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鬼斬り かぐや  作者: はるかわちかぜ
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8.かぐや姫vs白雪姫 ◇4

「うううううっ…!!」

 雪剣に三日月を弾き返され、輝矢が少し後退して膝をつく。

「クっ…!」

 床に落ちた三日月を拾おうにも、もう手が上がらない。

「甚振る趣味はないのっ。とっとと楽にしてあげるわっ」

 そう言って、輝矢に左手を向ける白雪。

「安心して。貴女が死んだ後は、私があのワンちゃんを可愛がってあげるからっ」

「……っ」

 白雪のその言葉に、輝矢の顔色が変わる。

「……冗談っ」

「……っ?」

「……っ!」

 輝矢が床に落ちていた三日月を、天井目がけて思い切り蹴り上げる。

「なっ…!武器を蹴り上げるなんてっ…!戦意喪失でもしっ…!」

「“水月”っ…!」


――バァァァァーンッ!


「……っ!」

 高々と蹴り上げられた三日月を見上げていた白雪に、輝矢が最後の力を振り絞って水月を放つ。白雪へと向かっていく無数の水の刃。

「ンフっ…何を今更っ…!私に水は通用しないと言っているでしょうがっ!!」

 向かってくる水月へ向け、白雪が両手を構える。

「また氷付けにしてお返ししてあげるわっ!!“雪時雨”っ!!」

 白雪が水月に向けて、吹雪を放つ。

「これでっ…!何っ…!?」

 しかし水の刃は、白雪の吹雪に凍ることなく、白雪に向かい続けてくる。

「どうしてっ…!どうして凍らないのっ…!?」

 戸惑う白雪に、迫る水月。


「クっ…!きゃああああああっ!!」

『虎昌さまっ!!』

 水月を直撃し、吹き飛ばされていく白雪。鈴白と芹が身を乗り出して、白雪の下の名を呼ぶ。


「うっ…!ううっ…」

 全身に傷を負って倒れ込んだ白雪が、戸惑いの顔を上げる。

「何故っ…!」

「本来水は、その水中に含まれる不純物を凝結核として凝固するものっ…」

「……っ?」

 輝矢の言葉に、白雪が眉をひそめる。

「よって不純物をまったく含まない超純水であればっ…水は極めて凍りにくくなるっ…」

「まさかっ…水の成分までも変化させられるというのっ…?」

 白雪が驚きの表情を見せながら呟く。

「でもいいわっ!氷力が使えないというのなら、また虎化してっ…!」

「いえ、もう終わりです」

「えっ?」

 起き上がろうとした白雪に、輝矢がハッキリと言い放つ。

「“月器っ…」

 輝矢が右手を振り上げる。


「上弦”っ」

「……っ!まさかっ…!」

 白雪が目を見開きながら、輝矢が先ほど三日月を蹴り上げたことを思い出し、上を見上げる。

「ううっ…!!」

 白雪の真上には、三日月から上弦へと満ち、勢いよく降下してくる月器の姿。


「うっ…!あああああっ!!」


――バァァァァーーンッ!


