の輝矢んっ!!ラブラブリィーンっ!!」

「ちょっとぉ~回想シーンのイメージ壊れるからやめてくんないっ?」

「まったくだっ」

「へぇっ?」

 一花との話の中のクールさは欠片もない、いつものアホ門貴に、由雉と桜時が少しうんざりしたように言う。二人の言葉に首をかしげる門貴。

「あっ、そういや移貴ぃ~お前怪我、ユッキーにぃっ」

「猿蟹合戦に参加した者っ!全員、ここへ集まりぃっ!」

「……っ?」

 門貴が移貴に声をかけようとした時、移貴が集まっていたサルたちにそう言い放った。猿飛をはじめ、猿蟹合戦に参加した若いサルたちが次々と移貴の元へ集まっていく。


『……?』

 その光景を、戸惑うように見つめる二花たちカニ。

「揃ったかっ!?よしっ!」

 二花たちカニの前に、移貴を先頭にしてサルたちがきれいに並ぶ。

『すみませんでしたぁっ!!』

『……っ!』

 一斉に頭を下げて謝る移貴たちに、二花たちカニが少し驚く。

「鬼人に脅されとったとはいえっ…俺らはお前らをたくさん傷つけたっ…」

 移貴がサルたちを代表し、頭を下げたまま言葉を発する。

「俺たちがやったんはっ…猿蟹合戦を裏切る行為やっ…」

「移貴…」

 言葉を続ける移貴を、目を細めて見つめる二花。

「この償いはっ…」

「せやなっ!償ってもらおかっ!」

「えっ…?」

 二花の声に、移貴が戸惑うように顔を上げる。

「二っ…」

「明日っからホンマの猿蟹合戦やろっ!!」

「……っ」

 二花の笑顔に、移貴が思わず目を見開く。

「みんなで誇り賭けて戦おっ!!それが償いやっ!なっ!?猿長っ!!」

「二花っ…」

 移貴が笑みをこぼす。

「みんなもそれでええやろっ!?」

『おおぉーっ!!!明日っからは負けねぇーぞぉっ!サルどもぉっ!』

『そりゃーこっちのセリフやぁっ!!カニどもぉっ!!』

『……っ』

 盛り上がるサルとカニたちを見て、移貴と二花がさらに笑う。

「負けへんでっ?移貴っ」

「おうっ…でも二花ぁっ!!俺、やっぱりお前のことが好っ…!」

「断るっ!!」

「うううっ…」

「懲りへんなぁ~移貴さんも」

 またしても一瞬で二花に断られ、悲しむ移貴を見て、猿飛がどこか呆れたように呟いた。


「“めでたしめでたし”といったところですかねぇ~」

「うん~」

「そうだな」

 月器を元のピアスへと戻し、こちらへとやって来る輝矢の言葉に、由雉と桜時が笑顔で頷く。

「まぁこれでサルもっ…」

「……。」

「……っ」

 輝矢が門貴の方を振り向くと、門貴は憂いを帯びた表情で、静かに風に吹かれる柿の木を見上げていた。そんな門貴を見て、輝矢は声をかけるのをやめる。

「んっ…?」

 そんな時、由雉が風に吹かれて目の前を横切る、白いものに気づく。

「何だろぉ~?これっ」

 その白いものを思わず手に取る由雉。それはとても薄く、小さい花びらのようなものであった。

「ああ、それはっ…」

「……っ」

 由雉に答える桜時の言葉に、輝矢はハッとした表情を見せた。





 数時間後。柿之木山頂上・“猿の村”。

「かぁ~っ!やぁ~っぱ自分の生まれ故郷は落ち着くなぁ~っ!」

 戦いを終え、輝矢たちを別れて一人、村へと戻った門貴は、移貴・猿飛とともに村で最も高い、長老の家の屋根の上へと並んで座っていた。もう間もなく、長かった夜も明けようとしている。

