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鬼斬り かぐや  作者: はるかわちかぜ
15/406

4.不幸な女の青い鳥 ◇2

「何々だよっ!あっのクソ鳥はぁっ!!ああーっ!丸焼きにしないと気が済まねぇっ!」

 両手に買い物袋を持ち、2本足で歩くハチが、怒りの収まらない様子で叫ぶ。罪を着せた上にとっとと飛び去っていったあの青い鳥への怒りは、買い物を終えてもまだ収まりきらないのであった。

「ああっ!俺が如意棒で串焼きにして、焼き鳥として食ってやらな気が済まへんわぁっ!」

 同じように買い物袋を両手に抱えながら、激しい怒りを見せているモンキ。

「そんな物騒なことを言ってはいけませんよ、二匹とも」

『へっ?』

 穏やかな口調でそう言う、特に買い物袋は持っていない輝矢。ハチとモンキが目を丸くして振り返る。

「精々、跡形もなくしてやるくらいに踏みとどまらないとっ」

「お前が一番物騒だろうがっ!」

「そんな物騒なお前も好きやでぇっ!輝矢んっ!!」

 笑顔で物騒発言をする輝矢に、力強く突っ込むハチと愛を叫ぶモンキ。そんなこんなと青い鳥への怒りを語っているうちに、三人はミチルの家へと帰り着いた。


「ただいっ……」

「きゃあああっ!!」


――ドンガラガッシャンバァーンッ!


