三焉「言ノ葉」
琴葉に助けられてから数時間。どうやらあのまま意識を失ったらしく
「お~い、だいじょうぶぅ~?」
「んんっ…?」
「お~生きてたぁ良かった良かった」
視界が映したのは、しなやかな黒いロングヘアの綺麗な女性…が不思議そうに俺の頬っぺたをツンツンしてた。
「あ…え、ここは…」
寝そべったまま視点を変えて周囲を見渡すと薬品や試験管の数々。
医療施設…?なのかな。
「ここは、私の担当施設だよ~」
全くもって為にならない返答を頂きました。ありがとうございます。
けれど、この人はどうやら医者のようだ。白衣着てるし。
「いやぁ~けどまさか、意識を取り戻すと思わなかったよ~」
「え…俺そんな酷かったんです…?」
「う~ん、ボスの攻撃をまともに受けた人は初めてだからわからなぃ~」
うわぁ…すっごい藪医者感。
「いってて…」
ただ、体はそのダメージの甚大さを語っていて。関節がパキパキと音を上げると筋肉痛にも似た痛みを堪え上半身を起こす。
「けど~、こーちゃんに後でお礼いっとくんだよ~?」
「こーちゃん?」
「君の恩人のこーちゃんだよ~」
「えっと…どなたですか?」
「こーちゃんはこーちゃんだよ~」
「お、おう」
ダメだ、やはりここの人達は話が通じないようだ!
「何にせよぉ~」
何やら先程からガチャガチャと視線先の机の中を漁ると。
「目が覚めたし注射一本いっとこ~?」
取り出されたのは、紫色の何かが入った注射器。
しかも極太…あんな注射器、採血でも見たこと無いぞ・・・
「あの…それって中身なんです…?」
「え~?いいものだよぉ~」
ふふふふふ~と上機嫌に迫り寄る。
「さぁさぁ遠慮しないで~、身体治す為のワクチンだと思って~」
「思ってって言ってるじゃないですか!!」
「どぉどぉどぉ~、貴様の命は私が握っているのだ~」
「ひぃぃ」
「よいではないか~よいではないか~」
「い、いやだー!」
シニタクナーイ!?
そんな俺をベッドへと押し倒すと、無情にも女性が視界を埋めていった。
「う、うわぁぁぁ!!」
「ふはは~ぁ!かくごぉ~」
「まったく…」
唐突に、ドンっと寝そべらされている俺の右奥の方で扉が勢いよく開いた。
「中々来ないと思って来てみれば…」
「あ、こーちゃんおかえりぃ」
「え?」
視線を横に向けると、そこには琴葉がいた。
どうやら、こーちゃん=琴葉の事だったらしい。
「酷いんだよぉ~彼ったら、私のお薬注射させてくれないのぉ」
「そんなゲテモノ色の液体見せられたら誰でも逃げるでしょ」
「多分体に良い物だから大丈夫だよぉ~」
ほら!また多分って言った!多分って。
「うぇへへ…だってぇ~××とか〇〇とか☆☆とか・・・・・・・etc いっぱい色んな良い物入れたんだ~だから悪いはずがな...」
「いいから、早く彼を解放しなさい」
明らかに怪訝そうな顔で威圧する琴葉の表情に…ふぇっ…と細く涙を浮かべると。
「もぉぉぉぉ、こーちゃんったらぁ心配だからって、私呼びに来たくせにぃ~!!!」
「っ…!うっさい!余計な事、言わない!!」
何だろう、微笑ましい様な…不毛な様な…
いや、被害受けてるの俺なんだけどさ。
「まぁそれはそうと、彼の容態はどんな感じ?」
「健康優良男児ってかんじぃ~?」
一転、唐突に表情がケロッとしたと思ったら。俺のほっぺを再びプニプニしながら、女性は答える。
いや、多分聞きたいのそういう事じゃないと思うんだけど。
「ねぇ君さ、そろそろ行くからさっさと準備して」
「え…あ、はい」
またか・・・と呆れ顔で琴葉は言い残すと、入ってきた扉の方へ歩いていく。
ただ準備をするのは良いんだけどさ琴葉さん?俺...目の前でカバディされてるんだけど…?
