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鬼斬り かぐや  作者: はるかわちかぜ
14/406

4.不幸な女の青い鳥 ◇1

 とある小高く美しい丘。爽やかな風の吹く、穏やかな地。

「どぉーう考えてもおっかしいだろぉっ!!」

 に響き渡る、穏やかでない声。

「なんでっ!なぁーんでっ!あんだけ貰ったバナナが一晩でなくなるんだよっ!?」

 その穏やかでない声の主は、一匹の白いイヌ・ハチである。

「さぁ~?バナナの七不思議ちゃうっ?」

「バナナにそんなに不思議があってたまるかぁっ!!」

 ハチの怒声に適当に答える、一匹の茶色いサル・モンキ。その適当な返事に、ハチの怒りはさらに加速する。

「ったくっ!旅の貴重な食料をガッツリ食いやがってっ!」

「ハチ、そんなに食料が欲しいのなら、私が一つ、通行人を締め上げてっ……」

「だっから人の道に反することはすんなっつってんだろーがぁっ!!」

 真顔で非道なことを言う輝矢に、力強く突っ込むハチ。

「ああぁ~っ!かっぐやぁ~ん!俺も腹減り過ぎて死にそぉ~っ!」

「安らかに餓死して下さい」

「ううっ……」

 輝矢に冷たくあしらわれ、悲しい表情を見せるモンキ。とある雑種の街でニセ退治屋・サイ蔵の悪事を暴いた輝矢たちは、サイ蔵に騙されていたサルの門貴を仲間にし、新たに一人と二匹の旅が始まったのである。

「だぁーっ!やっぱお前が悪いっ!クソザルっ!」

「ああっ!?やろうっちゅ~んかぁっ!?アホイヌぅ~っ!」

 しかしどうにも相性の悪いイヌとサルのお陰で、旅は一層騒がしくなっていた。


「何かお困りですか?」

『へっ?』

「……?」

 上空から聞こえてくる声に、殴り合いを始めそうな空気であったハチ・モンキと、輝矢が上を向く。

『……っ』

 上を見た三人が皆、目を見開く。

「私で宜しければ、お力になりますよ?」

 輝矢たちが見上げた先の空にいるのは、青空と同じ、鮮やかな青色の羽根を持った一羽のトリであった。トリは可愛らしい笑顔を向け、さえずりのような美しい声で輝矢たちに声をかける。

「鳥っ……」

 ハチがどこか悲しげにその翼を見る。

「ああ、申し訳ありません」


――ボォォォ~ンッ!


『……?』

 トリが地面へと降下し、その体が白い煙に包まれる。

「私、コウノトリの獣人、さちコと申します」

「……っ!」

 白い煙の中から現れたのは、先ほどのトリの羽根と同じ鮮やかな青色の長い髪に、大きく穏やかな緑色の瞳の美しい少女であった。少女が丁寧に微笑みかけると、モンキが大きく目を見開く。

「何かお困りの様子でしたのでお声をおかけしたのですが……」

「ずっきゅぅ~んっ!!」

「えっ?」

 モンキが叫んだ突然の擬音語に、幸コが目を丸くする。


――ボォォォォ~ンッ!