「まっ……」

 扉を開けた途端に聞こえてくる悲鳴と破壊音に、“ただいま”を言っていたハチの表情が曇る。

「って、大丈夫かぁっ!?」

「今度は何やったんやぁ~」

 慌てて家の中へと入っていくハチと、少し呆れたような顔を見せる輝矢とモンキ。

「ミチルさんっ!?うっ……!」

 部屋に駆け込んだハチの表情が凍りつく。


「だっ……大丈夫ですっ……」

 物の激しく散乱したリビングの中央で、弱々しく蹲っているのはミチル。髪も服も乱れており、まるで嵐の中を歩いてきたような状態となっていた。

「いっ……一体、何やったんだっ……?」

「いえ…お部屋のお掃除をしようと掃除機のスイッチを入れたら、掃除機からミニ台風が発生しましてっ……」

「どんな掃除機だよっ!!」

「うわっちゃああ~っ」

 ハチがミチルに突っ込みを入れている中、部屋に輝矢とモンキが入ってくる。

「こりゃ晩飯の前に大掃除やなぁ~」

「え~」

 モンキの言葉に不満げな声を出す輝矢。

「んっ?幸コちゃんはぁっ?」

 モンキが買い物に出かける前はいた幸コの姿がないことに気づく。

「ああ、幸コちゃんなら幸福回りがあるからって、さっき……」

「ぐわぁぁーんっ!!」

 ミチルの返答に、激しくショックを受けるモンキ。

「俺はっ……!俺はっ……自分の幸せを見失ってもたっ……というわけで掃除を頼む、イヌ」

「何が“というわけ”だよっ!掃除したくねぇーだけだろっ!てめぇーはぁっ!」

「それにしても……」

「……?あっ、すみませんっ……」

 ハチとモンキの言い合いを聞きながら、輝矢がミチルに駆け寄り、蹲っていたミチルに手を差し伸べる。輝矢の手を取り、ゆっくりと起き上がるミチル。

「よいしょっとっ……」

「ちょっとはコウノトリに頼んで、“幸力”をかけてもらった方がいいのではないですかぁ?」

「……っ」

「……?」

 輝矢の言葉に、どこか悲しげな笑みを浮かべるミチル。輝矢はそのミチルの様子にまた眉をひそめる。


「だっから幸コちゃんがいなくなって掃除する活力がぁっ……!」

「いいからとっとと片付けやれっっ!!」

「ただいまぁー」

『へっ?』

「んっ?」

 ハチとモンキの口論が続く中、“ただいま”と言って部屋へと入ってきたのは見覚えのある青髪の少年。ハチ、モンキ、少年が目を丸くして互いを見る。


「あっ……」

『ああああっ!!』

 勢いよく声をあげるハチとモンキ。それは、先ほどハチたちに罪を着せて逃げ去ったあの鳥の少年であった。

『おっ前っ!!』

「さっきはどうもぉ~ワンコさんとおサルさんっ」

「どうもじゃねぇっ!丸焼きにしてやるっ!」

「串焼きにして焼き鳥として食ったるわぁっ!!」

 笑顔を見せる少年に、今にも飛びかかりそうな勢いで怒鳴りつけるハチとモンキ。

「まぁまぁ二匹ともっ」

 そんな二人を宥めて、少年の前へと出る輝矢。

「私が跡形もなくしてやりましょうっ……」

「うっ……」

 輝矢の冷たい笑みに、さすがの少年も顔を引きつる。


「覚悟はでっ……」

「おかえりなさい、由雉ゆきじ

「ええっ?」

 少年に容赦なく月器を向けようとしていた輝矢であったが、横のミチルが笑顔で少年を迎えたため、間の抜けた様子で肩を落とした。

「おかえりっ……?」

「輝矢さんたちと知り合いだったの?」

「うん、まぁ何てゆーか、この人たちが泥棒の疑いをかけられてた所を颯爽と助けてあげたってゆーか」

『ウソをつけぇっ!!』

 少年の言葉に、同時に突っ込みを入れるハチとモンキ。

「まぁ、それはイイことをしたわねっ」

「うんっ」

「だっからウソだっつってんだろーがぁっ!!」

 笑顔で頷きあうミチルと少年に、ハチがもう一度突っ込みを入れる。

「つーかコイツ、誰なんやぁ~?ミチルさんっ」

「ああ、ご紹介しますね」

 モンキの問いかけに、ミチルが笑顔で少年に手を向ける。


「私の“専属ブルーバード”の由雉です」

『えっ…?えええっ!?』


 部屋にハチとモンキの叫び声が響いた。






 数分後。

「せっせっせっ、せっせっせっ」

 掃除機が巻き起こした嵐により荒れ果てたリビングを、言葉通りせっせと片付けているハチ。

「サルっ、これ棚の上に置いてぇー」

「あいよぉ~」

 ハチがトスしたダンボールを持って、軽々と棚の上へと飛び上がるモンキ。

「ついでに棚の上の掃除ぃー」

「あいよぉ~」

 ハチがトスしたハタホウキで、モンキが棚の上を掃除する。

「せっせっせぇ~せっせっせぇ~っ」

「むっ」

 モンキが掃除している棚の上から落ちてきた埃が、下でゆったりとソファーに座っている由雉へと降りかかる。

「ちょっとぉ~埃舞ってるんだけどっ」

「へっ?」

 由雉の声に、モンキが下を向く。

「もっと丁寧にやってよ。それとここの床の縁も掃除してぇ~」

「ああっ、すんませんっ……って、何でお前に小姑的なこと言われなあかんねんっ!!」

 一度は謝ったモンキが、何か違和感を感じて怒鳴りあげる。

「ってか何で俺らが掃除しとって、お前が座ってんねんっ!!」

「そうだっ!お前も手伝えっ!」

 モンキの怒鳴り声に合わせて、ハチも不満げに由雉に怒鳴りかける。

「……ううっ!ボク、か弱いから部屋が埃っぽいだけで頭痛がっ……!」

『ウソをつけぇっ!!』

