3.サイ蔵法師サマ御一行 ◇3
街のすぐ外・“実りの森”奥。実りの木に囲まれた一軒の山小屋。ここがサイ蔵たちが滞在している場所であった。山もすっかり夜が更けている。
「サイ蔵法師様、どうでブヒっ?」
「うむ?おおっ、今回も実に良いデキだ。九戒」
丸々と太ったブタの九戒が差し出した何かを見て、満足げに微笑むサイ蔵。
「これなら誰も疑わんじゃろう……」
サイ蔵が手に取ったそれは、鬼人の残骸に似せた、よく出来た石像であった。
「後はトドメを刺す振りをして、ハンマーで砕いて砂にしてしまえば良い……」
「もうそんな周到にすることもないんじゃないですかぁ~?街人は完っ全、俺らの力信じきってるしっ」
「念のためじゃよ。あの退治屋とオトポリのこともあるしのぅ……」
軽い口調で話す河童のコショーに答えながら、いやらしい笑みを浮かべるサイ蔵。
「でももしアイツらにオイラたちが鬼人退治でっちあげてるってバレたらどうするブヒぃ~?」
「バレはせんよ。勝負でわしらが勝てば、ヤツらは嫌でも街人に追い出されるじゃろうからな」
不安げに問いかける九戒に、サイ蔵が滑らかな口調で答える。
「足が付きそうになったら違う街へ行けば良い。どうせこの街もそろそろ潮時じゃ」
サイ蔵が再びいやらしい笑みを浮かべる。
「もう壊すものもそうないからなぁ~っ!ハッハッハッハッ!!」
「そうですねぇっ!アッハッハッ!!」
「そうだブヒっ!ブヒヒヒっ……!ヒっ……ヒ……」
「あんっ?」
サイ蔵・九戒と同じように高らかと笑っていたコショーが、小屋の入口を見て、その笑みを止める。
「コショー、どうしたブヒ?」
「……。」
九戒の問いかけに答えることなく、小屋の入口へと歩いていくコショー。
「誰だっ!?」
「うっ……!」
『……っ』
コショーが勢いよく戸を開くと、そこには怯えた表情を見せたイカ吉が立っていた。イカ吉の姿を見たサイ蔵と九戒が眉をひそめる。
「てめぇー確か、街のっ……」
「いっ……今の話っ……って……」
イカ吉が震えた声で呟く。
「おっやぁ~?どうやら聞かれちまったみたいですよぉ~師匠っ」
「そいつは困ったな……」
「サイ……蔵っ……様っ?」
コショーの言葉に答えながら、ゆっくりとイカ吉の方へとやって来るサイ蔵を、イカ吉がまっすぐに見つめる。
「サイ蔵様っ……サイ蔵様っ!ウソだよねっ!?サイ蔵様は鬼人たちをやっつけてくれた街の英雄っ……!」
「このガキ、どうしますぅ~?お師匠さんっ」
「殺すかのぉ」
「……っ!」
サイ蔵の冷たい笑みと言葉に、イカ吉が大きく目を見開く。
「いいブヒかぁ?」
「ガキが一匹殺される……鬼人が出たといういい演出となるっ……」
「……っ」
その冷たい笑みは、イカ吉の知っているサイ蔵ではなかった。
「酷い人ですねぇ~アッハッハッ!!」
「ブヒブヒブヒブヒっ!」
「ではっ……」
「うっ……!」
コショーと九戒の高らかとした笑いが響く中、サイ蔵がイカ吉へと手を振り上げる。表情を凍りつかせるイカ吉。恐怖で体など動かない。
「運がなかったのぉ……ガキぃっ!!」
「……っ!うわあああっ!!」
――バシィッ!
