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鬼斬り かぐや  作者: はるかわちかぜ
11/406

3.サイ蔵法師サマ御一行 ◇2

 街のすぐ外。“実りの森”。

「これはっ……」

 愕然とした表情で呟くハチ。

「……。」

 輝矢も厳しい表情を見せている。二人の前に広がっていたのは、森の一部の木が切り落とされた、無残な光景であった。

「実りのっ……!実りの木がっ……!!」

「もうすぐ実がなる予定だったのにっ……!」

「……っ」

 後方にいる街人から漏れる嘆きの声に、ハチが少し振り返って目を細める。

「でも一体、どうしてっ……」

「鬼人じゃな……」

「えっ?」

「そんなっ……!」

「きゃあああっ!!」

「……っ」

 サイ蔵の言葉に驚くハチであったが、街人たちはもっと驚き、怯える者・悲鳴をあげる者が多く出た。混乱状態に陥る街人を見て、ハチが慌てたようにサイ蔵の方を見る。

「おいっ!あんたっ!そんな適当なことっ……!」

「適当ではないっ!」

「……っ!」

 強く言い放つサイ蔵に、ハチは思わず言葉を止める。

「わしは鬼人の気配が読める。鬼人はまだこの近くにおるっ!」

「気配がっ……?」

 サイ蔵の言葉に戸惑うように呟くハチ。

「ああ~そういえばぁ、私たちも退治屋なんですぅ~」

『……っ?』

 ハチとサイ蔵の間に割って入ってくる輝矢に、ハチとサイ蔵が不思議そうに振り向く。

「姉ちゃん、退治屋なんっ!?まっすますスッテキぃ~っ!」

「退治屋……?お主らもっ……?」

「ええっ」

 盛り上がるモンキを無視し、顔をしかめるサイ蔵と、あっさりと頷く輝矢。

「でぇ、私も鬼人の気配が読めるんですがぁ」

「えっ!?おっ……おいっ、お前、気配なんてこれっぽっちも読めねぇーじゃねぇーかよっ」

「こうゆうのはノリです、ノリっ」

「ノリって……」

 サイ蔵たちには聞こえないよう小声で囁くハチに、輝矢が適当に答える。輝矢の答えに呆然とするハチ。

「気配が読めると……?」

「ええっ、でも私の方はまったく気配感じないんですよねぇ~」

「……っ」

 輝矢の言葉に眉をひそめるサイ蔵。

「何でですかねぇ~」

「……。」

 サイ蔵に笑顔と鋭い瞳を向ける輝矢。サイ蔵が険しい表情を見せ、河童の方を振り向くと、同じく険しい表情を見せていた河童が小さく頷いた。

「おいおいおいっ!何だぁ~?てめぇーっ!サイ蔵様に文句付けようってのかぁ!?」

「……?」

 どこのヤクザかというくらい人相と態度悪く、サイ蔵を庇うようにして前へと出てくる河童とブタ。河童が輝矢を見下すように見る。

「お前らも退治屋とか言ってけど、怪しいなぁっ」

「ああっ!?」

 輝矢とハチをじろじろ見ながら言う河童に、ハチが顔をしかめて声をあげる。

「もしかしてお前らが鬼人なんじゃねぇーのぉっ?」

「そうだブヒっ」

「んだとっ!?ふざけんじゃねぇっ!」

「せやせやっっ!!薄汚いイヌはともかく、こぉ~んなかわゆい鬼人がおるわけないやろぉっっ!!」

「だっれが薄汚いだぁっ!!」


――ざわざわざわざわっっ……!