 落下した上弦に、白雪が押し潰される。



「うっ…ううっ…私がっ…負けるなんてっ…」

 上弦の下敷きとなった白雪が、力なく呟いた。


「……うっ…」

 立ち尽くしていた輝矢も、力尽きたようにその場にしゃがみ込む。


『虎昌さまっ!!』

 上弦の下敷きとなっている白雪の元へと、不安げな表情で駆け込んでいく鈴白と芹。

「大丈夫ですかっ!?」

「下の名前で呼ぶなっつってんでしょーがぁっ!!」

『うわっ!』

 弱々しく押し潰されているわりに勢いよく返って来る怒声に、鈴白と芹が思わず足を止めて震え上がる。

「だっ…大丈夫そうですねっ…」

「私を助けにくる暇があるくらいなら、さっさとあの女を攻撃しなさいっ!」

「えっ…?」

 白雪の言葉に、芹が戸惑うように眉をひそめる。

「今ならあの女はボロボロよっ!貴方たちでも楽勝で倒せるわっ!」

「……っ」


――助太刀されて勝つような勝負に何の意味があるんや?――

――ボクたちに助けられるくらいなら戦って死ぬよ…ボクらの飼い主さんは…――


「……。」

 思い出される門貴と由雉の言葉に、芹が強く拳を握り締める。

「芹っ!アンタの雹でっ…!」

「できないっ!」

「……っ?」

 すぐさま否定する芹に、白雪が思わず目を丸くする。

「できないっ…」

「なっ…!何を言うのっ!?芹っ!この私の言うことが聞けないって言うんじゃっ…!!」

「あのお姉ちゃんたちは、助けてもいいのに、それをしないで誇りを持ってこの勝負に臨んでくれたっ!!」

「芹っ…」

 怒りに顔を歪めた白雪に、芹は恐れることなく必死に言い返す。そんな弟の姿を、目を細めて見つめる鈴白。

「虎昌さまはボクが今、攻撃に入ってあのお姉ちゃんに勝って嬉しいのっ!?誇りとかないのっ!?」

「何をっ…芹っ!アンタねぇっ…!!」

「虎昌さま…」

「……っ」

 芹に怒鳴りあげようとした白雪を、鈴白が宥めるように名を呼んで止める。白雪が鈴白の方を見ると、鈴白は穏やかな笑顔を白雪に向けていた。

「我々は皆、一対一の勝負に敗れました…この戦い、我らの負けです…」

「……っ」

 鈴白の言葉を聞くと、白雪の表情から怒りが消え、白雪がそっと俯く。

「わかったわよっ…」

「虎昌さまっ」

 渋々と敗北を認めた白雪に、芹が少し笑みをこぼす。

「ああっ!もうっ!!」

『へっ?』

 上に覆いかぶさっていた上弦をあっさりと弾き飛ばし、勢いよく立ち上がる白雪に、二人が目を丸くする。

「だいたいねぇっ!アンタたちが勝ってたら二対一でコッチの勝ちだったのよっ!?何、負けてんのよっ!」

『うわっ!』

 白雪の怒声に、またしても震え上がる鈴白と芹。

「元気だね…」

「戦い続ければ勝てたのではないでしょうかねぇ…」

 傷のわりにピンピンしている白雪に、鈴白と芹は呆れるように肩を落とす。

「こんなのだから菜砂なずなはこベラもみんな、部下やめちゃったんだろうねっ…」

「僕らもやめましょうかねぇ」

「何か言ったっ!?」

『いえっ…』

 白雪に睨みつけられ、鈴白と芹がすぐさま下を向いた。


「……っ」

「……っ!」

 白雪たちが騒ぐ中、力なく倒れ込んでいく輝矢に桜時が気づく。

「輝っ…!」

「輝矢ぁ~んっ!!」

「だあああっ!!」

 倒れていく輝矢に駆け寄ろうとした桜時であるが、横から駆け込んでいく門貴にあっさりと押し飛ばされる。

「俺の胸に飛び込んでおいでぇ~っ!!」

「ああ、けっこう平気でした」

「ぎゃんっ!」

 倒れようとしていた輝矢が急に起き上がり、駆け込んでいった門貴が空ぶって床に滑り込む。

「平気なわけないでしょっ?ほらっ、傷見せるっ」

「はいはい」

 由雉が輝矢の横にしゃがみ込み、輝矢の傷の治療に当たる。


――ミシっ…ミシミシミシっ…


『んっ…?』

 天井や柱、壁から聞こえてくる、何やら徐々に崩れていくような不吉な音に、輝矢や白雪たちが顔を上げる。

「白雪様っ…これってっ…」

「力を使い過ぎたようね。もうすぐ城が崩れるわ」

『えええっ!?』

 あっさりと答える白雪に、皆が一斉に驚きの声をあげる。

「くっ…崩れるってじゃあっ…!」

「この城は元々、私の力・雪でできてるからぁ」

『大量の雪に生き埋めぇっ!?』

 門貴と由雉が頭を抱えて叫びをあげる。

「……。」


――ボォォォォ~~ンッ!


「じゃあっ」

「待ていっ」

 キジの姿となって城から脱出しようとするユキジの羽根を、門貴が力強く掴む。

「大事な仲間捨てて一人だけ助かろうってかぁっ!?この薄情キジがぁっ!!」

「だってボク、自分の命が一番大事なんだもん」

 門貴の叫びに、ユキジがさらっと淡白に答える。


――ガガガッ…!


