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鬼斬り かぐや  作者: はるかわちかぜ
4/406

1.鳥の国の犬王子 ◇4

 まるで金色の曲剣のような大きさとなった三日月の先の取っ手部分を、輝矢が持って身構える。

「……っ」

「何っ……!?」

 三日月を構え、目にも見えぬ速さで太鷲へと向かっていく輝矢。孔雀を攻撃しようとしていた太鷲が、焦ったような表情で振り向く。

「このっ……!!」

「……っ!」


――………………っ!!


 交錯する輝矢の三日月と太鷲の爪。


「ぎゃあああああっ!!」


 次の瞬間、悲鳴をあげたのは太鷲の方であった。  床に太鷲の鋭い爪が転がり、太鷲の指先から紫色の血が滴り落ちる。

「その武具はっ……我ら“対鬼人用”のっ……!貴様、一体っ……!!」

「私?私の名は竹取輝矢」

 戸惑いの目を向ける太鷲に対し、余裕の笑顔で自己紹介する輝矢。

「我が師“桃タロー”の意志を継ぎっ、鬼退治させていただいまぁ~すっ」

「何っ!?」

「桃タローだってっ!?」

 輝矢の言葉に、太鷲やハチ、皆が驚きの表情を見せる。

「ちっがぁーうっ!!条件はソイツを倒すんじゃなくって私を助けることでしょっっ!?」

 そう叫びながら、太鷲に放り投げられた状態のまま、高い地点から勢いよく落下してきている孔雀。

「早く私を助けなさいよぉっ!!」

「ああ、忘れてました」

「いっやああああっ!!」

 輝矢に忘れられたままに、孔雀がどんどん落下していく。

「孔雀サンっ……!!」

「あっ!桜時様っ……!」

 千鶴の制止を振り切り、孔雀の元へと飛び込んでいくハチ。


「ひっやああああっ!!」

「……っ!」


――ドッスゥゥーンッ!!


 落下音が激しく部屋中に響き渡った。


「あ~あ~死にましたかねぇ~」

 暢気に状況を見つめる輝矢。


「んっ……んんっ……んっ?」

「痛つつつつっ……」

 あまり痛みのない体と下からする声に孔雀が振り向くと、孔雀の大きな体の下に飛び込み、衝撃を和らげたのであろう傷だらけの子犬の姿があった。

「大丈夫かよっ?孔雀さっ……」

「きゃあああああっ!触らないでよっ!!着物に毛が付くじゃないっ!!」

「……っ」

 心配するハチの手を避け、勢いよく桜時から離れていく孔雀。

「だいたいイヌに助けられるくらいならねぇっ!真っ逆さまに落ちた方がっ……!!」

「良かったっ……元気そうだなっ……」

「……っ!」

 自分は傷だらけで、孔雀はただ蔑みの言葉しか吐かないというのに笑顔を見せるハチを見て、孔雀は思わず言葉を止めて目を見開いた。

「……バカな子っ……」

「えっ?」

 孔雀はハチに聞こえないくらい小さな声でそう呟き、それ以上は何も言わずに俯いた。


「……っ」

 そんな孔雀とハチの様子を見て、少し笑顔を浮かべる輝矢。

「さてとっ……こちらもとっとと片づけましょうか」

「クっ……!」

 再び太鷲の方を向く輝矢に、太鷲が少し表情を歪める。

「まさかっ……桃タローの弟子とはなっ……だがっ!!」


――シュンッッ……!!


「……っ」

 太鷲が右手を振り払うと、輝矢の三日月に切り落とされた爪が超速で伸びて再生する。

「負けはせんぞぉっ!小娘ぇっ!!」

「……。」

 駆け込んでくる太鷲を静かに見つめる輝矢。

「だああああああっ!!」

――バァァァァーンッ!!