「久しぶりですもんねぇ~三人でここ来るなんてっ。ねぇ?移貴さんっ」

「おうっ…」

「……?移貴さん?」

 返って来る元気のない返事に、猿飛が首をかしげて移貴の方を振り向く。

「まだ気にしてるんですかぁ~?カニさんもみんな、許してくれたやないですかぁ~」

「うぅんっ…」

 気を遣うように声をかけた猿飛に、またもや冴えない返事を返す移貴。

「何でも一人で抱え込むからやろぉ~」

 そんな元気のない移貴に、門貴が声をかける。

「まぁ巻き込むんが嫌で二花に黙っとったんはわかるけどぉ、なんで俺にすぐ言わんかってんっ?」

「……っ」

 門貴の言葉に、移貴が少し顔をしかめる。

「俺が来てすぐ言うといてくれれば、俺や輝矢んがすぅ~ぐ何とかしたのにぃ~」

「ボクもそう言ったんですけどねぇ?移貴さんてば、“門貴にだけは言うなぁ~”って」

「どうせ意地張ったんやろぉ~ったく、昔はすぅ~ぐ何でも頼ってきとったくせにっ」

「だからやろっ!?」

「へっ?」

 急に声をあげ、立ち上がる移貴に、門貴が目を丸くする。

「俺っ…!俺がっ…!何でもすぐお前に頼ってばっかやったからっ…!」

「移貴?」

「ばっかやったからっ…一花ん時もっ…」

「……っ」

 移貴の口から一花の名が出ると、門貴が少し表情を曇らせた。

「俺があん時っ…腕相撲なんてくだらんこと頼まんかったらっ…!お前、一花のこと看取れっ…!」

「看取れんで…良かったんよっ…」

「えっ…?」

 俯いたまま微笑む門貴に、移貴が首をかしげる。

「看取ったりなんかしたら…きっと俺、一緒に死んでもた思うから…」

「……っ」


――門貴っ…!――


 あの笑顔をもし目の前で失ってしまっていたら、きっと耐えられずに死を選んでしまったと思う。一花の死を目にしていないから、まだどこかで生きているのではないかと、またどこかで会えるのではないかと思い、生きていられたのだと思う。