『ぎゃあああっ!!』

 崩れ落ち始める城の天井に、もう逃げる時間もなく、門貴とユキジが悲鳴をあげる。

「何とかしなさい、虎ンプ」

「トラマサよっ!気にいってないけどっ。無理ねっ、どうにもできないわっ」

「そんなぁ~っ!!白雪さまぁ~っ!」

「僕、白雪様と心中なんて真っ平御免ですぅ~っ!!」

「うっさいわねっ!!こっちだって真っ平よっ!!」

 嘆く鈴白と芹に、白雪が強い口調で言い返す。

「月器で何とかっ…」

「……っ」

「……?ハチ?」

 助かる方法を模索する輝矢の横を通り、城のちょうど中央辺りに立って、崩れ始める天井を鋭い瞳で見上げる桜時。そんな桜時に輝矢が少し首をかしげる。

「ハチ、何をっ…」

『ぎゃあああっ!!』

 一気に崩れ落ちてくる天井や壁に、門貴や鈴白たちが悲鳴にも似た叫びをあげる。

「……っ」

 そんな状況の中、冷静に両手を突き上げる桜時。

「……っ“瞬花”っ!」


――パァァァァーンッ!


『……っ!!』

 崩れ落ちてきた雪が、一瞬にしてすべて桜の花びらへと変わり、輝矢たちへと降り注いだ。その桃色の支配する美しい光景に、皆が目を見張る。

「大丈夫かっ!?みんっ…!」

「きゃああっ!!さっすが私の桜時様っ!かっこいいぃ~っ!!」

「だああああっ!!」

 輝矢たちの方を向こうとした桜時に、後方から勢いよく抱きつく白雪。桜時が奇声をあげる。

「なっ…んななっ…!何やっ…!触っ…触触触るんじゃっ…!!」

「私、雪国育ちだから桜なんて初めてぇぇ~っ!もう白雪、感動ぉ~っ!このまま結婚しなぁ~いっ?」

「するかぁぁっ!!」

 勢いよく迫ってくる白雪を、桜時が必死に振り払う。

「あの女っ…」

「はいはい、今動いたら死ぬから大人しくねぇ~」

 白雪に憎悪を燃やす輝矢に、由雉が冷静に一言。

「だいったいお前ら何者なんだよっっ!!氷付けになってる街人と鉄汰をとっとと解放しろっっ!!」

「ああ、せやったぁ~街に降っとう雪も止ましてもらわなぁ~」

「心配しなくても街人も解放するし、雪も止ますわよっ」

『へっ?』

 あっさりと答える白雪に、桜時と門貴が目を丸くする。

「ヤケにあっさりですね」

「元々、街やフラミンゴたちをどうにかしようって気はないものっ」

「えっ?では何故っ…」

「アンタたちをおびき寄せるためよっ」

「私たちを?」

 白雪の思いがけない言葉に、輝矢も目を丸くする。

「そっ!アンタと戦ってどっちが強いかハッキリさせたかったのっ」

「何で輝矢と?」

「白雪様は御伽界でも指折りの退治屋とされている方なんですよ」

『退治屋っ!?』

 白雪の代わりに答える鈴白に、桜時と門貴が驚きの声をあげる。

「西の方ではけっこう有名なんだよぉ~」

「全国で有名よっ!私はっ!」

 芹の説明に、白雪が少し不満げな表情を見せた。

「だっけど何で同業者が輝矢、狙うのさぁ~?」

「それはねっ…あのフザけた看板よっ!!」

『看板っ?』

 どこか腹立たしそうに言い放つ白雪に、一斉に目を丸くする輝矢たち。

「なぁにが御伽界のニューヒーローっ!?鬼人が出たら輝矢を呼ぶべしですってぇっ!?」

『あっ…』

 そのフレーズに思い出されるのは、羊スケの立てたあの看板。

「あっの看板のせいでねぇっ!こっちはめっきり仕事が減って、商売あがったりだったのよっっ!!」

「それで輝矢さんより強いことを証明できれば、また仕事も来るだろうと思い、この作戦に至ったわけです」

「まぁ要は僻みだよね」

「芹っ!!」

「ごめんなさいっ…」

 白雪に睨みつけられ、芹がすぐさま頭を下げる。

「何だっ…んなことかよぉ~」

 桜時がどこか気の抜けた様子で肩を落とす。

「結局、あの看板に振り回されただけだったんだねぇ~」

「ホント、迷惑なヒツジですね」




「へぇ~っくしょんっ!!」

 豪快なくしゃみをかます羊スケ。

「ズズズっ…風邪っスかねぇ~?」

「おいっ!とっとと行くぞぉっ!羊スケっ!!」

「うぃ~っスっ!」

 鼻水をすすりながら、羊スケはゴンの元へと駆けていった。






 白雪との戦いを終え、白雪が何者であるかもわかった輝矢たちは、崩れ去った雪鏡の城跡地から、トロピカーナの街へと戻った。街に降る雪を白雪が止ませ、街には雪こそ積もっていたが、眩しいばかりの太陽が照り付けていた。