「えっ……?」
聞こえてくる接触音に、目を閉じ俯いていたイカ吉がゆっくりと目を開ける。
「あっ……」
開いた目を、もっと見開くイカ吉。
「門貴っ……さんっ……」
「……。」
イカ吉の前に立ち、サイ蔵の拳を受け止めていたのは、何とも険しい表情を見せたモンキであった。
「門貴、お主っ……」
「どうゆうことやっ……?今のっ……」
モンキが静かな表情で問いかける。
「どうゆうことや言うてんねんっ!!」
「門貴っ!これはなぁっ……!」
「コショー」
「……?お師匠さんっ?」
何とか誤魔化そうと声を出したコショーの前に手を出し、サイ蔵が止める。
「見た通りじゃよ、門貴」
「見た通りっ?って、まさかっ……!」
「そうこの街でも前の街でも、起こった鬼人騒ぎはすべて、わしらが自作自演じゃっ!」
「……っ!」
「……。」
ハッキリと答えるサイ蔵に、衝撃を走らせるモンキと辛そうに俯くイカ吉。
「街の何かを壊して鬼人のせいにし、鬼人の石像で倒したと見せかけ、街人に英雄視させた……」
「じゃあっ……今までのことは全部っ……」
「そう、これがお主を仲間にする前からやっておる、わしらのやり方じゃよっ」
ショックを隠しきれないでいるモンキに、冷たく笑いかけるサイ蔵。
「お主を仲間にしたのは、本物の鬼人が出た時の戦力と考えたのと、それとっ……」
サイ蔵が見下したような目でモンキを見る。
「騙しやすかったからじゃよぉっ!お前はバカで間抜けなサルじゃからなぁっ!ハッハッハっ!!」
「……っ!」
――お主は、人々の役に立つために生まれてきたサルなんじゃよ……――
思い出されるのは、出会った日のサイ蔵の笑顔。
「……っ」
モンキが強く拳を握り締める。
「そういえばそのガキ、街のオブジェを壊した鬼人を退治してくれたワシに感謝しとったガキじゃなぁ」
「……っ」
イカ吉のことを思い出したサイ蔵に、イカ吉が少し顔を上げる。
「あのオブジェを壊したのはなぁっ……ワシじゃよっ!!」
「……っ!」
――大切なオブジェを破壊するとは……許せんのぉ、鬼人はっ……――
「うっ……!」
あまりの悔しさに、イカ吉の瞳から涙が溢れた。
「ボーズっ……。……っ!」
――ボォォォ~ンッ!
高々と笑うサイ蔵を見て、モンキは意を決したように顔を上げ、白い煙に包まれて人化をする。
「許さへんっ……お前だけは許さへんっ!」
人化した門貴が、サイ蔵に怒りの表情を見せる。
「何じゃあ~?そんなに騙されたことが悔しかったのかぁ~?」
「そんなんどうでもええっ!!」
「何っ……?」
門貴の言葉に眉をひそめるサイ蔵。
「俺は確かにアホで間抜けやっ……お前らみたいなんに騙された、俺が悪いっ……けどなぁっ!」
――いっづもいづもありがとぉ~ごぜぇ~ますだぁ、門貴さん――
――門貴さんだよねっ!?サイ蔵様の弟子のっ!――
過ぎる人々の笑顔。イカ吉の笑顔。
「……っ!」
サイ蔵に鋭い瞳を向ける門貴。
「純粋な人の思い踏みにじったお前らはっ……お前らだけはっ!絶対許されへんっ!!」
「反吐が出るほどまっすぐな言葉じゃのぅ……」
――ボォォォ~ンッ!
「なっ……!」
サイ蔵が白い煙に包まれると、次の瞬間、小さな小屋の天井を突き破るほどに巨大な灰色の体に、額に鋭い角を持った犀が姿を現した。
「“ミ犀ル・ドリル”っ!!」
「んなっ……!」
――ドッヒュウゥゥーンッ!
