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鬼斬り かぐや  作者: はるかわちかぜ
21/406

5.クマった上司 ◇3

「何で鬼人がっ……!」

「んなことより救助だっ!行くぞっ!羊スケっ!」

「はっはいっス!」


――ボォォォォォ~ンッ!


 ゴンと羊スケがそれぞれ狐化、羊化をして、倒れている人やシロクマの元へと駆けていく。


「グワアアアアッ!!」

「何故っ……」

 再び雄たけびをあげる鬼人を見つめ、どこか茫然と呟く鉄汰。


「“鬼口”っ!!」

「ひいえええっ!!」

「……っ」

 鬼人が逃げ惑うシロクマたちの一帯に、鬼口を放つ。眉をひそめて、懐に手を入れる鉄汰。

「“鉄汰スペシャル・バージョンスリー”」

 鉄汰が懐から出した鉄球を、鬼口とシロクマたちとの間に投げる。


――パァァァーーンッ!


「グガッ……!」

『おおぉぉ~っ!!』

 鬼口とシロクマの間に入った鉄球は、一瞬で壁のように広がり、鬼口を空高くへと跳ね返した。その光景に鬼人が顔をしかめ、守られたシロクマたちからは感嘆の声が漏れる。

「すっげぇーっスねっ!!バージョンスリーっっ!!」

「ケっ」

 シロクマを救助しながら感動するヒツジと、不機嫌そうにするキツネ。

「ふわぁーっはっはっはっ!!白熊の諸君っ!存分にボクに感謝したまえっ!」

「“鬼爪・天回”っ!!」

「んっ?」

 シロクマたちに恩を売っていた鉄汰に、鬼人が十本の爪を飛ばす。

「“鉄汰スペシャル・バージョンっ……」

「“瞬花”っ!!」

「何っ?」


――パァァァァーンッ!


 鬼爪が飛んでくる中、再び懐へと手を伸ばした鉄汰であったが、新しい鉄球を出そうとした矢先に、鬼爪が桜の花びらとなって散っていった。

「大丈夫かっ!?」

 そこへ現れたのは、村雨丸を構えた桜時であった。

「何してくれるんだよっ!!せっかくバージョンフォーのお目見えの時だったのにっ!!」

「ええっ!?」

 助けたというのに怒ってくる鉄汰に、桜時が少し困った顔を見せる。

「大体、君は誰さっ!?」

「俺はあれだよっ!輝矢っ!じゃあわかんねぇーかっ……えっと桃タローの弟子と一緒にいたイヌっ!」

「桃タローの弟子っ……?」

「当てがハズレましたね」

「……?」

 ハチの言葉に表情をしかめた鉄汰が、聞こえてくる声に振り返る。

「君っ……」

 鉄汰が振り返った先に立っていたのは、輝矢とモンキ、ユキジであった。

「何が絶対で何が確信なんでしたっけ?」

「……っ」

 少し嫌味っぽく言い放つ輝矢の言葉に、鉄汰が顔をしかめる。

「ふわぁーっはっはっはっはっ!きっと鉄汰スペシャルのちょっとした故障さっ!」

 鉄汰が無理やり笑ってみせる。

「何にせよ、鬼人を倒せば終わる話だよっ」

 そう言って鉄汰が表情を鋭くし、背中に背負っていた巨大マサカリを手に取る。


「“アイアン・スイング”っ!」


――ビュンッ!


「グガッ……!?ギャアアアッ!!」

 鉄汰がマサカリを振り切ると、マサカリから強烈な鉄の塊が飛び、鬼人を吹き飛ばした。

「見たかい?桃タローのお弟子さんっ!レベル一の鬼人など、ボクが本気を出すまでもないよっ!」

「すっげ……」

「……。」

 高らかと言い放つ鉄汰。その力に桜時は感心したように声を出すが、輝矢はそっと眉をひそめた。

「君とボクとの力の差を見せ付けてきてあげようじゃないかっ!ふわぁーっはっはっはっ!」

 笑いながら、倒れこんでいる鬼人の方へと駆け込んでいく鉄汰。


「……っ?」

 鬼人の倒れこんでいる傍で救助にあたっていたキツネ姿のゴンが、何かに気づいて顔を上げる。

「グガッ……ガッ……ガガッ……」

「……っ」

 起き上がった鬼人はどこか苦しげな声を出している。先ほどの鉄汰の攻撃によるダメージを苦しんでいるというよりは、体の奥深くから苦しんでいるような、そんな声であった。


「終わりだよっ!」

 そんな鬼人へと駆け込んでいく鉄汰。

「ちょっと待てっ!何か鬼人の様子がっ……!」

「“アイアンっ……」

 制止を促すゴンの言葉を無視し、まだ座り込んだままの鬼人に向かってマサカリを振り上げる鉄汰。

「スイっ……!」

「ガアアアアアアッ!!」

「何っ……!?」


――バァァァァーンッ!