 急に弱々しく蹲る由雉に、ハチとモンキが同時に突っ込みを入れる。

「絶対お前のせいだろっ!?ミチルさんが不幸なのってっ!」

「せやせやっ!お前みたいな薄情トリ、“あなたを幸せにします”ってキャラちゃうでぇっ!!」

「……。」

 二人の言葉に、由雉が少し目を細める。

「何で他人をわざわざ苦労してまで幸せにしてあげなきゃいけないのぉ~?」

『ああっ!?』

 やる気なく言う由雉に、顔をしかめるハチとモンキ。

「だいたいこの街どうかしてんだよ~幸せって他人に貰うもんじゃなくって自分で手に入れるもんでしょ?」

「うっ……!なかなか正論なこと言いよってからにっ……!」

 由雉の正論っぷりに、返す言葉を詰まらせるモンキ。

「だぁ~かぁ~らぁ~、ボクはだぁ~れも幸せになんかしないのっ」

「幸せにしないならまだしも不幸にしてんだろっ!不幸にっ!」

「……ううっ……!」

 睨みながら指差すハチを見た途端に、由雉がソファーので泣き崩れる。

「あんまりだよっ……!誰かを不幸にするなんて酷いことっ……こんな純粋なボクができるはずないのにっ……!」

「いや、するだろ」

「誰が純粋やねん」

 泣き崩れた由雉に、まったく同情することなく冷たく一言入れるハチとモンキ。


「……。」

 ハチやモンキと戯れている由雉を、ダイニングテーブルの椅子に座って、どこか気難しい表情で見つめている輝矢。特に掃除を手伝おうとしている気配はない。

「醤油ベースとお塩ベース、どちらがお好きですか……?」

 台所に立ち、晩御飯の支度をしているミチルが、輝矢へと問いかける。

「どっちも嫌いなんで、味噌ベースでお願いします」

「味噌っ……?どこにしまっ……あらっ?きゃああああっ!!」

「……。」

 味噌を探して冷蔵庫を開けたミチルが、冷蔵庫の中から溢れ出してきたものたちに押し潰される。その光景を見て、もう段々馴れてきたように呆れた顔を見せる輝矢。


「ったく、何やってんのぉ~?冷蔵庫の中くらいキレイにしときなよっていつも言ってるじゃ~ん」

「そうよねぇ……ごめんなさいっ」

「……っ」

 笑顔を見せて謝るミチルを見て、由雉はすぐさま目を逸らして顔をしかめた。

「……。」

 冷蔵庫から出てきたものを片付けながら、どこか悲しげな表情を見せるミチル。


「……っ」

 そんなミチルと由雉に、輝矢は少し眉をひそめた。





 翌日。

「もう一日いるぅっ!?」

 朝っぱらからミチルの家に大きな声が響き渡る。

「ええ」

 その大きな声に、いつもの平静な表情で頷く、ティーカップ片手の輝矢。

「何でぇっ!?こんなまったく幸せのやって来ない幸せの街なんてとっとと出た方がっ……!」

「何となく居たいので居ます」

「ええぇぇーっ!?」

 そんな適当な理由に、不満げな表情を見せるハチ。

「おい、モンキぃ~、お前からも何とかっ……」

「ひゃっほぉーいっ!幸コちゃん探しに行ってこよぉ~っ!」

「……。」

 もう一日滞在することが決まり、機嫌よく出掛けて行くモンキに、ハチが固まる。

「わかったよっ、じゃあ俺はもう一回寝っ……」

「あっ、ちょうど良かったっ!お散歩付き合ってぇ、ワンコくんっ」

「ああっ!?」

 ソファーの上に寝転がろうとしたハチを、横から抱えあげて、玄関の方へと歩いていく由雉。

「ちょっ……!何すんだよっ!俺は寝るっつってっ……!」

「ほらほらぁ~ボク、可愛い顔してるじゃない?だからぁ悪い年上の女が寄ってこないよう番犬してぇ~」

「いやっ!俺っ、年上の女相手じゃ気絶するしっ……ってか待ってって!まだイイなんて一言もっ……!」

「行ってきまぁ~すっ」

「行きたくねぇーっ!!」

 ほぼさらわれるようにして、由雉とともに出掛けていくハチ。


「随分と慌てて出掛けて行きましたねぇ」

「ふぅ~っ、やっと干し終わったわぁ……」

「……?うっ……」

 声が聞こえ振り向いた輝矢が、ベランダから戻ってきたミチルを見て表情を引きつる。

「あらっ……?皆さん、もう出掛けてしまわれたんですか?」

 ベランダで洗濯物を干してきたのか、洗濯籠を片手に部屋へと戻ってきたミチルは、髪も服も乱れており、山で遭難にでも遭ってきたような有様であった。

「何で洗濯物干しただけで、そうボロボロになるんですかねぇ……」

「それが……干し始めた途端に地域限定竜巻みたいなものが襲いかかってきまして……」

「はぁっ……」

 笑顔で話すミチルを見て、深々と溜め息をつく輝矢。

「見事なまでの不幸っぷりですね」

「今日、蟹座、占い十位でしたからっ……」

「……。」

 笑って答えるミチルに、輝矢が少し真剣な顔つきとなる。

「青い鳥が付いているのに……?」

「……っ」

 輝矢の問いかけに、ふいに表情を曇らせるミチル。

「ミチルさん……彼は本当にコウノトリなのですか……?」

「……。」

 その問いかけに、ミチルはそっと俯いた。





 一方、由雉に連れられ、無理やり散歩に連れ出されたハチ。

「でぇ?散歩ってどこ行くんだよっ?まったササミチーズ盗み食いに行くとかじゃねぇーだろーなっ?」

 相変わらず幸せそうな人々の行き交う道を、由雉と並んで歩いていくハチが由雉へと問いかけた。随分と朝っぱらから出掛けたものだから、まだ商店街の店もあまり開いていない。