「うわあああああっ!!」
「ボーズっ!クソっ!!」
その名の通り、ミサイルのような勢いでドリルのように鋭く突っ込んできたサイ蔵の角に、イカ吉とイカ吉を庇うように抱きかかえた門貴が小屋の壁を突き破り、軽々と吹き飛ばされてしまう。
「ううっ……!!」
森の木の幹へと背中を打ち付ける門貴。
「門貴さんっ!」
「怪我ぁ~ないかっ?ボーズっ」
門貴の腕の中で、不安げに門貴を見上げるイカ吉に、門貴が穏やかな笑みを浮かべる。
「ごめんなっ……お前をこんな目にっ……」
「門貴さんが謝ることじゃないよっ!」
「何とかお前だけでもっ……」
「させると思うかぁっ!?」
『……っ!』
二人へと突進してくる巨大な犀。
「如意棒っ……!」
「遅いわぁっ!!」
「……っ!」
門貴が如意棒を出そうとするが、サイ蔵のスピードの方が速く、二人に角が迫る。
「死ねぇぇっ!!」
「うわああああっ!!」
「クっ……!」
再び突き出される鋭い角に、イカ吉が叫び、門貴が唇を噛み締める。
「アナタの方が死んだらどうです?」
「何っ?」
突進するサイ蔵の横から、飛んでくる足。
「どわあああっ!」
「……っ!」
急に吹き飛んでいくサイ蔵。サイ蔵のその巨体を蹴り飛ばした人物に、門貴が驚きの表情を見せる。
「輝矢んっ……」
「悪役女っ……」
そう、それは輝矢であった。
「へっ……?どわあああっ!!」
「ブヒィィっ!!」
輝矢に蹴り飛ばされたサイ蔵の巨体が見事に小屋を直撃し、崩れていく小屋にコショーと九戒が押し潰される。
「輝矢んっ……!愛する俺のために必死に駆けつけてくれたんやなっ……!」
「違います」
「ってかお前が道案内してるくせに、先々行っちまったんだろうがっ」
目を輝かせて言う門貴の言葉をあっさり否定する輝矢と、突っ込みを入れるハチ。
「おっ……おのれっ……お主たちはっ……」
「まったく、とんだ悪徳法師ですねぇ」
ゆっくりと起き上がった、まだ蹴りが効いている様子のサイ蔵に、輝矢が冷たい表情を見せる。
「どうしてくれましょうか……?」
「うっ……!」
輝矢の冷たい笑みに、寒気を覚えるサイ蔵。
「クっ……!」
――ボォォォ~~ンッ!
「……?」
人の姿へと戻るサイ蔵に、輝矢が少し首をかしげる。
「皆のものっ!撤収じゃっ!!」
『アイアイサーっ!!』
「あれっ?」
サイ蔵の言葉に、元気よく返事をするコショーと九戒。三人は息ぴったりに素早くその場から逃げていく。その様子に目を丸くする輝矢。
「早く追って下さい、ゴン」
「おうっ!って、何で俺様がお前の指示を聞かなきゃいけねぇーんだよっ!」
「はいはいっ、とっとと行くっスよぉ~?」
輝矢に文句を言っているゴンを、車へと引っ張っていく羊スケ。
『ぎゃああああっ!!』
「あれっ?戻ってきたぞ?」
何やら悲鳴のようなものをあげて戻ってくるサイ蔵たちに、ハチが首をかしげる。
「自首する気になったんスかねぇ~?」
「でも何か様子がへっ……」
「グワアアアアッ!!」
「どおおええっ!?」
様子のおかしいサイ蔵たちを覗っていたハチが、サイ蔵たちの後方からやって来る巨大な緑色の鬼に、目玉が飛び出しそうなほどに驚く。
「鬼人っ!?」
『助けてぇっ!!』
追いかけてくる鬼人から必死に逃げてくるサイ蔵たち。
「スゴイ出来栄えですねぇ~どこからどう見ても本物っ……」
「だから本物だってぇのぉーっ!!」
「へっ?」
感心して鬼人を見上げていた輝矢が、サイ蔵たちの叫びに間抜けな声を出す。
「本物って……」
「だっから本物の鬼人が出てきちゃったって言っとるんじゃあーっ!!」
「ウソから出た誠というヤツですかぁ」
『感心してないで、とっとと助けてぇーっ!!』
声を揃えて助けを求めるサイ蔵法師様御一行。
「グワアアアッ!!」
「ひいいっ!!」
『お師匠様っ!』
「のわあああっ!!」
サイ蔵が鬼人の右手に捕まれ、勢いよく上空まで持ち上げられる。身を乗り出すコショー、九戒と、鬼人の手の中で狂ったように叫ぶサイ蔵。
「お助けぇーっ!!」
「やれやれ……退治屋と名乗っていたわりに対鬼人用の力はまったく持ち合わせていないようですねぇ~」