「……っ!」

 急にざわつき始める街人たちに、モンキと言い争っていたハチが思わず言葉を止める。

「鬼人っ?そういえば何となくっ……」

「人の振りをして街に入り込んだんじゃっ……」

「来る前にここの木を切ってきたのかもっ……」

「なっ……何だよっ……」

 一斉に向く疑いの目に、戸惑うように後退するハチ。輝矢も厳しい表情を見せる。

「お前らがやったんだろっ!!」

「そうだっ!お前らが鬼人なんだっ!!」

「ちげぇーよっ!俺たちはっ……!」

「最早、どちらが正しいかは一目瞭然じゃなぁ……」

「うっ……!」

 街人たちを味方に付け、輝矢たちを追い詰めるサイ蔵。サイ蔵が2人に冷たい目を向ける。

「ええ~そんなぁ~」

「お前、どっちの味方してんだよっ」

 追い詰められていく輝矢とハチに、悲しげな顔を見せるモンキ。そんなモンキに河童が突っ込みを入れる。

「仕方ありません。ここは全員、ハッ倒して突破を……」

「一般市民を殺す気かっ!お前はっ!」

 真剣な顔をして言う輝矢に、ハチが追い詰められながらも全力で突っ込む。

「にしてもどうしたらっ……」

『退治しろぉっ!!』

「どわあああっ!!」

「おぉーうっ!退治屋のガキどもじゃねぇーかぁっ!」

「へっ……?」

 街人が輝矢とハチに飛びかかろうとした、ちょうどその時、聞こえてきた一つの声。ハチが目を丸くして顔を上げ、飛びかかろうとしていた街人も皆、振り向く。


「あっ!ホントっスねっ!おぉ~いっ!輝矢さぁ~ん、ハチくぅ~んっ」

「何やってんだぁ~?んなとこでっ」

「ごっ……ゴンっ……羊スケっ……」

 皆が振り向いた先の道にいたのは、この前の羊の国での鬼人騒ぎで出会った、ゴンと羊スケであった。二人は目立つ黒いオープンカーに乗っている。

「おっおいっ、あれっ、オトポリの制服じゃっ……」

「オトポリと知り合いってことはっ……」

「それに今、確かに退治屋って……」

 街人の疑いの目が徐々に消えていく。

「たっ……助かったっ……」

「ふぅっ……」

「あっ?何だ?」

 肩を落として息をつく輝矢とハチに、ゴンは大きく首をかしげる。


「ほお……オトポリの方々と知り合いであるほどの退治屋の方じゃったかぁ」

 サイ蔵は妙に企んだような笑みを浮かべながら、輝矢たちを見た。

「どうじゃ?ここは一つ、わしらと勝負せんかぁ?」

「勝負……?」

 サイ蔵の言葉に、首をかしげる輝矢。

「ああ、先に鬼人を見つけ退治した方が勝ち。負けた方は退治屋を止め、即刻この街を出る……というものじゃ」

「いいですよぉ~」

「ええっ!?」

 あっさり返事をした輝矢に、ハチは大きく驚いた。





 数時間後。

「はぁ~助かったぁ~っ…」

 力の抜けきった様子で呟くのはハチである。

「あのタイミングでゴンたちが来なかったら、俺ら鬼人として退治されちまってたぜぇ~……」

「ほぉ~んとゴンザレスが役に立つこともあるんですねぇ~明日は雨でしょうかぁ~」

「どういう意味だっ!こらっ!そして俺はゴンザレスじゃねぇっ!ゴンだっ!!」

 安心しきっているハチの横で、明日の天気を心配しながら窓の外を見る輝矢に、ゴンが思い切り怒鳴りつける。街人たちに鬼人と疑われ、退治されそうになった輝矢たちであったが、都合よく現れたゴンたちのお陰で誤解も解け、難を逃れたのである。