『……?』

 輝矢たちや幸コが首をかしげる中、人化するモンキ。

「ああっ……実はめっちゃ困っててんっ……」

 人の姿となった門貴がすかさず幸コに近寄り、その手を取る。

「アンタと出会ったことでっ……収まらへんくなったこの胸の高鳴りにっ……」

「えっ……?」

「くだらねぇーこと言ってんじゃねぇっ!!」

「ぐおおおおうっ!!」

 妙にカッコをつけて言い放った門貴の後頭部に、ハチの飛び蹴りが炸裂する。

「せっかくイイ感じやったのに何すんねんっ!このアホイヌぅっ!!」

「なっにがイイ感じだっ!!女に会う度に軽口叩いてんじゃねぇーよっ!この色ザルっっ!!」

「女が嫌いっちゅーお前のんがおかしいねんっ!お前、人生三十割損しとうでぇっ?」

「サルに人生語られたくねぇーよっ!しかも何だぁぁっ?三十割ってっ!」

「あっ……あのぉ~っ……」

 ゴングを鳴らしたイヌとサルの終わりなき口論に、口を挟む隙もなく、幸コの方が困り顔を見せる。

「えっ……えっとっ、何かお困りなことはありませんか?」

「はいっ?」

 気を取り直して、今度は輝矢に問いかける幸コ。

「そうですねぇ~」

 輝矢が少し考え込む。

「十分愛情注ぎまくってるんですけど、どうにもハチが釣れないんですよぉ~どうしたらいいと思います?」

「えっ……?」

「くだらねぇーこと聞いてんじゃねぇっ!!」

 輝矢の発言に、ハチが顔を赤らめながら、門貴との口論を放り出して突っ込みを入れる。

「かっぐやぁ~ん!俺にも愛情をぉ~っ」

「そんな余分な愛情は残っていません」

「ううっ……」

「あのぉ~お困りでないようでしたら私はこれでっ……」

「ちょちょちょっ……!ちょっと待てっ!!」

 あまりにも自分たちのペースで生きている輝矢と門貴の様子に、諦めたように立ち去ろうとした幸コを、ハチが慌てて止める。

「俺ら旅の途中なんだけどっ、食料なくなっちゃって困ってんだっ」

「旅っ?」

 物珍しそうに聞き返す幸コ。

「ああっ、それでこの近くに国か街かあれば教えてもらいてぇーんだけどっ……」

「それなら是非っ、私の街にいらして下さいっ!」

「えっ?」

 急に笑顔となる幸コに、ハチが少し驚いたように目を丸くする。

「幸コチャンの街っ!?そんなぁ~いきなり両親に紹介なんてどないしょぉ~っ?」

「人語も理解できないのですか?サル」

 妄想を繰り広げる門貴に、輝矢が冷たく一言入れる。

「ここから一時間くらいですからっ!私が道案内しますわっ」

「そっそうか、じゃあ頼もうかなっ」

「はいっ!」

 笑顔で大きく頷く幸コ。

「あの街を訪れれば、きっと貴方がたも“幸せ”になれますわっ」

『幸せにぃっ?』

 幸コの言葉に、輝矢たちは皆、不思議そうに首をかしげた。





 一時間後。

「僕と結婚してくれないかっ!?ヒトミっ!」

「まぁっ……!その言葉を待ってたのっ!ツトムさんっ……!」

 幸せそうなカップル。

「お生まれになられましたぁーっ!!元気な男の子ですよぉーっ!!」

「うおおおおーっ!たろぉーっ!!」

 幸せそうな父親になったばかりの男。

「ワンワンワワンっ!」

「にゃ~んっ♪」

 道行く普通のイヌやネコまでもが幸せのオーラを出している。


『……。』

「ここが私の住んでいる“こうノ街”ですわ」

 街の入口で呆然とした表情を見せている輝矢たちに、幸コが笑顔で紹介する。その街は人はもちろん、イヌやネコまでもが幸せ全開の桃色でもしていそうなオーラを醸し出しており、外からやって来た輝矢たちとはかなり温度差のある空間となっていた。