「ああっ!輝矢さんっ!皆さんっ!!」

『……?』

 街へと戻ってきた輝矢たちを、ゴラミがいち早く見つける。街は雪が止み、久々に外へと出てきた街人たちで溢れかえっていた。

「ああっ!ゴラミちゃ~んっ!!」

 モンキが満面の笑顔でゴラミへと手を振る。

「ご無事だったんですねっ!!ハチさんもっ…!」

 無事な姿で街へと戻ってくる輝矢たちを見て、安心した笑顔を見せるゴラミ。

「ゴラミちゃ~んっ!街の平和を守った俺に愛のご褒美をぉっ…!!」

「ゴラミっ…!」

「へっ?」

 ゴラミに飛び込んでいこうとしたモンキであったが、モンキの横からモンキよりも早くゴラミの方へと駆け込んでいく桃色頭の一人の青年。

「フラッゴさんっ!!」

「へっ?」

 目を輝かせるゴラミに、モンキがさらに首をかしげる。

「フラッゴさんっ!無事だったのねっ…!会いたかったっ!!」

「俺もだよ、ゴラミっ…」

「フラッゴさんっ…!!」

「ゴラミっ!!」

「んのおおお!?」

 駆け込んできた青年・フラッゴの姿を見て涙を流すゴラミ。そしてゴラミとフラッゴが強く抱きしめあう。

「ぎゃいいんっ!」

「あぁ~あっ、残念賞っ」

 恋人たちの再会を目の前にし、失恋ショックを受けるモンキにユキジが冷たく呟いた。

「父さんっ!!母さんっ!!」

「フラクローっ!!」

「ミンゴっ!!」

 白雪にさらわれていた街の青年たちが、次々と家族や恋人たちの元へと帰っていく。


「さっ!街人も返したし、雪も止ましたから、もういいでしょ?私たちは行くわよっ」

「はぁっ!?お前らなぁっ!こんだけ事件巻き起こしたんだから、街の人たちに詫びの一つでもっ…!」

「じゃあねっ、桜時様っ!」

「んなっ…!」

「ういいいいっ!!」

 文句を言い放っていたハチの額に、白雪の唇が触れる。表情を引きつる輝矢と、表情を凍りつかせるハチ。

「また会いましょっ!」

「がっ…がはっ…」

 ショックで固まっているハチに、笑顔を向ける白雪。

「次は負けないわよっ!竹取輝矢っ!!退治屋ナンバーワンの座はこの白雪がいただくわっ!!」

「ああっ!待って下さいよぉ~っ!!虎昌さまぁ~っ!!」

「置いてかないでよぉ~っ!虎昌さまぁ~っ!!」

「下の名前で呼ぶんじゃないわよっ!!」

 何やかんやと騒ぎながら、白雪とそれに続くようにして鈴白、芹が、トロピカーナの街を去っていった。


「あの女っ…次に会った時は息の根を止めます…」

「痛てててっ…!毛を抜くなっ!毛をっ!!」

 白雪の唇が触れた辺りのハチの毛を毟り取ろうとする輝矢に、ハチが必死に訴える。

「ふわぁーはっはっはっはっ!!!退治屋の諸君っ!!」

『……?』

 聞こえてくる高々とした笑い声に、輝矢たちが振り返る。そこにいたのは、これまた白雪の氷から解放された鉄汰であった。

『あれっ?まだいたのっ?』

「いたよっ!!何だいっ!!揃いも揃ってその言いっぷりはっ!!」

 声を揃えるハチたちに、鉄汰が強く怒鳴り返す。白雪たちとの戦いが白熱したため、鉄汰の存在をすっかり忘れてしまっていたのだ。

「まぁ今回は鬼人の仕業ではなかったようだからねぇっ!引き分けということにしておいてあげるよっ!」

「氷付けにされて捕まってただけのクセにっ…」

「次こそは圧倒的な力を見せつけ、君達のような素人は必要ないということを証明してあげるよっ!!」