「いっやぁ~俺は信じてたよぉ~っ!君たちのことっ」

「ウソつけぇっ!思いっきり疑いの目向けてたじゃねぇーかぁっ!!」

 軽い口調で言いながらハチの足のつぼ押しをしているのは、先ほど街の入口で出会った男・タコ吉。誤解の解けた輝矢たちは、とりあえずタコ吉の店で休むことにしたのである。

「だってぇ~サイ蔵様が仰ったことだしさぁ~」

「だってじゃねぇーよっ!」

「サイ蔵法師っスかぁ~」

「……?」

 しみじみ呟く羊スケに、ハチが首をかしげる。

「羊スケ、あのじいさん、知ってんのかっ?」

「知ってるっスよぉ~サイ蔵法師様御一行って、オトポリ内でも結構有名な退治屋っスからぁ~」

 オトポリ。正式名称:御伽警察。対鬼人用に形成された組織で、ゴンと羊スケはオトポリの警官なのである。

「この街以外にも、鬼人の被害に遭ってたところをサイ蔵たちに救われたって街がいくつかあるんスよ」

「へぇ~やっぱスゴいじいさんなのかぁ」

「どうだかなぁ」

「えっ?」

 感心していたハチが、横から口を挟んだゴンの言葉に目を丸くする。

「どうだかなって?」

「どの街にしたってそうだが、ヤツらが倒したってゆーわりに、鬼人の目撃情報が出てなさすぎなんだよ」

 ハチの質問に、曇った表情で答えるゴン。

「それにっ……」

「それに被害状況も妙ですしね」

「そうそうっ……って、俺が言おうとしたこと言うんじゃねぇーよっ!!」

 ゴンに変わって言葉を続けたのは、珍しく真面目な顔をしている輝矢であった。先に言ってしまった輝矢を非難するゴン。

「妙って?」

「タコ吉さん、この街で起こった鬼人の被害をすべて教えていただけませんか?」

「ええっとぉ、ペットいじめ、畑荒らし、食料泥棒、井戸水汚し、屋根瓦割り、街のオブジェ破壊っ」

 ハチの足つぼマッサージをしながら、次々と思い出していくタコ吉。

「そんで最後が今日の森の木切り倒しっ」

「どう思います?」

 輝矢がマッサージを受けているハチに問いかける。

「どうって酷いことすんなぁとしかっ……」

「はぁっ……」

「何かムカつくなっ!その溜め息っ!!」

 ハチの答えを聞いて深々と溜め息をつく輝矢に、ハチが顔をしかめる。

「確かに酷いことは酷いですが、鬼人がやったにしてはショボすぎるんですよ」

「ショボい?」

 輝矢の答えに戸惑うように首をかしげるハチ。

「ええ、簡単に言うと私にもできるってゆーか」

「お前は基準にならんだろうがっ」

 輝矢の例えに突っ込みを入れるハチ。

「今までの鬼人は皆、国主を殺して国を乗っ取ろうとしていました」

「ん~確かにっ……」

 考えるように俯くハチ。今までの鬼人は二匹とも国に周到に潜入し、国主の命を狙っていた。それに比べると、今回この街に現れている鬼人は確かに妙だ。

「短期間でそう何度も鬼人が出るのも妙っスしねぇ~」

「こんな国主もいない雑種の街を狙うのは一層変ですよ」

「じゃあもしかしてっ……」

「あれかぁっ!この地方に出る鬼人はちょっと変わってるっつーことかぁっ!」

『……。』

 すごいことを思いつきましたと言わんばかりに輝いた笑顔を見せて言い放つゴンに、皆が呆然と固まる。


「じゃあもしかしてっ……」

「ええ、サイ蔵は……」

「サイ蔵様は御伽界で一っ番強くって、一っ番優しい退治屋だぁっ!!」

『へっ?』

 気を取り直して話を続けようとした輝矢とハチが、横から聞こえてくる幼い声に振り向く。

「あっ……お前っ……」

「……っ」

 輝矢とハチに鋭い瞳を向けているのは、先ほどのサイ蔵に人が集まっていた時に、サイ蔵にサインを求めていた白髪の少年であった。

「イカ吉っ!」

「知り合いか?」

 少年の名前を呼んだタコ吉に、ゴンが問いかける。

「弟ですっ」

「イカなのにっ!?」

「アイツ、名前はイカですけど、立派な蛸人ですよぉ~っ!」

「イカなのにっ!?」

 笑顔で説明するタコ吉に、繰り返し驚くゴン。

「サイ蔵様の悪口を言うなんてっ……!やっぱりお前たち、悪いヤツじゃないのかっ!?」