助けをもおめるばかりのサイ蔵を見て、少し呆れた表情を見せる輝矢。
「仕方ありませんねぇ……“月器っ」
「……?」
ピアスに手を触れる輝矢に、立ち上がった門貴が気づく。
「三日月”っ」
『……っ!』
ピアスから剣のような武器へと姿を変える月器に、驚いた表情を見せる門貴とイカ吉。
「さてとっ」
「ええっ!?助けるのっ!?」
「へっ?」
驚いたように問いかけるイカ吉に、輝矢が振り返る。
「あんな“悪いヤツ”っ……!助ける必要なんかっ……!」
「でもっ……」
「……っ?」
イカ吉の言葉を遮り、まっすぐな瞳でイカ吉を見つめる輝矢。
「ここで助けないと、これから“イイヤツ”にだって、なれないでしょう?」
「……っ」
輝矢の笑みに、イカ吉が大きく目を見開く。
「……。」
輝矢とイカ吉の会話を聞き、少し考え込むように俯く門貴。
「……っ!」
イカ吉との会話が終わると、輝矢が三日月を構えて鬼人の元へと駆けていく。
「貴様だなぁっ!?最近ここいらで鬼人を退治しまくっているという御伽界随一の退治屋とはぁっ!!」
「いっえぇーっ!!違います違いますっ!それは尾ひれのついたウワサ話というかぁっ!」
「そうですよぉ~」
「へっ?」
「何っ?」
聞こえてくる声に、サイ蔵と鬼人が同時に顔を上げる。と、そこには三日月を振り上げた輝矢の姿。
「御伽界随一の退治屋はっ、この竹取輝矢ですからっ」
「うっ……!」
輝矢が笑顔で話しながら、素早く三日月を鬼人に振り下ろす。
――………………っ!
「ぐわあああっ!!」
「のっはあああっ!!」
三日月に右肩から腹部までをナナメに切り裂かれ、叫び声をあげる鬼人。三日月の攻撃に力が緩んだのか、サイ蔵を掴んでいた右手が開かれ、サイ蔵が地面に勢いよく落下する。
「お痛つつつつつつっ……!!」
打った後頭部を痛そうに押さえるサイ蔵。
『師匠ぉ~っ!』
「んっ?おおっ!コショーっ!九戒っ!」
倒れこんでいるサイ蔵の元へと駆け込んでくるコショーと九戒。
「お師匠様っ!大丈ブヒかぁっ!?」
「ご無事で何よりですっ!」
「まったくだぜっ」
『へっ……?』
サイ蔵の元へと駆け寄ろうとするコショーと九戒の前に立ち塞がる人物。
「これからいぃ~っぱい聞かなきゃいけねぇーことがあんだからなぁっ……」
『うっ……!』
それは両拳の関節を鳴らしまくっているゴンであった。笑っているのにどうにも怖いゴンの顔に、コショーと九戒が観念したように足を止めた。
「まぁ確かに悪役面っスよねぇっ」
「そうだなっ……」
陽気に話しかけてくる羊スケの言葉に、呆れた表情で頷くハチ。
「おっのれぇっ!!“鬼口”っ!!」
「……っ“月器・十六夜”っ」
「うわああっ!!」
傷ついた鬼人がすかさず鬼口を放つが、三日月から変形した盾・十六夜にあっさりと跳ね返される。自らの鬼口を受け、苦しむ鬼人。
「おのれっ!“鬼爪・天回”っ!!」
「“月器・三日月”っ!」
飛んでくる十本の鬼爪を、三日月で一本ずつ弾いていく輝矢。
「はいっ、十本っ!」
「“鬼口”っ!!」
「うっ……!」
十本目を弾き落とし、少し油断した輝矢の元へ、再び鬼口が飛んでくる。
「クっ……!」
十六夜に変形させる間もなく、輝矢はギリギリのところで鬼口をかわす。
「避けていいのかぁ?」
「えっ……?……っ!」
含んだ笑いを浮かべる鬼人に眉をひそめた輝矢が、避けた鬼口の飛んでいく先を振り返る。
「へっ……?あっひゃあああっ!!」
その先にいるのは、先ほど鬼人の手の中から落下し、倒れこんだままのサイ蔵。飛んでくる鬼口に、サイ蔵が狂ったように悲鳴をあげる。
「しまっ……!」
『お師匠様ぁぁっ!!』
「クソっ……!」
「……っ」
「えっ……?」
サイ蔵を助けに行こうとしたハチの横から、ハチよりも素早くサイ蔵の元へと飛び出していくある人物。
「“如意棒”っ!」
『門貴っ!?』
「門貴さんっ……」
コショーと九戒が目を丸くし、イカ吉が戸惑うように見つめる中、如意棒を出して鬼口とサイ蔵の間に割って入ったのは門貴であった。
「第一の舞っ……」
サイ蔵の前に立った門貴が、向かってくる鬼口へと如意棒を構える。
「“空”っ!!」
――バァァァーンッ!