 ユキジの呟きも聞こえていないのか、輝矢に高々と言い放つ鉄汰。

「楽しみにしていたまえっ!!ふわぁーはっはっはっはっ!!」

『……。』

 一方的に話し終えると、鉄汰もあっさりと街を後にした。去っていく鉄汰を見ながら、呆然とする輝矢たち。


「同じようなこと言って去ってったねぇ~あの二人っ」

「ロクなヤツと知り合わねぇーなっ…」

 呆れた表情で呟くユキジとハチ。

「輝矢さんっ!ハチさんっ!門貴さんっ!由雉さんっ!」

『……っ?』

 ゴラミの声に、四人が振り向く。

「街を救って下さったお礼にっ…!」

「おやっ、大金ですか?」

「街のみんなでフラダンスを踊りたいと思いますっ!!」

『はぁっ?』

 “お礼”という言葉に目を輝かせた輝矢であったが、ゴラミの言葉にあからさまに顔をしかめる。

「みんな行くよぉっ!!」

『おおおおうっ!!』


――ボォォォォ~~ンッ!


 ゴラミの掛け声に街人が皆手を突き上げ、一斉にフラミンゴ化する。

『チャラチャチャ~ンっ♪』

『……。』

 きれいに列を組んで、一本足で立ちながら腰を器用に振りフラダンスを踊るフラミンゴの集団に、言葉を失う輝矢たち。

「フラミンゴのフラダンス…ねぇ~…」

「もっと腹の足しになるもの、ないのですかねぇ」

「みんな、好意で踊ってくれてんだから有難く受け取ってやろうぜっ!なっ!?」

 そのお礼に不満げな顔を見せる輝矢とユキジを、ハチが必死に説得する。

「ゴラミちゅわぁ~んっ…」

「お前はいつまで落ち込んでんだよっ!!」

 まだ失恋の痛手が癒えないモンキに、冷たく怒鳴るハチ。

「んっ…?」

 落ち込んで俯いていたモンキが、何かに気づいた様子で目を見開く。

「雪がっ…」

 モンキの目に入ってきたのは、街に積もった雪が空から照らす太陽の光により溶けて消えていく光景であった。フラダンスのリズムに乗るように緩やかに、雪はどんどんと溶けて、やがて街に雪はなくなる。

「“南国の街”かっ…」

『チャラチャチャチャ~~ンっ♪』

 照りつける熱い太陽。踊るフラミンゴ。流れるフラダンスのリズム。

『……っ』

“南国の街・トロピカーナ”の復活に、輝矢たちは皆、穏やかな笑みをこぼした。


「そういえばさっ」

「……っ?何です?」

 フラミンゴたちのフラダンスを見ていたハチが、思い出したように輝矢に声をかける。

「何で…白雪との戦いが負けられない戦いだったんだ?」

「……っ」

 ハチの問いかけに、少し目を細める輝矢。

「それは…」

 輝矢が少し俯く。


――貴方が死んだ後は、私があのワンちゃんを可愛がってあげるわぁっ!――


「それは…私の“一番大事なもの”が懸かっていたからですよ…」

「一番大事なもの…?」

 ハチに笑顔を向けて答える輝矢。その輝矢の言葉に、ハチが少し首をかしげる。

「あっ!わかったっ!“退治屋としての誇り”だろっ!?お前って意外と意地っ張りだからなぁ~」

 ハチが思いついたように笑顔を見せる。

「プライド高いのもいいけど、あんま高くしすぎんなよ?そんなのっ、命賭けて守るほどじゃねーんだからっ」

「……っええ」

 ハチの言葉に、輝矢が笑顔で頷く。

「肝に銘じておきますっ…」

 こうして色々なことのあった、白雪との戦いも何とか終わりを告げた。


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