「ううっ……!!」

 鬼人が叫んだ途端に、鬼人の全身から激しい光が放たれる。その光の強さに、突っ込もうとしていた鉄汰が押し返される。

「何っ……!」

「グガァァァァァッ……」

「……っ!!」

 鉄汰の目の前に現れる赤き鬼。

「“鬼炎”っ!!」

「ううっ……!!」

 赤鬼が鉄汰へ大口を開き、燃え盛る炎を放つ。

「うわああああっ!!」

「鉄汰っ……!」

 叫ぶ鉄汰。ゴンが身を乗り出す。


「“月器・十六夜”っ」


――パァァァァァーーンッ!!


「……っ!」

「ギャアアアアアッ!!」

「ふぅっ……」

 鉄汰の前へと立ち、十六夜で鬼炎を鬼人へ弾き返した輝矢が、疲れたように肩を落とす。

「君っ……」

 鉄汰が少し戸惑いがちに輝矢を見る。

「べっ……!別に助けてもらわなくったってねぇっ!あれくらいの炎っ!ボクのバージョンスリーでっ……!」

「鬼人は形態を変える時、七日から十日の仮死期間を要するんです」

「えっ……?」

 素直に礼を言うことなく、どちらかというと文句で言い返そうとしていた鉄汰が、輝矢の言葉に首をかしげる。

「土深くで仮死状態に入ると、どんな精巧な探知機も鬼人の反応を察知することはできない……」

「……っ」

 輝矢の言葉に驚いたように目を開く鉄汰。レベル一の緑鬼が、赤鬼へと形態を変えるために仮死期間に入っていたのだとしたら、鉄汰スペシャルに反応がなかったことにも納得がいく。

「それでっ……」

 納得したように頷くゴン。

「こんなの素人の私でも知っていますよ?」

 輝矢が鉄汰に余裕の笑みを向ける。

「オトポリでは……習いませんでしたか?」

「……っ!」

 その嫌味でしかない問いかけに、今まで自信満々だった鉄汰の表情が歪む。

「知っていたさっ!ちょ~っと君たちを試しただけだよっ!ふわぁーっはっはっはっ!!」

 無理に笑い声をあげる鉄汰。

「ウソばっか」

「見てて痛いよね」

 そんな鉄汰に、呆れたように言い放つ桜時とユキジ。

「知識はまぁあるようだが、それでもまぁ素人よりちょい上くらいだねぇっ!ボクには遠く及ばないよっ!」

 親指と人差し指で“ちょっと”を表現し、輝矢を小ばかにする演説を続ける鉄汰。

「はぁっ……」

「ああっ!何だいっ!?その顔はぁっ!」

 疲れたように肩を落とした輝矢に、鉄汰が不満げに声をあげる。

「何なら勝負してみるかいっ!?アイツを先に倒した方が勝ちさっ!ふわぁーっはっはっはっはっ!」

「はぁっ!?あんなぁっ!今、んなこと言ってる場合じゃっ……!」

「いいですよ、ハチ」

「えっ?」

 高々と笑う鉄汰に、桜時が怒鳴りかけるが、そんな桜時の言葉を輝矢が止める。止めた輝矢を不思議そうに見る桜時。

「口で言うだけではわからないようですから」

「……っ」

 表情を鋭くした輝矢を見て、鉄汰が不敵に笑う。

「ボクは桃タローの弟子なんかに負けはしないっ。絶対にねっ!」

「……っ」

 どこか必死に言う鉄汰に、輝矢は少し眉をひそめた。

「証明してあげるよっ……!!」

「あっ……!ちょっ……!」

 桜時が止める間もなく、鉄汰が鬼人の方へと走り出していく。

「シロクマさんたちの救助は頼みますよ、ハチっ」

「えっ?おっおいっ!輝矢っ!」

 鉄汰に続くようにして、鬼人の方へと走り出していく輝矢。


「グガガガッ……」

「桃タローの弟子なんかにっ……」

 やっと立ち上がった鬼人に、マサカリを振り上げる鉄汰。

「ボクは劣りはしないっ!!“アイアン・スイング”っっ!!」

「“月器・三日月”っ」

 輝矢は三日月を、鉄汰はマサカリを、鬼人へ向けて同時に振り切る。


――ゴッチィィーンッ!