「この街は住む者、訪れる者は皆、幸せにしてくれる“幸福の街”なんですよ」

「幸福の街?」

 幸コの言葉に、首をかしげるハチ。

「ええ、この幸ノ街には昔から私たちコウノトリ一族が暮らしています」

『……?』

 幸コが空を見上げるので、輝矢たちもつられて空を見上げる。と、街の上空には確かに多くのコウノトリが飛び交っていた。

「私たちには人を少しだけ幸せにできる“幸力こうりょく”が備わっていて、人々を幸せにするよう活動しているんです」

「それでみんな幸せオーラ全開なわけかっ……」

「他人の幸せってこうも鼻につくものなのですねぇ」

 幸コの解説に、冷めた反応を示すハチと輝矢。


「今日も三丁目の大鳥サン、幸せにしてこなくっちゃっ!」

「私、今日は後三件も回らなくてはなのよぉ~」

 空を飛ぶ二羽の青いコウノトリが、どこかうんざりした表情を見せながら、忙しなく飛び交っていた。


「ああして割り当てられた人の所を回っていくんですよ」

「へぇ~」

「下手な営業マンより大変ですね」

 飛び交う青い鳥たちを見ながら、感心したように呟く二人。

「特定の人物の“専属ブルーバード”として活動しいるコウノトリもいますけどね」

「じゃあアンタが俺の専属の……いやっ、舞い降りたブルーバードっちゅーわけかっ……」

「はぁっ?」

 またもやカッコを付けながらキザなセリフを吐き、幸コの手を取る門貴。

「あっ……あのぉ~っ……」

「何なら幸せついでに、このままゴールインってのはどっ……!」

「却下じゃっ!ボケぇっ!!」

「どゅおおおうっ!!」

 幸コにプロポーズし始めた門貴に、再びハチの飛び蹴りが炸裂する。

「何ぃ~っ?俺が幸コちゃんに夢中やからって、かぐやん、嫉妬ぉ~っ?」

「蹴ったのは俺だっ!!」

「えっ?嫉妬っ……?」

「違げぇーっ!!」

 戸惑うように聞く門貴に、ハチが全力で突っ込みを入れる。

「とりあえず宿と食料の手に入るお店、教えてもらえません?」

「あっはいっ!」

「きゃああああっ!!」

『……?』

 急に聞こえてくる女の悲鳴に輝矢や幸コ、ケンカ中だったハチと門貴も振り向く。


「ああっ……どうしましょっ……どうしましょっ……」

 四人が振り向いた先にいたのは、黒いローブを纏った地味な三十代半ばくらいの女性。肌の青白く、少し窶れた顔をしていた。困った様子で街の中央にある噴水池の中を見ている。

「お財布がっ……どうしましょっ……」

 どうやら財布を池の中に落としていまったようである。


「ミチルさんっ……?」

「……っ?」

 眉をひそめて女性の方を見る幸コに、隣の輝矢が首をかしげる。


「でもお財布がないと困るしっ……よいしょっとっ」

 女性が右手の裾を左手で捲り上げ、右手を財布の落ちている池の中へと伸ばす。

「んん~っ!ふわぁっ!きゃああああっ!!」

「あっちゃっ!」


――ドッボォォォーンッ!


 バランスを崩し、キレイに頭から池の中へと落ちていく女性。門貴が思わず頭を抱える。

「ミチルさんっ!!」

 思わず声をあげる幸コ。

「おいっ!イヌっ!行くでぇっ!」

「えっ!?いやっ、でもっ、俺っ、女はっ……」

「人助けやっ!ごちゃごちゃ言いなっ!」

「うっ……わっわあったよっ!」


――ボォォォ~~ンッ!


 渋りながらも門貴に急かされたハチが桜時の姿となり、門貴とともに池にはまった女性の元へと駆けていく。

「おおぉ~いっ!大丈夫かぁっ!?おばはんっ!」

「ぐほぉっ!ぬほおっ!なはあっっ!!」

 浅い池の中で何故か溺れている女性に、門貴が声をかける。

「掴まりぃっ!」


――パシィッ!


「……。」

 門貴が女性へと伸ばしたその手の手首に、しっかりと捕まる桜時の手。

「何でお前が掴まんねんっ!!」

「いやっ、だからぁ、お前が掴んだらぁ俺が一緒に引き上げるからぁっ」

「男に手掴まれたって何も嬉しないわっ!とっとと手離せぇっ!!」

「ああっ!?元はと言えばお前が手伝えっつーからだなぁっ!俺は女が嫌いなのも押してっ……!」

「女に触れんとか今時ありえんこと抜かしとうお前が悪いんやろがぁっ!!」

「んだとぉっ!?」

 女性を助けに行ったというのに、女性のことはそっちのけで口論を始める桜時と門貴。

「ぶはあああっ!!うううっ!!」

『へっ?』

 溺れる寸前の女性が、必死に門貴と桜時の手を掴み、その手を強く引く。傾いていく体に目を丸くする二人。


『うわあああっ!!』


――ドッボォォーンッ!


 勢いよく池にはまる桜時と門貴。

「ハチさんっ!?門貴さんっ!?」

「あららぁ~」

 焦る幸コの横で、至って冷静な表情を見せている輝矢。


「あらっ……足が付くわっ……」

 今更ながら池底に足が付くことに気づく女性。

「あらっ……?」

『……。』

 女性の前には、池にはまりズブ濡れとなった桜時と門貴。二人を見て、女性が目を丸くする。

「俺たちには……幸せの青い鳥は来てねぇーみたいだなっ……」

「そうやなっ……」

 諦めたように呟いた桜時の言葉に、門貴は力なく頷いた。





「ふわぁぁーっくしょんっ!!」

 豪快なくしゃみをしたのは、派手なピンク色の髪もズブ濡れ状態の、全身タオルにくるまった桜時である。

「ううっ……!」

「わたっしのせいで申し訳ありませんっ!!」

「うおおおっ!!近けぇっ!!」

 寒気を感じて震え上がる桜時の目の前に現れる、先ほど池にはまっていた女性。その至近距離に桜時がさらに寒気を覚える。

「俺の半径一メートル以内に近づくんじゃねぇっ!!」

「申っし訳ありませんっ!申しっ訳ありませんっ!!」

「人の話を聞けいっっ!!」

 桜時の怒鳴りを無視して、桜時に縋り付くように謝り続ける女性に桜時が強く突っ込む。女性のお陰で池へとはまり、ズブ濡れになってしまった桜時と門貴。それから助けに入った幸コが女性と顔見知りだったこともあり、桜時たちは女性の家へと案内されたのであった。