「……っ!?何っ!?」

 輝矢に振り下ろしたはずの爪は、勢いよく床を抉る。

「どっ……どこにっ……!?」

「ここです」

「……っ!」

 冷静な声が聞こえてくるのは、太鷲の巨体よりもさらに上。太鷲が上を見上げると、そこには三日月を構えた輝矢の姿があった。

「クっ……!」

「三日月っ」

「……っ!ぎゃああああっ!!」

 落下の勢いも味方して、太鷲が防御の姿勢を取る前に、輝矢が太鷲の体を上空から切り裂いた。激しく吹き出る血が、輝矢の冷静な表情に飛び散る。



「うっ……ううぅ~っ……」

 その頃、やっと起き上がる銀ペー。

『あっアニキっっ!!!』

 起き上がった銀ペーに、駆け寄っていた子分ペンギンたちが嬉しそうな表情を見せる。

『大丈夫っスかぁっ!?アニキっ!!』

「ああっ……しかしあの女っ!一度ならず二度までもこの銀ペー様を踏みつけやがってっ!」

「でも何か凄いっスよ?あの女っ」

「何っ?」

 子分の言葉に、銀ペーが太鷲と戦闘中の輝矢の方を見る。平然としている輝矢に対し、胸部を切り裂かれ激しく血を流している太鷲。どちらが優勢かは一目瞭然である。

「何でもあっの“桃タロー”の弟子だとかでっ」

「さっきから化け物押しっぱなしだしっ。ありゃあ次元違いますよっ」

「何とっ!?桃タローの弟子っっ!!?そっ……そうなのかっ……むっ?」

 銀ペーが今度は、孔雀とともに戦況を見守っている白いイヌ、ハチに気づく。

「ややっ!あれはあの時の“花咲かワンコ”っっ!!」

「ああ~あのイヌ、どうやら朱実のお坊ちゃんみたいっすよぉ~」

「何ぃぃっ!?」

「アニキ、十五年も警備隊にいたのに見たことなかったんスかぁ~?」

「いやっ……俺が見た時は確かっ……」

「ぐおおおおおおっ!!」

『ひいっっ!!!』

 急に激しく叫び始めた太鷲に、ペンギンたちが震え上がって身を寄せ合う。



「おのれっ……!!小娘ぇっ……!!」

「大したことありませんね。さすがは一番格下の緑鬼」

「何だとぉっ!?」

 挑発するようなことを言う輝矢に、怒りを全面に出してくる太鷲。

「まぁ所詮、私の相手では……」

「油断し過ぎじゃないかぁぁっ!?小娘っ!」

「えっ?」

 怒りの表情からふいに笑顔を見せて言い放つ太鷲に、輝矢が目を丸くする。

「貴様の足元をよぉーく見てみろっ!」

「足元っ?……っ!」

 太鷲の言う通りに輝矢が足元を見てみると、そこに落ちているのは先ほど輝矢が切り落とした太鷲の爪。  それを見て輝矢が表情を変える。

「しまっ……!」

「フハハハハハっ!!“鬼爪・天回”っ!!」

「……っ!」

 太鷲の言霊に乗って、飛び出してくる爪。


――ブシュッ……!


「ううっ!」


『なっ……!!?』

 床から勢いよく飛び出した太鷲の爪が、輝矢の右足を貫通する。表情を歪めるとともに、真っ赤な血の流れる右足を抱え込むようにしてしゃがみ込む輝矢。


「クっ……!」

「フハハハハぁ~っ!!桃タローの弟子もこうなっては終わりだなぁ~っ!!」

「……っ」

 苦しげな表情を見せる輝矢に、笑みを浮かべながら両手を突き出す太鷲。

「ここまでだっ!小娘っ!“鬼爪・天回”っ!!」

「……っ!」

 突き出した十本の爪を、動けない輝矢へと放つ太鷲。


「アイツっ!動けねぇーのにっ……!!」

『うわああっっ!!終わりだぁっ!!』

 思わず身を乗り出す銀ペーと、思わず目を覆う子分ペンギンたち。


「……っ!」

「なっ……?」

「桜時様っ!?」

 孔雀と千鶴が驚く中、ハチが輝矢の元へと飛び出していく。


「クっ……!……?ハチっ……?」

 何とか足を動かそうとしていた輝矢の目に飛び込んでくるのは、こちらへと駆け込んでくる一匹の白いイヌ。

「ダメですっ!ハチっ!来てはっ……!」


――ボォォォォォ~~ンッ!!


