4.不幸な女の青い鳥 ◇5
翌日。
「いっや~っ!まっさかあなた方がかの有名な桃タローのお弟子さんで、鬼人退治屋の方だったとはぁっ!」
街の入口で一際、大きな声を出しているのは、昨日の太っちょ街長である。
「出目鯉が弱ってたのも鬼人がやったことだったそうでぇっ。ミチルと協力して捜査してたんですってぇ?」
街長はテンション高く、どんどん話を続ける。
「そんなこととは露知らずぅっ!“怪しい”だなんて言ってホントに申し訳ありませんでした!!」
「はっ、はぁっ……」
頭を下げる街長に、捜査をしていた覚えはないがとりあえず頷いておく輝矢。
「ミチルっ!昨日は酷いこと言って悪かったなぁっ!」
「私もっ!疑ったりしてごめんなさいっ!」
「いえっ……いいんですよっ……昨日、蟹座占い十位位でしたしっ……」
次々と謝る街人たちに、笑顔を向けるミチル。
「どうなってんだぁ~?」
街人たちからすっかり正義のヒーロー扱いされていることに、不思議そうに首をかしげるハチ。
「感謝してくれていいよぉ」
「へっ?」
不思議がっていたハチに、得意げに言ったのは由雉であった。
「ボクがナイスフォローしとかなかったら、君たち今頃、鬼人呼んだぁって街追い出されてたとこだよっ?」
「それはともかく鯉まで鬼人のせいってホンマか?」
「うわさによると、一昨日の夜あげたエサが腐っていたそうですよ」
「フツーやなぁ」
こっそりと答える幸コに、モンキが呆れたように肩を落とした。
「ではそろそろ行きましょうか」
「おうっ」
「幸コちゃ~んっ!!手紙書くからなぁ~っ!!」
「はっ……はいっ……」
輝矢の言葉に大きく頷くハチ。涙ながらに手を振るモンキに、幸コは少し呆れながらも手を振り返した。
「お元気でぇ~っ!!」
「またいらして下さいねぇっ!」
ミチルや幸コをはじめとする多くの街人に見送られて、幸ノ街を旅立っていく輝矢たち。
「……。」
そんな遠ざかっていく輝矢たちの背中を、一人浮かない表情で見つめる由雉。
「由雉っ」
「……?」
「はいっ」
「えっ……?」
そんな由雉に、ミチルが荷造りされた大きな鞄を差し出した。由雉が戸惑うようにミチルを見る。
「何っ……」
「行きたいんでしょう……?」
「……っ」
ミチルの問いかけに、少し驚いたように目を開く由雉。
「でもっ……」
「今度はあなた自身で、あなたの幸せを見つけていらっしゃい……」
「ボクのっ……?」
「ええっ」
ミチルが大きく頷く。
「私はいつまでもこの街で、あなたの帰りを待っているわっ……」
「ミチルさんっ……」
優しく微笑みかけるミチルに、由雉も笑顔をこぼす。
「うんっ」
ミチルから鞄を受け取る由雉。
「行ってきますっ……!」
――ボォォォォ~ンッ!
由雉が青い鳥となり、同じ青い空へと高く羽ばたいていく。
「……。」
羽ばたいていく一羽のキジを見上げるミチル。
「あぁ~あ~行っちゃったぁ~」
ミチルの横で、幸コがどこか寂しそうに呟く。
「いってらっしゃいっ……」
こうして幸せを呼べない青い鳥は、幸せの街から飛び立っていった。
「うううぅ~っ!幸コちゃぁ~んっ!!」
「だあああっ!!何、すぐ落ち込んでんだよっ!鬱陶しいっ!!」
街を出て五分。もう幸コと離れたことに限界を感じて落ち込むモンキに、ハチが怒鳴りあげる。
「かぐやぁ~んっ、こんな傷ついた俺を励ましっ……」
「お断りします」
「ううっ……」
言い終わらないうちに断られ、さらに落ち込むモンキ。
「こっらぁっ!!待てぇっ!!このクソ鳥ぃっ!」
『……?』
脇道から聞こえてくる声に、輝矢たちが振り向く。
「俺の弁当に入ってたササミチーズ返しやがれぇっ!!」
『ササミチーズ?』
妙に聞き覚えのあるフレーズに、ハチとモンキが首をかしげる。
「クっ……!」
『ああっ!!由雉っ!!』
「えっ?」
かなり怒った様子のゴツい大男に追われるようにして、脇道から輝矢たちの前へと飛び出してきたのは、青いキジ、先ほど別れたばかりの由雉であった。
「お前なんでっ……」
「こっらぁぁっ!!クソ鳥ぃっ!!」
「……っううっ……!!」
「あんっ?」
男がやって来ると、ユキジがその場で泣き崩れる。
「何かっ……嫌な予感がっ……」
ユキジが泣き崩れた途端に、表情を引きつる輝矢たち面々。
「ボクっ……!ボクっ……!本当はこんなことしたくなかったんだけどっ…この人たちが無理やりっ……!!」
「何ぃぃっ!?」
『お前なぁっ!!いい加減にしやがれぇっ!!』
「エヘっ」
怒り狂うハチとモンキを見て、愛らしい笑みをこぼすユキジ。
こうして、輝矢一行に一羽の性悪キジが加わった。