「門貴っ…」

「だから…良かったんよっ…」

「……。」

 笑顔で顔を上げる門貴を見て、移貴は少し辛そうに俯いた。

「そんなこと気にせんと、もっとどんどん頼れやぁ~」

「えっ?」

 門貴が立ち上がり、移貴の肩を叩く。

「何年来のダチやねんっ?俺らっ」

「……っ」

 門貴の言葉に、移貴も笑みをこぼす。

「ああ~でもあん時の約束のバナナ、まだ奢ってもらってへんかったなぁ~」

「へっ?」


――ったく、しゃーないなぁっ、移貴はぁっ…――

――サ~ンキュっ!帰ってきたらバナナ奢っからよぉっ!――


「そういやぁっ…」

 思い出したように言う門貴。移貴も思い返して頷く。

「じゃっ!バナナ十本、よろしくっ!」

「はぁっ?五本でええやろっ?」

「あっ!もう日が昇りますよっ!門貴さんっ!移貴さんっ!」

 長い長い夜が明け、昇った朝日が久々に笑い合う三人を照らした。





 日も昇った柿之木山。柿の木の前。

「……。」

 実の生っている柿の木を見上げ、考え込むように立ち尽くしているモンキ。

「……っ」

 顔を下に向けたモンキが、小さな手の中にある、小さな一粒の種を見る。


――これっ…姉ちゃんがアンタに…“最期の言葉”やって…――


「……。」

 一花が門貴に最期に残した柿の種。

「結局…お前の最期の言葉の意味は…わからんかったな…」

 モンキが少し微笑んで、また柿の木を見上げる。


「なぁっ…一花っ…」

「やはりここでしたか…」

「……っ?」

 麓の方から聞こえてくる声にモンキが振り返る。

「輝矢んっ」

 モンキのすぐ後方へとやって来たのは輝矢であった。

「もう行くんかぁ?ほんなら準備をっ…」

「サルっ…」

「へっ?」

 輝矢が呼びに来たのかと思い、旅立ちの支度のために猿の村へと戻ろうとしたモンキを、輝矢が呼び止める。柿の木の横を通り過ぎたところで、輝矢の方を振り返るモンキ。

「柿の花言葉を…知っていますか?」

「花ぁ?柿に花なんてっ…」

「あるのだそうです…」

 不思議そうにするモンキに答えながら、輝矢が少し山を登り、柿の木の幹に手を触れる。

「咲いている時は目立たず、散って初めて花が咲いていたのだと気づかれるような白い花が…」

「散って…初めて…」

 モンキが考え深げに輝矢の言葉を繰り返す。

「そして…その花言葉は…」

 ゆっくりと柿の木を見上げる輝矢。


「“この美しい自然の中に私を埋めよ”…」

「……っ」

 輝矢から伝えられる柿の花言葉に、モンキが思わず目を見開く。


「この…美しい自然の中に…私を…埋めよ…?」

「ええ…まぁすべてハチの受け売りですけどっ」

 花言葉を繰り返すモンキの元へ、輝矢が歩み寄る。

「だからこの種っ」

「へっ?うわわっ!ちょっちょっとっ…!」

 モンキの手の中から、一花の柿の種を奪い取る輝矢。モンキが焦ったように輝矢に手を伸ばす。

「かっ…!輝矢んっ…!その種だけはっ…!!」

「この種に込められた思いは、“後生、大事に持ち歩け”ではありません。ハチっ!」

「おぉーうっ!」

「ほいっ」

「だああああっ!!」

 柿の木のすぐ横へと現れた桜時に、勢いよく柿の種を投げる輝矢。桜時の横には由雉の姿もある。放り投げられる種を見て、モンキが思わず声をあげる。

「よっ!」

 柿の種を右手でしっかりと受け取った桜時が、種に左手を向ける。

「おっおいっ!イヌっ!何をっ…!」

「まぁ見ていなさい」

「えっ?」

 焦るモンキに、諭すように声をかける輝矢。

「……っ」

 ハラハラとモンキが見守る中、桜時の両手が桃色の光を帯びていく。

「“瞬花”っ!!」


――パァァァァーーンッ!


「……っ!!」


 桜時の光を受けた柿の種を、桜時が土へと投げ放った途端、柿之木山の柿の木の横にもう一本、たくさんの実を付けた、立派な柿の木が咲き誇った。その木を見て、モンキが目を見開く。