「逃がさないぞぉ~」
何を汲んだのか小型から~先程の極太注射も含めていっぱい目の前で見せびらかされてる。
「えへへぇぇ~お薬いっぱい準備したからねぇ~」
「そういう汲むじゃないから!?」
求:マッドサイエンティストを説得する方法。
「あ、あと楽しそうに鼻の下伸ばしてるから忠告しておくけどさ」
出口へ向かう途中で軽く振り返ると。
「ん…?」
「そいつ男だよ」
「えっ」
何とか女性だと思ってたから保ててた利性も視界を戻すと、衝撃的カミングアァァウトッ!にこにこと笑う男が…
「えへへへへぇ…貴様の命は私が握っているのだぁ~?」
「いやぁぁぁぁぁぁ!?」
「はぁ…」
† † † † †
結局、何があったとは言わないが荒々しい手段で、琴葉に救い出され拠点から出て十分足らずの地点。
そこは倒壊した建物等の残骸で足場が隆起しており、その登り切った所で琴葉は足を止めた。
「はい、そしたらまずこれ持って」
差し出されたのは、一本のサバイバルナイフ。
「ナイフ?」
「そ、訓練用に準備した君の仮武器、あそこに小型の化物が見えるでしょう」
言われるまま差し出されたナイフを受け取り、ジズ?に視線を向けると。
指さされた先には、俺が基本種と呼んでいた黒い狼型の怪物がいた。
「まず、あたしがやるから」
そう言うと、琴葉はパーカーのポケットへ納めていた右手を取り出して銃の様な形へと形作る。
「言霊」
瞬間。俺の前に現れた時と同じ光の粒が手の周囲へと浮かび始める。
「バレットワードⅡ【必中】【追尾】―――《言霊ノ弾》
と、その途端、琴葉が発した単語は、口元から光の粒となり混ざりそして一つの光弾となって指の先端へと装填される。
「射撃」
瞬間、琴葉の手から発せられた光の弾丸は、俺を追い詰めた時と同じ様に弧を描くと照準の付いた化物の頭部を容易く撃ち抜く。
「次は、君の番…んっ?」
興味津々に見ている俺の視線に琴葉が気づいた。
「な、なに?」
「あ、いや…琴葉のその能力…言霊ノ弾だっけ…?それってさ」
「見たでしょ?」
「決めた言霊を弾に込めて撃ちだす?」
「そ、それ以上は教えない」
真剣な顔で、琴葉は続ける。
「あたし達は、この力を総称して理って呼んでる」
「けど、能力は基本的に他の奴には話しちゃだめだよ」
「どうして…?」
「どうしてって…君、自分の手の内晒して死にたい?」
はぁ…っと小さい溜息を琴葉は吐く。
「あの連中をあまり信用しちゃだめだよ?あたしや兄貴もね」
あの連中…?。
「俺と煉さんの試合を見てた周りの人って事?」
「…あいつ等、殺す事しか考えて無いから」
何処となく、辛いような悲しいような...複雑そうな表情で琴葉は言った。
「じゃあ...何で・・・煉さんや琴葉は一緒にいるの?」
「生きる為」
生きる…為?
「ほら、そんなこと良いから君の番」
「・・・っ」
その矢先に、何かの異変に気づいた琴葉が鋭く視線の先を変えた。
「…?」
釣られる様に視線を移してみた物の、その地点には先程琴葉が撃ち抜いたジズの死体だけ。
至って何か変わった様子は無い。
…!
いや...認知していないだけでそれは既に変わっていた。
「気づいた?」
ジズの周囲へ目を向けると、地面や荒廃した高層ビルの様なものに赤い斑点の様なものが浮かんでる。
そして視点を再び死体の元へと戻すとそこに蠢く一つの影。
等身、形状からして、それは俺らと同じ人間だと推察できた。
「人間…?」
「君には、あれ人間に見えるんだ?」
「えっ?」
突然、琴葉が不思議なことを口走る。
表情は一変、殺意にも取れる圧を詰める様に弾が込められる。
「バレットワードⅢ【即死】【堕雨】【弾幕】―――《言霊ノ弾》
「あたしには…化け物に見える」
再び発せられた単語が琴葉の指へ装填されると、後方への大きな反動と共に即座に《《人間》》の元へと撃ち放つ。
その弾は、先程の弧を描く追尾の弾と違い、高く…高く…遥か上空へと強く突き進むように姿を消すと。
「拡散!」
一転、単発だった弾は数百・数千の降り注ぐ弾幕となり目標を、その周辺全てを灰塵へと包み込みながら破壊していく。
―――――――
灰塵が目標地点から消え去るまで数十秒。
目標地点の視界が鮮明さを取り戻すと、跡には横倒れに崩れ落ちたビルの残骸と。
倒れる《《人影》》が一つ。
気が付けば、周囲に現れていた赤い斑点もいつの間にか消えていて
対象は完全に死んだ事を現していた。
けれど。
「・・・・・・」
何処か不服そうに、言ノ葉を構えて動かない。
「ちっ…なんでこんな時に…」
舌打ち交じりに、小さく小さく琴葉が呟いた。
「君の能力さ」
「え?」
「翳すだけで対象を消し去れるんだよね?」
「そうだけど…」
「本当は基礎から教える予定だったけど…今だけは」
そういうと、軽く後方へ琴葉は跳躍して言ノ葉を構えると戦闘モーションを取る。
「生きたければ、あたしと一緒に【そいつ】《《殺して》》」
「そいつ…?」
っ!?
一瞬、地面が縦揺れしたかと思うと地面の表面に無数にそれは現れる。
ボコッ…ゴポッ…と周囲の至る所から液体が溢れると
「嫌だなぁ琴葉ちゃん、まだ何もしてないのに《《殺して》》だなんて」
何処からか、青年の様な声が響くと。睨みを利かせた琴葉と俺の前の瓦礫に赤斑点が集中、徐々に人型を作り上げる。
「ふふ、初めまして帳くん…?」