「……っ」

『……っ!!』

イヌの包んだ白い煙。そして次の瞬間、煙の中から飛び出してくる人間。


「……っ」

「ハ……チ……?」


 それは鮮やかなピンク色の髪に澄んだ青色の瞳の、勇ましさを感じる凛々しい表情の青年であった。  輝矢が戸惑うように見上げる中、青年が輝矢の前に立ち、向かってくる鬼爪に両手を向ける。


「“瞬花”っ!!」


――パァァァァァーーンッ!


「……っ」

「何っ!?」

 桜時の向けた両手から桃色の光が発せられた途端に、飛んできていた鋭い鬼爪が淡い桃色の桜の花びらとなって散っていく。  その美しい光景に輝矢は目を見張り、太鷲は驚きの声をあげた。

「獣人の力かっ……!」

 太鷲がまたもや表情をしかめる。



「雀人・朱実が代々受け継いできた力、“花力”……」

「……?孔雀様?」

 人の姿を見せた桜時を見つめ、珍しく真剣な表情を見せて呟く孔雀に、孔雀の体を支えている千鶴が少し首をかしげた。

「姿はイヌでも、あの“花力”は紛れもない朱実の証……」

 孔雀の桜時を見る、その遠い瞳。

「因果なものね……雲雀っ……」

「孔雀様っ……」

 孔雀の言葉に、千鶴は少し目を細めた。



「ハチ、意外とカッコイイですねぇ。惚れましたよ」

「バっ……!バカなこと言ってんじゃねぇーよっ!!」

 軽い口調で言う笑顔の輝矢に、顔面真っ赤にして照れまくる桜時。

「それよりお前、足はっ……!」

「チィィっ!!!こうなったら一気にカタをつけてやるっ!!」

『……っ』

 そう叫ぶ太鷲に、表情を厳しくして振り向く輝矢と桜時。  太鷲が大きく口を開けると、太鷲の口の中に強いエネルギーの塊のようなものが集められていく。

「何かマズい空気だなっ!とりあえず避けっ……!うっ……!」

「……?」

その場から逃れようと、振り向いて輝矢に手を貸そうとした桜時であったが、伸ばした手は輝矢の一メートル手前で止まってしまう。

「クっ……!こっ……これは逆にピンチだっ……!」

「どの辺りが“逆”なんでしょう……」

 桜時は女性に半径一メートル以内に近づかれただけでおかしくなってしまうほどの女恐怖症なのである。しかし避けるには、足の動かない輝矢に近づくどころか触れなければならない。

「何ならお姫様だっこしていただいてもけっこうですよ?」

「んなことできるかぁっ!!」

「フハハハぁぁっ!!二人まとめて跡形もなくなれぇっ!!“鬼口”っ!!」

『……っ!』

 太鷲の口から二人に向かって、巨大なエネルギーの塊・“鬼口”が放たれる。

「だあああああっ!撃っちゃったぁっ!!」

 向かってくる鬼口に、慌てふためく桜時。

「どっ……!どうしたらっ……!」

「別に避けなくていいですよ」

「へっ?」

 聞こえてくる声に、桜時が目を丸くして振り返る。

「“月器……」

 桜時が振り返ると、輝矢がしゃがみ込んだまま三日月を掲げていた。

「なっ……何をっ……」


「十六夜”っ」


――パァァァァァーーンッ!!


「……っ」

 三日月が金色の光を放ちながら満ちてゆき、満月が少し欠けたような形の巨大な盾へと姿を変える。  桜時が驚きの表情で見つめる中、鬼口へ向けて十六夜を突き出す輝矢。


「フハハハハハっ!!そんなもので“鬼口”がっ……!!」

「十六夜……」


――バァァァァァーンッ!!