「何っ!?」
『……っ!』
門貴が如意棒を振り切ると、如意棒を包んでいた大気の集まりが鬼口へと当たり、その衝撃で鬼人の方へと勢いよく鬼口を弾き返した。鬼人や皆が驚きの目で見る。
「ぎゃああああっ!!」
自らの鬼口と門貴の技を受け、後方の木へと激しく吹き飛ばされる鬼人。
「すっげ……」
ハチも思わず唖然とする。
「……。」
鬼人に自分の技が当たったことを確認し、静かに俯く門貴。
「もっ……ももももっ……門貴っ!」
そんな門貴へ、やっと起き上がったサイ蔵が声をかける。
「わしを助けてくれたんじゃなっ!?やはりわしの弟子はお前だけっ……!」
「……っ」
「ぐっはああっ!!」
『……っ!』
『お師匠様ぁぁっ!!』
都合のいい言葉を投げかけてくるサイ蔵を、門貴が振り返った途端に如意棒で吹き飛ばす。ハチやゴン、コショーと九戒も皆、驚いた表情を見せた。
『門貴っ!ってんめぇーお師匠様になんてことをっ……!』
「うるさいっ!!」
『すんませぇーんっ……』
凄まじい気迫の門貴に、大人しく謝るコショーと九戒。
「ぐっ……ぐふっ……」
「今の一発で俺を騙したことは全部チャラにしたるわっ」
倒れこんでいるサイ蔵に向かって門貴が言い放つ。
「イカ吉や街の人たちへの償いは、とことん生きてやってもらうでっ!」
「……はいっ……」
門貴の言葉に、サイ蔵は力なく頷いた。
「けどっ……」
「……っ?」
門貴がサイ蔵に背を向け、小さな声を落とす。
――お主は人々の役に立つために生まれてきたサルなんじゃよっ……――
「あの言葉だけはっ……貰っといたるわっ」
「……。」
どこか悲しげに呟いた門貴に、サイ蔵はそっと目を細めた。
「門貴さん……」
そんな門貴をまっすぐに見つめるイカ吉。
「……っ」
その様子を見て、少し笑みを浮かべる輝矢。
「クっ……!クソぉ~っ……!」
「……。」
輝矢がすぐさま表情を鋭くし、ゆっくりと起き上がる鬼人の方を振り返る。
「何だっ!?今の技はっ……!」
「さてとっ、そろそろ終わりにしましょうか、緑鬼さん」
「何っ?」
輝矢の言葉に、鬼人が眉をひそめる。
「三日月っ……」
「待っ……!待てっ……!!」
「鬼退治、いたしますっ」
「ううっ……!!」
必死に手を突き出す鬼人へ、輝矢が容赦なく三日月を振り下ろす。
――………………っ!!
「ぎゃあああっ!!」
飛び散る血と、響き渡る断末魔。
「終わったスねぇ~」
「ああっ」
羊スケの言葉に頷くゴン。
「……。」
門貴が見つめる中、鬼人は砂と化して消えていった。