「……。」

「種を植えれば新しい命が芽吹く…一花がアナタにあの種を託したのは…」

 咲いたばかりの柿の木を見上げて立ち尽くすモンキに、輝矢が後ろから声をかける。

「アナタの手で自分を…新しい命へと送り出してほしかったからではないのですか…?」

「……っ!」


――姉ちゃんがアンタに…“最期の言葉”やって…――


「一っ…花…」

 やっと辿り着いた、最期の言葉。


「ううっ…!ううっ…!!」

 モンキが涙を流し、その場に膝をつく。

「ううっ…!一花っ…!」

「……。」

 涙に暮れるモンキを、静かに見守る輝矢。

『……。』

 そして、桜時、由雉。

「輝矢んっ…」

「はいっ?」

 モンキが少しかすれた声で、輝矢を呼ぶ。

「輝矢んの胸で泣き暮れていいっ?」

「冗談じゃありません」

「……ハハっ…」

 あっさり断る輝矢に、いつもはショックを受けるモンキだが、今回は少し笑みをこぼした。

「釣れへんなぁ~…輝矢んはっ…」

 そう言いながら、モンキがゆっくりと顔を上げる。


――今度っ……――


 顔を上げたモンキの目の前に咲き誇る、柿の木。


――今度、この木に実がなる時は…きっと笑顔で出逢えるね…――


「やっとっ…」

 柿の木を見上げ、モンキが笑う。


「やっと逢えたなっ…一花っ…」



――そうやね…門貴っ…――


 こうして、サルとカニを巻き込んだ戦いは終わった…。門貴と一花の思い出とともに…。






 一時間後。“猿の村”入口。

「もう行くのか?」

「そうですよぉ~もう一日くらいゆっくりして行けばええのにぃ~」

 旅立ちの支度を整えた輝矢や門貴たちは、移貴や猿飛、蟹の村から駆けつけた二花たちに見送られ、この柿之木山から旅立とうとしていた。

「すまんなぁ、移貴、猿飛っ…この世界にはまだまだ、俺の助けを必要としてる人たちがいっ…」

「別に残っていただいても全然、構いませんよっ?サルっ」

「そんなぁぁ殺生なぁ~っ!!俺を見捨てんといてやぁ~っ!輝矢ぁ~んっ!」

『……。』

 カッコつけようとしたモンキが、輝矢の笑顔の一言に、一瞬にして激しく泣きつく。そのモンキの情けない姿に、呆れた表情を見せる移貴と猿飛。

『ああっ!移貴さぁ~んっ!』

『……っ?』

 聞こえてくる黄色い声に、移貴やモンキたちが振り向く。

『今日の猿蟹合戦、見に行きますねぇ~っ!』

 振り返った先にいるのは、若くて可愛らしい女の子の三人組。移貴にハートを飛ばしながら、手を振っている。

「ああ、おうっ」

『きゃああ~っ!!“おうっ”って言われちゃったぁっ!』

「……っ?」

 妙に盛り上がって去っていく三人娘たちに、首をかしげる移貴。

「おっ…おいおいおいっ、移貴っ!今のって…村のアイドル、“ウキウキ猿っ子三人娘”じゃっ…」

 モンキが喰らいつくように移貴を見上げる。

「お前っ…!いつの間にっ…!?」

「へぇっ?」

 必死に問いかけるモンキに、移貴が首をかしげる。

「移貴さん、猿長になってから妙にモテるんですよぉ~メガネが誠実さアップ~って好評でぇ~」

「何っ…!?」

 猿飛の言葉に、敏感に反応するモンキ。

「やっ…やっぱ村、残ろうかなっ…アハっ」

「どこが純愛一筋なんだよっ」

「これじゃあ一花さんが生きてたところで愛想つかされただろうねぇ~」

 下心見え見えの笑みを浮かべるモンキに、ハチとユキジが呆れきった表情で呟く。


「なぁ~っ?ウッキー、今度合コンせぇ~へんっ?」

「はぁっ?」

「……っ!」

 移貴に合コンを迫るモンキを見て、二花が背中のハサミに手をかける。


――バギコォォォーンッ!