「何ぃっ!?」

 十六夜に当たり、きれいに弾き返された鬼口がまっすぐに太鷲へと飛んでいく。

「そっ……!そんなっ……!ぎゃあああああっ!!」

 自らが放った鬼口を見事に直撃し、壁を突き破るほどに吹き飛ばされていく太鷲。


「クっ……!おっ……!おのれぇ~っ……!!」


「まだ生きてんのかよっ……」

 全身から血を流し、崩れた壁に埋もれながらも立ち上がってくる太鷲を見て、桜時が少し呆れたように呟く。

「ハチ、イヌに戻ってその辺りに寝転がっといてもらえますか?」

「へっ?なっ……何かよくわかんねぇーけど、わかったっ」


――ボォォォォォ~~ンッ!


 輝矢のやろうとしていることはわからないが、輝矢にも何か秘策があるのだろうと、とりあえず輝矢に言われた通りにイヌの姿へと戻って輝矢の前辺りに寝転ぶハチ。

「さてとっ、三日月っ」

 輝矢が十六夜を元の三日月へと戻して、床に突き立てる。


「クソクソクソクソぉぉっ!!」

 今度こそ怒り全開に、思うがままに叫び始める太鷲。

「こうなったらっ……!!」

「……っ?」

 向きを変える太鷲に、輝矢が首をかしげる。


「国主だけでもぉっ!!」

「へっ?いっやあああっ!!」

「……っ!」

「なっ!?あのやろっ……!!」

 孔雀へと飛び出していく太鷲に、輝矢が身を乗り出し、寝転んでいたハチが思わず立ち上がる。


「そうはさせるかっ!!」

『えっ?』


「“ペンペンっ!スライディーグっ!!ジェット気流”ぅぅっ!!」


――ビュゥゥゥーンッ!!


「何っ!?ぎゃああああっ!」

 孔雀へ向かっていこうとした太鷲であったが、横からスライディングしてきた銀ペーの頭突きが太鷲の背中に炸裂し、太鷲が勢いよく吹き飛ばされる。


「アイツっ……!」

『いやぁぁぁぁったぁっ!カッコイイぃーっ!!アニキぃぃっ!!』

 思いがけない銀ペーの活躍に、少し笑顔を見せるハチと嬉しそうに叫ぶ子分たち。


「クっ……!ペンギンの分際でっ……!!」

「今だぁっ!!踏みつけ女ぁぁっ!!」

「……っ」

 苦しげに起き上がろうとしている太鷲を見ながら叫ぶ銀ペー。銀ペーの言葉を受け、輝矢が目つきを鋭くし、床に刺した三日月を杖代わりにして立ち上がる。

「では失礼します、ハチ」

「えっ……?ぐへぇっ!!」

 寝転んだハチの体の上に勢いよく輝矢の右足が乗る。

「竹取輝矢っ……参りますっ……!」

「ぬほおおおうっ!!」

 ハチの柔らかな体を踏み台にして、勢いよく太鷲の方へと飛び出していく輝矢。


「グっ……!!待っ……!待っ……!!」

 やっとのことで立ち上がった太鷲が、飛び込んでくる輝矢へ必死に手を突き出して“待て”を要求する。

「……っ」

 しかし待つはずもなく、輝矢は鋭い表情で三日月を振り上げた。

「ううっ……!!」

 太鷲の表情が恐怖に歪む。


「三日月っ……!」


――………………………っ!


「うぐっっ……!がああああっ!!」

 静かに着地した輝矢の後方で、縦真っ二つに切り裂かれた太鷲が激しい叫び声を響かせる。


「おっ……のれっ……竹取……輝矢っ……」

 切り裂かれた太鷲の体が、徐々に灰色の砂へと化していく。

「だがっ……これで終わりと思うなよっ……!我らっ……鬼人はっ……まだまだ増えっ……!ぐふっ……」



――パァァァーンッ!!