「おっおいっ!イカ吉っ!」

 輝矢とハチを指差して責めるイカ吉を、タコ吉が慌てて止めに入る。

「この人たちはなぁっ!あぁ~のオトポリも認める優秀な退治屋でぇっ……!」

「オトポリっていったってっ……!このお兄ちゃんっ!どう見ても悪役面じゃないっ!」

「んなっ……!!」

『プっ!』

 イカ吉にその悪役面を指差され、思い切り顔を歪めるゴン。その光景にハチと羊スケが思わず吹き出す。

「何笑ってやがんだぁっ!てめぇーらぁっ!!」

「怒らない怒らないぃ~さらに悪役面になるっスよっ!ゴンさんっ!」

「てめぇーっ……」

 宥めているのかバカにしているのかわからない羊スケに、ゴンは静かに拳を握り締める。

「お前たちなんかっ!サイ蔵様にこってんぱんに負けちゃえばいいんだっ!!」

「イカ吉っ……!」

 タコ吉が止めるのも聞かず、そう言い放ってイカ吉が家を飛び出していく。


「すみません~~」

「ホント小憎たらしい弟さんですねっ」

「おいっ!」

 笑顔で冷たく言い放つ輝矢に、ハチが突っ込みを入れる。

「あの子、街のオブジェが大好きだったんですよぉ~それを鬼人に壊されちゃってから酷く落ち込んでっ」

 イカ吉のフォローを入れるようにタコ吉が話し出す。

「そこをサイ蔵様に救ってもらったんです……」

『……。』

 タコ吉の穏やかな笑顔に、真剣な表情を見せる一同。

「あの子にとって……サイ蔵様は英雄なんですよ……」

「英雄っ……か……」

 大切なものを壊され、その壊した悪いヤツを退治してくれたサイ蔵は、イカ吉にとって何よりも絶対的な存在なのかも知れない。ハチが少し気難しい顔を見せる。

「完っ璧、アウェイだよなぁ~けど勝負に負けるわけにはいかねぇーしっ」

「何故です?」

「おっ前が“負けた方は退治屋やめる”なんて勝負、あっさり受けたからだろーがぁっ!」

「ああ、ノリで返事したアレですか」

「ノリで退治屋生命賭けたのかっ!?お前はっ!」

 暢気この上なく答える輝矢に、マッサージ中でありながら全くリラックスできないハチ。

「ったく、どうすんだよっ!もしアイツらがでっちあげた鬼人なら、退治のしようなんてないしっ」

「そうですねぇ~」

 輝矢が少し考え込むように俯く。

「とにかく鬼人の被害に遭った場所でも回ってみますかぁ~」

「まぁこのまま考えててもしょうがねぇーしなっ」

 輝矢がゆっくりと立ち上がると、ハチもタコ吉のマッサージを終えて立つ。

「ゴンザレスとヒツジは街の方への聞き込みお願いします」

「おうっ!任せとけっ!」

 ゴンの爽やかな返事に見送られ、タコ吉の店を出て行く輝矢とハチ。


「って何で俺様がアイツにコキ使われなきゃいけねぇーんだよっっ!!」

「一回返事しちゃったことに文句付けないで下さいよぉ~」

「そして俺はゴンザレスじゃねぇっ!!」

 ゴンの怒声とともに、輝矢たちの調査が始まった。






「うぅ~んっ……」

 無残に破壊された、街のとある家を眺めながら、気難しい表情で唸り声を発している輝矢。もう日が暮れ始めており、街にはオレンジ色の光が差し込んでいる。

「鬼爪で攻撃されたというよりはハンマーか何かでバッコォンとやったような感じですねぇ~」

「そうだなぁ~」

 輝矢の言葉にハチが頷く。

「井戸水汚しも食料泥棒も鬼人がやったにしては細かいっつーかショボいっつーかだったしっ」

「次は畑ですねぇ~」

 色々と考えながら、輝矢とハチは畑へと移動していく。


「いっづもいづもあんがとぉ~ごぜぇ~ますだぁ~門貴さぁ~ん」

「いいってことよぉ~っ!」

『……?』

 畑へと着いた輝矢とハチが、聞こえてくる声に気づく。


「あれはっ……」

「んっ?ああっ!かっぐやぁ~んっ!!」

 畑の前で老婆と話していたモンキが、輝矢に気づき、笑顔となって駆け込んでくる。

「はいっ?」

「んぐっ!」

 嬉しそうに飛び込んできたモンキを、顔面から足で受け止める輝矢。

「ほいっ」


――バァァァァーーンッ!