「ぐぎゃああああっ!!」

 二花の大バサミがモンキの後頭部を攻撃する。

「何すんねんっ!この暴力カニ女ぁっ!!」

「姉ちゃんの代わりに殴ったまでやっ」

「ああっ?」

 しかめっ面で答える二花に、モンキが首をかしげる。


「あっ、そうやっ!お前に大事な話があってんっ、二花っ」

「えっ…?」

 そう言って二花の肩に飛び乗るモンキ。二花が少し裏返った声を出し、頬を赤くする。

「あんなっ…」

「……っ」

 緊張したようにゴクリと息を呑む二花。

「お前、ちゃんと移貴のこと、考えたれよっ?」

「はぁっ?」

 想定外の内容に、二花が勢いよく顔をしかめる。

「お前みたいな乱暴下品カニ女、移貴みたいな物好き逃したらもう一生、相手おらへんでぇ~?」

「……っ!」

 モンキの笑顔に、二花の堪忍袋の緒が切れる。

「アホオオオオウッ!!」

「どわああああっ!!」

 二花の怒鳴り声に、モンキが肩の上から転げ落ちる。

「どおおっ!!痛っつぅ~っ」

 転げ落ちた勢いのまま、地面に思い切り頭を打ちつけるモンキ。

「何やねんっ、いきなりぃ~」

「アンタなんかもう知らんわっ!はんっ!!」

「ああ~っ?」

 頭を押さえて起き上がったモンキが、怒った様子でそっぽを向く二花を見て、首をかしげる。

「何、怒っとんねんっ?アイツっ…」

「当ったりめぇーだろっ」

「ちょ鈍ぅ~っ」

 わけのわかっていないモンキに、ハチとユキジがまたまた呆れきった様子で呟いた。


「あっ…おいっ、門貴っ!長老がっ」

「……っ」

 首をかしげていた門貴が移貴の言葉に振り向くと、村の奥から村人を数人従えて、白髪の老ザル・長老が入口へとやって来た。

「じじいっ」

 長老の姿を見て、門貴が笑顔を見せて立ち上がる。

「行くのか…」

「おうっ!」

「うむっ…」

 明るく答えるモンキを見て、しみじみと頷く長老。

「どうやらお主っ…グホホウっ!!ゲハっ!ゲハァっ!グフウっ!フウっ!」

「長老さまっ…!お薬をっ…!!」

『……。』

 咳き込む長老に、薬と水を差し出すサル。その光景に輝矢たちが呆れた表情を見せる。

「あっはぁ~っ!相変わらずやなぁ~っ!長老はっ」

「あんなので相変わらずとか危なくねぇ~かっ?」

「だぁ~い丈夫やってっ!長老、十年くらい前からあんなんやけど、未だに生きてるしっ」

「それで大丈夫なのかっ…?」

 モンキの笑顔に、思わず突っ込みを入れるハチ。

「うっううんっ…うんっ…あっああっ…」

 薬を飲んで、呼吸を整えた長老が、改めてモンキを見る。

「どうやら…また、いい“出会い”をしたようじゃな、門貴…」

「……っおうっ!」

 長老の言葉に、モンキが大きく笑みをこぼす。

「俺っ…今回は逃げて出て行くんちゃうからっ…」

 長老や移貴たちに、モンキが穏やかな笑みを向ける。

「今回はちゃんとっ…旅立っていくんやっ…」

「門貴っ…」

「だからっ…ちゃんと帰って来るっ!」

『……っ』

 門貴の笑顔に、移貴や長老、二花たちが皆、笑みを浮かべる。


「ではそろそろ行きましょうか」

「ああっ」

「うんっ」

「おうっ!!」

 輝矢の言葉に大きく頷くハチ、ユキジ、そしてモンキ。

「じゃあっ!行ってくるっ!!」

 大きく手を挙げ、輝矢たちとともに山を降りていくモンキ。

「おうっ!行って来いっ!!」

「たまには帰ってくるんやでぇっ!?アホザルっ!!」

「またねぇ~っ!門貴さんっ!!」

「ありがとぉ~っ!!みなさんっ!お元気でぇ~っ!!」

 移貴や二花、猿飛、チョキ三郎が、大きく手を振り、モンキを見送る。やがて2本の柿の木の間を通り、モンキたちは柿之木山を後にした。


「さっ!猿蟹合戦始めよかぁ~っ!猿長っ!!」

「ああっ!蟹長っ!」

 モンキたちが見えなくなると、移貴と二花は笑い合った。





「怯むなぁっ!!サルの誇りを見せつけろぉぉっ!!」

『うおおおおおおっ!!』

 移貴の掛け声に、勢いよく山を駆け下りていくサル軍団。


「来たでぇっ!!どんどん暴れぇやっ!!カニ一族っ!!」

『いえっさああああっ!!』

 二花の掛け声に、勢いよく山を駆け上るカニ軍団。



 秋の空広がる、普通の日。今日も柿之木山で、二本となった柿の木の下、猿蟹合戦が始まる。


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