「別にぃ~行くとこなんかないけどぉ?」

「はぁっ!?」

 由雉のやる気のない返事に、大きく顔を歪めるハチ。

「じゃあ何だって散歩に出てきたんだよっ!?」

「ん~?何となくかなぁ~」

「クッソっ……どいつもコイツもっ……」

 輝矢と同じようなことを言う由雉に、ハチは怒りを感じて前足を強く握り締めた。

「それにっ……あんまりミチルさんと顔合わせたくないんだよね」

「えっ……?」

 由雉が不意に漏らした呟きに、ハチが少し驚いたように顔を上げる。

「それってどういうっ……」

「由雉っ!!」

『……?』

 前方から聞こえてくる由雉を呼ぶ声に、ハチと由雉が前を見る。

「あれはっ……」

「幸コ」

 前方からこちらへと駆けてくるのは、昨日、ハチたちをこの街まで案内してくれた幸コであった。幸コは何やら慌てたような表情を見せている。

「幸コ、何か用?」

「それがっ……!」

「さっちこちゃぁーんっ!!」

「ぎゃぷっ!」

「ええっ?」

 ハチを踏み潰して、勢いよく幸コの前へと飛び出してくるのは、明るい顔、声、動きのモンキであった。

「こんな街中で出会えるなんてぇ、やっぱ俺らって運命のカッポォっ!?」

「あっ……あのっ……」

「俺と二人で幸せの街の人々さえ羨むほどの幸せの作り上げっ……!」

「アホなこと言ってないで、とっととどけぇーっ!!」

「ぎゃう~っ!!」

 勢いそのままに幸コにプロポーズしようとしたモンキを、ハチが下から突き飛ばす。

「ったくっ!」

「で、何の用?」

「えっ?あっ、ああっ、うんっ」

 ハチとモンキのことを特に気にする素振りなく、再び幸コに問いかける由雉。幸コが気を取り直して頷く。

「大変なのっ!噴水池の“幸福の出目鯉”がっ……!」

「えっ……?」

「出目鯉?」

 幸コの言葉に、由雉とハチが眉をひそめた。





 幸ノ街中央。噴水池。

「ああっ……!!わたっ……!私の大っ切な大切な出目鯉がっ……!」

「お気を確かにっ!街長っ!」

「一匹ずつ水槽に移し変えて丁重に運べぇーっ!!」

 噴水池の前には多くの街人が集まり、混乱状態となっていた。池にプカプカと浮いている鮮やかな模様の出目鯉を、一匹ずつ丁寧に水槽に移し変えて運んでいく者たち。その者たちの横で鯉を見ながら、頭を抱えている太めの中年男。どうやらこの街の街長のようである。