「ぐへぇぇっ!!」

 輝矢がそのまま足でモンキを地面へと押し付ける。カエルが苦しんでいるような変な声を出すモンキ。

「そんなっ……お転婆なお前もっ……好きやっ……ぐふっ……」

「アホかっ」

 輝矢の足の下で力尽きるモンキを見て、起き上がったハチが呆れた顔を見せた。

「でもでもぉこんなとこで会えるやなんてっ、二人の運命やったりしっちゃったりしっちゃっとうっ!?」

「しちゃってません」

 輝矢の足の下でモジモジと動きながら浮かれきったことを言っているモンキに、きっぱりと答える輝矢。

「つーかお前、こんなトコで何やってんだよぉ?」

「へっ?」

「門貴さんはぁ、鬼人に荒らされたぁ~ウチの畑を直すのを手伝ってくれてるんでずぅ~」

「手伝いっ?」

 畑の方からやってきたのは、皺の目立つ小柄な老婆であった。老婆の言葉にハチが目を丸くする。

「このサルがぁ~?」

「ええぇ~、私はこの通り、もう体が動きませんのでぇ~ひんじょ~に助かっておりますぅ~」

「まぁ困った時はお互い様やからなっ!」

 モンキが笑顔を見せて立ち上がる。

「人助けはしちゃう性質(たち)っ……こんな俺ってどおっ!?輝矢んっ!」

「別にどうでも」

「ううっ……」

 輝矢の淡白な反応に悲しむモンキ。

「お陰様でぇ~もうほっとんど元通りになってきますたぁ~ほんどに門貴さんはすばらしいお猿さんです~」

「えへへっ」

「そうですかぁ?」

 老婆の言葉に、照れるモンキとあまり納得していない表情で返す輝矢。



「じゃあ婆ちゃんっ!明日もくっからなぁ~っ!」

「どうもぉ~」

 モンキがいるところで詳しい話も聞けぬまま、モンキとともに畑を去る流れとなった輝矢とハチ。



「へっ?他の被害者んトコにも手伝いに行ってんのかっ?」

 道中、モンキの話を聞いていたハチが、驚いたように声を出した。

「おうっ!俺、身軽やしわりと何でも器用にこなすねんでぇっ?」

 モンキが得意げな笑顔で話を続ける。

「けど街のオブジェだけはどうにも直せんでなぁ~」

 急に難しい表情を見せるモンキ。

「あっのオブジェ作ったヤツとは、どうも芸術的センスが噛み合ってへんみたいやね~んっ」

「つーかお前に芸術的センスがねぇーだけだろうがっ」

 考え込むように腕組みをするモンキに、ハチが突っ込みを入れる。

「せやけど鬼人も酷いことしおうよなぁ~」

「えっ?」

「みんなが大切にしとうもん、平気で壊してっ……許せへんわっ」

「……っ」

 その時のモンキの表情からは本当に鬼人に対する怒りが感じられ、ハチは少し戸惑うようにモンキを見つめた。

「まっ!せやから師匠の弟子になってんけどなぁっ!」

「そうっ……なのかっ……?」

 今度は曇りない笑顔を見せるモンキに、ハチが少し言葉を詰まらせながらも聞き返す。

「おうっ!俺がなぁ~んもなくって腐っとった時に、師匠が言うてくれてんっ」

 モンキが笑顔で話を続ける。

「“お前は人々の役に立つために生まれてきたおサルや”ってっ!」

「……っ」

 輝いた笑顔を見せるモンキに、驚いたように目を見開くハチ。まっすぐな、そして完全にサイ蔵のことを信じきっている目。このモンキが鬼人の振りをして街人の大切なものを破壊することなどできるだろうか。