「ほらほらっ、ミチルさんも頭拭いてっ」

「ああ、幸コちゃん、いっつもいつっもごめんなさいねっ……って、あらっ?」


――ツルンっ……!


「きゃああああっ!!」


――ドッスゥゥーーンっ!


 床の水滴に足を滑らせたミチルが、顔面から豪快に転ぶ。

「ぎゃあっ!ううっ!のんっ!んんっ……」

 ミチルが転んだ衝撃で、次々と落ちていく棚の皿やコップ。落ちていくものはすべて見事なまでにミチルの頭を直撃する。頭に物を受けすぎて、力尽きていくミチル。


「うわっっちゃぁ~っ!不っっ幸ぉ~っ」

 そのミチルの様子を見て、思わず目を伏せるモンキ。

「ホント、絵に描いたような“不幸女”ですね」

「今日、蟹座占い最下位でしたからっ……」

「がぁーんっ!!俺も蟹座やっ!!」

「つーか占いの問題なのかっ……?」

 冷たい輝矢の一言にミチルが上に落ちてきた皿やらを手にしながら起き上がる。ショックを受けている蟹座のモンキにちょっとした疑問を投げかけるハチ。

「あんたも青い鳥呼んだ方がいいんじゃないのか?」

『……っ』

「……?」

 ハチの言葉に同時に表情を曇らせるミチルと幸コ。その様子に輝矢は少し眉をひそめた。


「ああっ!そうだわっ!」

「うおっ!!だっから近けぇってっ!!」

 急に立ち上がり駆け寄ってくるミチルに、再び突っ込む桜時。

「ズブ濡れにしてしまったお詫びに、今晩は是非、ウチに泊まっていって下さいっ!!」

「いやっ……それはちょっとっ……」

「そうと決まったら晩御飯の材料を買って来ないとっ!」

「だから人の話聞けってっ!!」

 桜時の返事を聞くことなく、一人でどんどん話を進めてしまうミチル。

「どないするん~?輝矢んっ」

「ん~不幸がうつりそうで嫌ですが、宿代浮くのは魅力的ですからねぇ~」

 モンキの問いかけに、少し悩みながら答える輝矢。

「では早速買い物に行っ……!あらぁっ?」

『げっ』

 何やら嫌な予感がし、顔をしかめる輝矢たち。


――グキっ……!


「きゃあああっ!!」

 張り切って出かけようとしたミチルが、玄関先で勢いよく足を捻り、その場にしゃがみ込む。

『……。』

 その不幸というかドジっぷりに、言葉も出ない三人であった。





「で……?」

 不機嫌な表情を見せる輝矢。

「どうして私が買い物などにわざわざ出かけなくてはならないんです?」

「しょーがねぇーだろぉー?あの人に行かせたら、永遠に晩飯食えなそうな空気だったんだからぁー」

 そんな機嫌の悪い輝矢を宥めるように言うのは、輝矢の前を歩くハチ。ミチルを買い物に行かせることに危機を覚えたハチは、自ら買い物に行くことを進み出たのである。

「まったくっ……」

 うんざりしたように呟く輝矢。

「まっ確かに一人で行かせたら、次は恐竜にでも追われてそうな感じやもんなぁ~っ!あのオバはんっ」

「幸福の街にもあんな人がいんだなぁ~」

「コウノトリ呼ぶ金ないんちゃう?」

「コウノトリ呼ぶのに金いんのかっ?」

「そりゃあー幸せにしてくれるねんでぇっ?」

「……。」

 ハチとモンキの会話を聞きながら、先ほどのミチルと幸コの曇った表情を思い返す輝矢。何かがありそうな、そんな空気を醸し出していた。


『待てぇっ!!こらぁっ!!』

『……?』

 横路地から聞こえてくる、あまり穏やかではない声に輝矢たちが振り向く。


「クっ……!んっ?」

『……っ』

 後ろを警戒するような素振りを見せながら、横路地から輝矢たちの前へと飛び出してくる一人の少年。青々とした鮮やかなサラサラ髪に、大きく赤い瞳が特徴的な愛らしい顔立ちをしていた。年頃は十五,十六であろうか、少年が輝矢たちの方を見る。