 鬼人の前で交差し、止まってしまう三日月をマサカリ。

「グガッ?」

『……。』

 鬼人が間抜け面で首をかしげ、輝矢と鉄汰もそれぞれ唖然とする。

「何、してくれてるんだよっ!邪魔だよっ!邪魔っ!!」

「それはこちらの台詞です。そんな無駄に大きいマサカリ、振り回すのやめて下さい」

「このマサカリはボクの一族の伝統なんだよっ!君こそ何だいっ!?三日月っ!?まんまじゃないかっ!!」

「まんまで何が悪いんです?」

 三日月とマサカリが交差したまま、くだらない口論を繰り広げる輝矢と鉄汰。

「“鬼口”っ!!」

『……っ』

 そんな隙だらけの二人へ、鬼人が鬼口を放つ。

「“月器・十六夜”っ」

「“鉄汰スペシャル・バージョンスリー”っ!!」

 またもや同時に輝矢が三日月を振り上げ、鉄汰が懐かあら鉄球を投げる。


――ゴッチィィィーンッ!


『……。』

 輝矢の十六夜と鉄汰のバージョンスリーのそれぞれの盾が、幅を大きく取るため、またしても構える前に衝突する。

「だっから邪魔だって言ってるんだよっ!その満月っ!!」

「満月じゃありません、十六夜です。そちらのナマクラ鉄壁こそ邪魔なんですけど?」

「何だってっ!?」

「おっおいっ!お前ら、前見ろっ!!前っ!!」

『えっ?』

 またしてもくだらない口論を繰り広げていた輝矢と鉄汰が、少し慌てたように叫ぶゴンの声に前を見る。

『うっ……!』

 構えられなかった両者の盾の間を抜けて、二人へと向かってくる鬼口。二人が顔をしかめる。

「“左翼・滅羽”っ!」

『……っ』


――パァァァァァーンッ!


 二人に迫り来ていた鬼口に、横から青い羽根が突き刺さると、鬼口が二人の目の前で消滅した。

「もぉ~何やってんのさぁ~」

「由雉っ」

 呆れた顔を見せながら、二人の前へと立ったのは、人化して青い羽根を構えた由雉であった。

「足の引っ張り合いしてるだけじゃ~ん。ボクの手を煩わせないでよぉ~」

「そうですね、こんな鉄クズ使いに構ってないで、とっとと鬼人をっ……」

「そぉ~うはいかないよぉーっ!!勝負にはこのボクが勝たせてもらうっ!!」

『へっ?』

 由雉の言葉に輝矢が気持ちを改めようとしている中、まったく気持ちを改めずに再び鬼人の元へと飛び出していってしまう鉄汰。

「そんな正面から飛び込んだらっ……!」

「ボクが桃タローより優れているということを示さなければならないんだっ!!」

 輝矢が止めようと手を伸ばすが、鉄汰は強い意志を見せて突き進む。

「“アイアン・スイング”っ!!」

「……っ“鬼炎”っ!ガアアアアアッ!!」

 鉄汰がマサカリから鉄の塊を放つと、鬼人も口から炎を放った。

「そんな炎っ……!」

 ぶつかり合う二つの力を見ながら、余裕の表情を見せる鉄汰。

「何っ……!!?」

 鉄汰の放った鉄は、鬼人の鬼炎にあっさりと溶けていく。

「ううっ……!!」

 鉄を溶かしつくした強力な炎が、鉄汰へと向かってくる。表情を凍りつかせる鉄汰。

「うわあああああっ……!!」

「……っ」


――バァァァーンッ!


『……っ』

 鬼炎が鉄汰のいた辺りの地面を直撃し、土を抉るように深く穴をあける。不安げな表情で見守る一同。

「ううっ……」

『……っ!輝矢っ!!』

 地面にあいた穴のすぐ横で、鉄汰と重なるようにして倒れている輝矢。その左腕には鬼炎がかすったのか、ひどい火傷を負っていた。桜時やゴンたちが身を乗り出して輝矢の名を呼ぶ。

「……っ!君っ……!」

 起き上がった鉄汰が、負傷した輝矢に駆け寄る。

「あ~……後三センチ右に飛んだら完璧に避けられたんですけどねぇ~」

「……っ」

 左腕を押さえながら苦い笑みを浮かべる輝矢。そんな輝矢を見て、目を細める鉄汰。

「愚かだねっ!ボクを助けるくらいなら鬼人に攻撃をっ……!」

「私はっ……」

「……っ」

 鉄汰の言葉を遮り、輝矢が強い眼差しを鉄汰に向ける。

「私は別に、アナタと争うために鬼人を退治するわけではありません」

「……っ?」

 輝矢の強い瞳に、鉄汰が眉をひそめる。

「我が師・桃タローの教えはただ一つ……」

 輝矢が鉄汰へ笑みを向ける。

「“誰かを守るためだけに戦え”……と……」

「……っ!」

 鉄汰に走る衝撃。


「グアアアアアアッ!!」

『……っ!』

 そんな輝矢と鉄汰に、飛びかかっていく鬼人。

『輝矢っ……!!』

 桜時とモンキが助けに入ろうとする。


「下がっとくだぁぁ~」

『へっ?』

 そんな二人に制止を促し、二人の前に出たとある人物。


『クマ二郎っ!?』


 そう、それはクマ二郎であった。


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