「おいっ、アイツが鬼人のでっちあげなんかしてると思うか?」

「サルは見かけによりませんからね」

「けどよぉ」

「おっ!あれやでぇ~っ!街のオブジェっ!」

『……っ?』

 モンキについて小声で会話をしていた輝矢とハチが、モンキの大きな声に振り向く。


「あれっ?」

「……。」

 街の中央に、無残に破壊されて倒れている像。その前で、悲しげな表情のイカ吉が1人、佇んでいた。

「……?お前たちっ……」

 やって来た輝矢たちを見て、表情をしかめるイカ吉。

「なんやっ!ボーズぅ~っ!もう暗なんのに一人で出歩いとったら危ないでぇっ?」

「……っ!門貴さんっ!?」

 明るく声をかけるモンキを見て、イカ吉が急に目を輝かせる。

「門貴さんっ!?門貴さんだよねっ!サイ蔵様の弟子のっ!」

「えっ?あっああ~そうやけどぉっ?」

「ボクっ!超ゲキマジ本イキスペシャルファンなんですっ!」

 輝いた目をモンキに向け、熱く語るイカ吉。

「如意棒操る姿とか最高にカッコ良くてっ!それでめっちゃくちゃ強くってっ!」

「そんなぁ~照れるなぁ~っ」

 誉めまくるイカ吉に、嬉しそうに頭を掻くモンキ。

「ボクっ!大きくなったら門貴さんみたいな強いサルになりたいんですっ!!」

「俺たちへの態度とはまるで違うな」

「というかサルにはなれないでしょう、イカは」

「いや、タコだって」

 輝矢たちへの冷え切った態度とは一転して、何とも嬉しそうに語るイカ吉に不満の声を漏らす輝矢とハチ。

「おぉーうおうっ!いいボーズやぁ~っ!お前ならきっとなれるでぇっ!俺みたいなサルにっ!」

「ホントっ!?」

「だからサルにはなれませんて、イカは」

「いや、だからアイツはタコだって」

 イカ吉の頭を撫で、少しカッコつけながら言うモンキ。さらに目を輝かせるイカ吉を見ながら、輝矢とハチはくだらない会話を繰り返す。


「おぉ~いっ!退治屋ぁ~っ!」

『……?』

 聞こえてくる声に振り向く輝矢とハチ、そしてモンキ、イカ吉。街の中央から畑の方へとやって来るのは、ゴンと羊スケであった。

「何かわかりましたか?ゴンザレス」

「偉そうに聞くなぁ!そして俺はゴンだぁっ!!」

 輝矢の問いかけに、怒声のみを返すゴン。

「やっぱり街人で実際に動いてる鬼人見たって人はいなかったっスよぉ~輝矢さんっ」

「あっさり報告すんなっ!てめぇーもぉっ!」

「みんな、サイ蔵が倒した後の残骸しか見たことないそうっス。それもすぐ砂になっちゃったって」

「やはりそうですか……」

 羊スケからの報告を受け、ゴンのことは無視して、考え込むように俯く輝矢。


「門貴、少し聞きたいことがあるのですが」

 顔を上げて輝矢がモンキの方を見る。

「何々っ!?俺が動物占い何やとかっ!?」

「いえ、まったく興味ないです」

 嬉しそうに勢いよく聞き返すモンキ。

「アナタ方がこの街で倒してきたという六匹の鬼人のことなんですが」

「へっ?鬼人?」

 輝矢の問いかけにモンキが目を丸くする。

「レベル・形態、その他特徴を教えていただけますか?」

「へぇ~っ?」

 さらに目を丸くするモンキ。

「さぁ~っ?」

「さぁってお前っ、見たことくらいあんだろっ!?」

 大きく首をかしげるモンキに、横からハチが強い口調で問いかける。

「いっやぁ~俺っ、いっつも寝とって、その間に師匠たちがちゃっちゃと倒してまうからさぁ~」

「はぁっ!?」

「えっ……?」

 モンキの言葉に顔を引きつるハチと戸惑いの表情を見せるイカ吉。

「じゃっ……じゃあっ!お前っ、鬼人見たことないのかっ!?」

「おうよっ!師匠がなぁ、“お前はいざという時のために力を温存しとけ”てさぁっ!」

 モンキが誇らしげに語る。

「まぁそんだけ、俺への期待がデカいっちゅーこっちゃなぁ~っ!うんうんっ」

「なっ……」

 満足そうに頷いているモンキを見ながら、唖然とした表情を見せるハチ。


「おいっ、まさかアイツ、本当に何も知らないんじゃっ……」

「有り得ますね。あのサル結構強いですから、本当に鬼人が現れた時のために仲間にしておいたのかも」

「ええ~?何々っ?」

 小声で話している輝矢とゴンに、陽気に話しかけてくるモンキ。


「そんなっ……」

 イカ吉がショックを受けた様子で俯く。


「もうこうなったらサイ蔵の所へ行って直接っ……」

「サイ蔵様は悪いヤツなんかじゃないっ!!」

「えっ?」

 輝矢の言葉を遮って、大きな声をあげたのはイカ吉であった。

「やっぱりお前たちは悪いヤツだっ!悪いヤツだからサイ蔵様を追い出そうとしてるんだっ!」

「あのなぁ、俺らは根拠があっからこうしてぇっ……!」

「お前たちなんかサイ蔵様にやっつけてもらうっ!!」

「ああっ!おいっ!」

 ゴンが止めるのも聞かず、どこかへ走り出して行ってしまうイカ吉。


「参ったなぁ~」

「何、わめいてたんやぁ~?あのボーズ」

 困ったように頭を掻くゴンの横で、状況をまったく飲み込めていない様子で首をかしげるモンキ。

「でもサイ蔵んとこに行ったんならマズいなっ……おいっ!サルっ!俺らをサイ蔵んとこまで案内しろっ!」

「いっややねぇっ!だいったい誰も連れてくんなって師匠に言われてんねんっ!」

 ハチの言葉を、あっさりと断るモンキ。

「頼みます、サル」

「喜んでいっ!!」

「おいっ!!」

 輝矢の頼みにはあっさりと頷くモンキに、ハチは不機嫌な顔で声を荒げた。

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