「うっわぁ~何やぁ?たかが鯉にえらい騒ぎやなぁっ」

「あの鯉はこの街の幸福の象徴なんです」

「幸福の象徴?鯉が?」

「はい。初めてこの街に我々コウノトリ一族が降り立った時に、共に連れてきた鯉だそうで……」

「ナルホドなぁ~」

 幸コの解説に、モンキが感心したように頷く。

「昨日までは元気だったのに、今朝世話係の人が来たら、全匹弱りきって池に浮いていたそうです」

「せやけどそんなに大変なことちゃうんじゃっ……」

「だっ……誰だぁっ!私の大切な出目鯉に何をしたぁっ!?」

『……?』

 街長である太めの男が、集まっている街人に向かって叫ぶ。


「お前かっ!?お前ではないのかっ!?それともお前かっ!?」

 街人たちを次々と指差して、問い詰めるように聞いていく街長。


「何やぁ~?あのオッサン、感じ悪いなぁ~」

「おっ……!俺、見たぞっっ!!」

『……?』

 そんな中、集まっていた街人の一人が手を挙げて声を出した。そちらに皆の注目が集まる。

「昨日っ……!ミチルが噴水池にはまってるトコっ……!!」

「なっ……!」

『……っ』

 その男の言葉に、由雉やハチたちが表情を変える。

「それならボクも見たっ!何か見慣れないヤツらと一緒に池でバタバタやってんのっ!」

「私も見たわっ!!」

 次々と声を出していく街人。

「ミチルだとぉ~っ!?」

 街長が怒った顔で、ミチルの名を口にする。

「よぉーしっ!問い詰めてやるっ!ミチルをここへっ……!」

「ちょっ……!ちょっと待ってよっ!!」

「んんっ?」

 側近の者にミチルを連れてくるよう命令しようとしていた街人に、思わず声をあげたのは由雉であった。街長や街人たちの視線が由雉に集まる。

「お前はミチルのところのっ……」

「池にはまったって、たったそれだけのことでミチルさんを疑う気っ!?そんなのおかしいよっ!」

「何だとっ?」

 由雉の言葉に、街長が眉をひそめる。

「そうだそうだっ!だいたいミチルさんがんなことするわけねぇーしっ!」

「それに俺らがミチルさん引き上げた時は、その鯉、ピンピンしとったでぇっ!!」

 由雉に並ぶようにして、街長に訴えるハチとモンキ。

「んん?何だぁ?あのイヌとサルはっ!」

「昨日、ミチルと一緒にいた者たちだそうです。何でも旅の途中で立ち寄ったとかっ」

「旅の者ぉぉ~?怪しいな」

『……っ』

 街長が疑いの目をハチとモンキに向ける。

「お前たちがミチルとツルんでやったのではないかぁ?」

「だぁーっから違うっつってんだろっ!!」

「そうだよ。この人たちが疑わしいのは確かだけど、ミチルさんは無関係さっ」

「お前なぁっ!人がフォロー入れてやってんねんからフォローで返せやっ!!」

 ミチルのみを庇い、特にハチたちを庇う気のない由雉に、モンキが突っ込む。


「どうだかなぁ~っ!なんせミチルはっ!“不幸を呼ぶキジ”なんか飼ってっからさぁっっ!!」

「……っ!」

 その時、街人の一人が発した言葉に、由雉の表情が凍りつく。


「キジっ……?」

「ちょっとっ!そんな言い方っ……!」

 目を丸くするハチ・モンキと、怒ったようにそう言った街人を見る幸コ。

「確かにっ!出目鯉たち、みぃ~んなミチルの不幸菌にやられちまったんじゃないのぉっ?」

「おお~っ!怖っ!感染したくねぇーっ!!」

『あっはっはっはっはぁ~っ!!』

「……っ」

 街人たちの笑い声に、歯を食いしばり、強く拳を握り締める由雉。

「だいたいミチルはさぁっ!」

「……っ」

「ふえっ?」


――バッコォォォォーンッ!


「ギャアアアアアっ!!」

『……っ!』

 さらにミチルへの愚弄の言葉を続けようとした街人の一人を、モンキが飛び蹴りで景気よく吹き飛ばす。驚きの表情となる由雉を初めとするそこにいる者たち。

「ふぅ~っ」

「ふうじゃねぇっ!何やってんだよっ!!お前はぁっ!!」

「うおっ!」

 着地して一息ついたモンキに、ハチが全力で突っ込みを入れる。

「いやぁ~だってついっ……」

「ついじゃねぇーよっ!ついじゃあっ!!」

 苦笑いを見せるモンキを、容赦なく攻め立てるハチ。

「だいったいお前は後先考えずに行動しすぎなっ……!」

「おいおいっ!あのサルたちもミチルの不幸菌にやられちまってるんじゃっ……!」

「……っ」

「ふえっ?」


――バッコォォーンッ!


「ぎゃあああっ!!」

「……っ!」

 またしても愚弄するような言葉を吐いた違う街人を、今度はハチが飛び蹴りで吹き飛ばした。

「……って、何してんねんっ!お前っ!!」

「うおおおーっ!何してんだぁっ!!俺ぇっ!」

 着地したハチにモンキが突っ込みを入れるが、ハチは自分のした行動に苦悩するように頭を抱える。


「あの危険さ、間違いないっ!アイツらが出目鯉弱らせた犯人だっ!」

「捕まえろっ!」

『……っ』

 街人たちが敵意のこもった目でハチとモンキを見つめ、二人を包囲する。二人は表情を鋭くし、敵意を向けてくる街人たちを突き上げるように睨んだ。

「確かについやっちまったことだっ」

「ああっ後先まったく考えてへん行動やっ……せやけどなぁっ」


――ボォォォーンッ!


 二人が一斉に人化する。


『人を笑う奴に幸せになる資格はねぇっ!!』


『うおおおーっ!!捕まえろぉーっ!!』


 桜時・門貴と、街人たちとの間で乱闘が始まる。



「大変っ!由雉っ!私、輝矢さん呼んでくるからっ!」

「……。」

 その場に由雉を残して、走り去っていく幸コ。由雉は幸コの言葉に返事することなく、ただまっすぐに街人たちと殴り合っていく桜時と門貴の姿を見つめていた。


「……熱くなっちゃって…バカみたいっ……」

 そう呟いた由雉は、どこか泣きそうな表情を見せていた。

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