「……。」

 完全に砂となり、風に吹かれて消滅していく太鷲。  太鷲の残した意味深な言葉に、輝矢は少し目を細めた。



「鬼人復活のウワサは……本当だったのかっ……」

 輝矢の元へとやって来る、背中にくっきり輝矢の足跡のついているハチ。

「それにしても太鷲が鬼人だったなんてっ……」

「何ぃっ!?あの鬼っ!太鷲だったのかぁぁっ!?」

「遅せぇーよっ」

 太鷲の正体が鬼人であったことを今知り、大きく驚いている銀ペーにハチが突っ込む。

「まぁいっか。お前がいなかったら孔雀サンは死んでたっ。サンキューなっ!ペンギンっ!」

「……っ」

 笑顔で礼を言うハチを見て、銀ペーがどこか申し訳なさそうな表情を見せる。

「もぉーっしわっけあんませんっ!!」

「えっ?」

 いきなり土下座して頭を下げる銀ペーに、ハチが目を丸くする。

「朱実のお坊ちゃんとは露知らずっ……!!暴言吐いたり追い回したりスライディングしたりっ……!!」

「あっ、ああ」

 スライディングで味わった恐怖を思い出し、少し顔を引きつるハチ。

「許してやってくだせぇぇっ!さっきはアニキも虫の居所が悪かっただけなんスぅ~っ!!」

「悪いついでにスライディングしちゃう困ったちゃんなアニキなだけなんスよぉ~っ!!」

「フォローしてんのか……?それっ……」

 フォローになっていない子分ペンギンたちの言葉に、ハチが呆れた表情を見せる。

「まぁもぉーいいよ」

「へっ?」 

 銀ペーが深々と下げていた頭をやっと上げる。

「俺も……悪かったなっ。無神経に“飛べない鳥”とか言って……」

「いえいえいえいえっ!滅相もないっ!わたくしなど、たかが飛べない鳥っ!その通りなんですからっ!」

「たかがなんて言うなよ」

「えっ?」

 またもや頭を下げようとした銀ペーが桜時を見上げると、ハチはどこか悲しげな表情を見せていた。

「飛べなくても、あんたは立派な鳥だっ……」


――イヌはイヌらしく、広い庭の中を駆け回ってればいいのっ!!――


イヌであるが故に受ける蔑み。認められない存在。何度、鳥であったらと願っただろう。


「だから……俺にはアンタだって……眩しく見える……」

「……っ」

 ハチのその言葉に、一気に目を潤ませる銀ペー。

「うおおおおっ!ハチ様ぁぁっ!!」

「だっから俺はハチじゃねぇーよっっ!!」

 感動のあまり泣きつく銀ペーに、感動ムードぶち壊しで怒鳴りつけるハチ。



「やれやれ……ですね」

 輝矢が足の傷の止血をしながら、呆れた様子でハチと銀ペーを眺める。

「何とお礼を言っていいかぁっ!恩返しさせてくださぁーいっ!」

「……っ」

「ぐはあっっ!」

 そんな輝矢に恩返しをしようと突っ込んできた千鶴であったが、輝矢がひらりと千鶴をかわし、千鶴は勢いそのままに壁に激突した。

「やれやれですねぇ……。……?」

「……。」

 壁に激突した千鶴を見ていた輝矢が振り返ると、そこにはどこか不満げな表情を見せ、しっかりと腕組みをした孔雀が立っていた。

「まっ……まぁ約束しちゃったものはしょうがないわっ!あなたの望み通りっ……!」

「アナタを助けたのは私ではなく、イヌとペンギンです」

「えっ?」

 輝矢の言葉に戸惑うように顔を上げる孔雀。

「彼らの願いを……叶えてあげて下さい」

「……。」

 笑顔で言う輝矢に、孔雀が真面目な表情を見せる。


――俺はイヌだけどっ…!もっと羽ばたきたいんだっ…!!――


「……っ」

 思い出されるハチの言葉に俯く孔雀。

「“願い”……ね……」

「……。」

 呟いた孔雀を見て、笑顔で肩を落とす輝矢。



「恩返しさせてくださぁぁーいっ!!」

「おおおううっ!!後頭部を嘴で刺すなぁぁっ!!」

『アニキっっ!!!頭から血がっ……!!』

「うっぎゃあああっ!!」

「何やってんだよ、お前らっ……」



こうして、雀国で起きた戦いは終わりを告げた。



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