「……。」

 少年が少し考えるように下を向く。


『待てぇーっ!!クソガキぃーっ!!』

「……っ」

『……?』

 その少年を追うようにして、横路地から現れるイカつい顔のいかにもゴロつきといった風貌の男三人。男たちを見て、少年が厳しい表情を見せる。

「毎っ度毎度、ウチの売り物ササミチーズつまみ食いしやがってっ!今日という今日は勘弁ならねぇっっ!」

 男の一人がかなり怒った様子で声を荒げる。


「覚悟はできてんだろーなぁっ!?クソガキぃっ!!」

「……ううっ……!」

『ふぇっ?』

 急にしゃがみ込む少年に、首をかしげるゴロつきの男たち。

「うううっ……!ごめんなさいっ……!!」

 少年はその場で泣き崩れ、その大きな赤い瞳からポロポロと涙を流す。

「ボクっ……!ボクっ、本当はこんなことっ……!したくなかったんだっ……!!でもっ……!!」

 声を震わせ、泣きながら話を続ける少年。

「この人たちがっ……!」

『へっ……?』

 少年が涙ながらに指差したのは、輝矢たち三人。

「この人たちがっ……!!盗んで来ないとボクの可愛らしい顔をボコボコにするぞってっ……!!」

『えっ……?えええっ!?』

 少年の言葉に、息ぴったりに声をあげるハチとモンキ。

「おっ……!おまっ……!急に何言ってっ……!」

『うおおぉ~っ!!』

「ああっ!?」

 ハチが少年に問いかけようとした時、激しい声が路地に響き渡った。

「何てっ……!何て酷な話なんだぁっ!」

「あんまりだぁぁっ!」

「クソガキ可哀相ぉぉっ!!」

「ええっ!?」

 ハチが振り向いた先では、イカつい顔つきのゴロつき三人が少年の話にもらい泣きして泣きじゃくっていた。

「バカ言うなっっ!!今のはアイツが適当に言っただけでっ……!」

「せやせやっ!俺らは何にもっ……!」

「そんなっ……!ボクっ……」

『あの目がウソついてる目かぁっ!!』

『うおっ』

 再び悲しい目を見せる少年に、一気に燃え上がるゴロつきたちの闘志。さすがのハチもモンキも気圧される。

「あぁーんないたいけな少年を脅すとは許せんぞぉっ!!お前らぁっ!!」

「だっから違うっつってっ……!!」

『問答無用ぉぉっ!!』

「だああああああっ!!」

 ハチの言葉を聞くことなく、飛びかかってくるゴロつきたち。

「お前なぁっ!一体、何のつもりっ……!あっ?」


――ボォォォォーーンッ!!


『……っ』

 少年の体を白い煙が包むと、次の瞬間、白い煙の中から青空へと一羽の青いトリが羽ばたいていく。

「後よろしくぅ~っ」

『……っ!』

 青いトリは可愛らしい笑顔でニッコリと微笑み、空へと飛び去っていく。その笑顔に顔を引きつりまくるハチとモンキ。


『あんのっ……クソどりぃ!!』

『ぎゃあああっ!!』

 怒りのままに声と拳を突き上げたハチとモンキにより、ゴロつき二人が軽々と吹き飛ばされていく。


「おおぉ~息ピッタリですねぇ~」

「ウチのササミチーズを返せぇっ!!」

「……っ」

 感心していた輝矢に、最後に残ったゴロつきのリーダー格の男が殴りかかる。


――バァァァァーンッ!


「ぎゃあああああっ!!」

 自分の二倍はありそうな大きな体格のゴロつきを、一瞬にして踏み倒す輝矢。輝矢に踏みつけられ、地面に体をめり込ませたゴロつきが悲鳴にも似た叫びをあげる。

「だぁーかぁーらぁ、ササミチーズなんて知らないと言っているでしょうっ……?」

「はひっ……すみまへぇんでひたっ……」

 輝矢の凍りつきそうな冷たい視線に、ゴロつきは大人しく謝った。

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