二焉「残振」
煉の厚意により、連れ出された俺は場所も目的も知らぬまま【歓迎会?】とやらに参加する事になった。
普通の思考で考えれば誰もが、酒やら食べ物を食べながら交流するイメージを持つだろう。
俺だって、そういう風に想像したさ・・・ここに立つまではね。
「えっと・・・煉さん?」
俺は、視界の先で仁王立ちする煉に問いかけた。
「おう?」
「あの・・・何で俺は、こんなステージみたいな所に立ってるんです?」
テントから一歩出た俺の視界に映ったのは、言わば軍の駐屯地中心。
そして何故か俺は、訳も分らぬままその広場にある石造りの広いステージに立たされている。
それだけじゃない、少し見渡せばステージの所々に血の痕跡の様なものが大量に残ってる。
>確実にヤバい奴<
「丁度、他の奴らが出払っているようでな!少しの間俺とサシでやろうや!」
そう言うと煉は、両の拳を胸の前でぶつける。
「サシって・・・一体何するんです?」
分かりきってはいるが、内心当たっていて欲しくないと願いながら恐る恐る俺は問いかけた。
「決まってるだろ!漢と漢がサシですると言ったら」
「言ったら…?」
【拳の殴り合いだろ!】
ですよねー。
「いやいや…俺、まず戦えないですし…!」
「まぁそう言うなって!お前も自分の能力を知るいい機会だと思うぞ!」
「だってまず俺の能力は人を殺す為の・・・じゃ・・・」
「黙れ」
「!?」
俺が有無をいう前に場が一瞬で凍った。それはまるで獲物を追い詰める獣の様に、煉の眼つきが途端に鋭くなり声色の圧が変わった。
「残振」
煉の能力発動と同時に黒いつむじ風が両手を両足を覆うと、煉の姿が消える。
「いくぞ」
一拍置いて、凄まじい圧と風圧が背後から現れた。そしてそのまま俺の首元へと。
咄嗟に攻撃が来るであろう方向を推測し、その逆から手を翳す。
!!
目視も出来ぬまま、掲げた右腕をすかさず煉が掴む。
しかしそのまま掴まれた腕はすぐに解放された。
「振る速度が遅い、だがいい反応だ」
「次は地面からいくぞ、避けろよ」
まるで、と言うより。
確実に試している様に...視線の先に現れた煉の浮かせた左足が地面に届くと。
「地振」
瞬間。
「くっ」
平衡感覚を保っていられないほどに、視界が縦横していた。
「避けろと言っただろうが」
煉は呆れた顔を一瞬見せるものの、先程と同様に途端にその姿を消すと次の瞬間には俺の背後を取る。
「・・・・っ」
しかし先程とは違い蹴りを仕掛けてこない。
何かを察知したようにすかさず煉は間合いを取る。
「お前の能力、《《翳す》》事が発動条件ではなかったのか?」
「・・・?」
「無自覚か」
「まぁいい、ならお前の得意な《《翳す》》能力を思いっきり撃ってみろ」
「ば、馬鹿にしてるんですか?」
「どんなものも消し去れる能力なんだろ?」
嘲笑う様に、煉は俺の視界の先で受ける構えを取った。
「本当に死にますよ?」
「あぁ、やってみろ」
「・・・・っ!!」
今までの信頼感情が上書きされていくように、俺の中は煽られた苛立ちに包まれていた。
「わかりました」
「なら…死んでくださいっ!!」
俺は思いっきり両の手を振りかざした。
刹那。
視界の先、駐屯地の壁はおろかその先の荒廃したビルまでもが消え去った。
そして、肝心なその手前・・・煉が居た周囲は一見灰塵ともとれる灰黒色の煙のようなものが覆っている。
煙の様なものはゆっくり晴れていくと、そこには無傷とはいかないまでも全身に傷を負いながら煉が仁王立ちしていた。
「なっ…」
「どうした?そんなものか?」
こんなはずでは無かった、間違いなく終焉は煉にヒットした・・・なのに。
消し飛ばなかった・・・?。
「お、煉と新人が殺りあってるぞ!」
っ。
唐突に知らない声に俺は我に返った。
「怪我くらいで済むと良いのデスが」
「そんな事より、喉乾いたからその奇抜な飲み物くれよ!」
「貴重な!貴重な!研究材料を飲み物扱いするなんて一度、有機分解してやろうか!ぶぶ」
「あははwそもそも有機物かすら怪しいけどねw」
意識を周囲に向けると、ステージの周りに複数の見知らぬ人間がいる事が分かった。
しかし、俺は【一瞬、意識を向けてしまった】
「死ぬぞ」
「っ!」
一瞬だった、意識をほんの数秒離しただけで。
「空振」
俺の首元には、風圧を纏った煉の右足が迫って・・・そして捉えた。
煉は俺の肉体が捻じれるミシミシっと言う音を地面へ叩きつける。
「がっ…ぁ」
「ぶぶぶっ、煉の勝ちぶぶ」
「分かってた事デスが」
「ざっこwあーあ、つまんね」
容易く無様に平伏す俺に対して。
言う事だけ言った周囲の人影は散り散りに消え、頭上から風貌が変わった煉が覗き込んでいた。
「・・・・・・」
痛みで・・・声が出ない
「苦しいか?」
テントで会った時には想像できない程冷たい視線を向け煉は言う。
「お前は弱い」
先程、琴葉からも言われた言葉。
「どんなに強い能力を持っても、ただ扱えば屑に等しい」
「この世界で生きたければ己の力量を図れ、己でありたいのであればな」
意味深な言葉を残し、煉も周囲と同様そのまま駐屯地の一番大きなテントへと消えて行った。
「くっそ・・・」
意識が朦朧とする・・・けれど全身の痛みで意識を失う寸前に無理やり戻される。生殺しと言わんばかりの痛みの無限ループ。
「兄貴に真正面から戦って勝てる訳ないでしょ」
気づけば、薄れてる視界の中に琴葉がしゃがみ込んでいて。
「むぐっ!?」
「飲んで」
無理やりボトルに入った液体を俺の口に突っ込む。
・・・・・・あれ。
「痛くない・・・」
謎の液体を体内に取り込んでからすぐ、先程まで全身にあった痛みが一瞬のうちに消えた。
「君の体から振波を取り除いたから」
「振波・・・?」
「さっき兄貴の、蹴り喰らったでしょ」
首元に回し蹴りを受けた時だ。
「兄貴の能力【残振】は振動を使って相手の体を内側から壊せるの」
「ってか、君も能力持ってるんでしょ?何でもっと抵抗しないの」
「・・・・・・」
何も言い返せなかった。
「まぁけど、あれが兄貴なりの歓迎だから」
「かん…げい?」
「それに、君が弱いからだよ」
俺を見つめながら琴葉は再び言った。
「この世界は、もう君が知ってる様な世界じゃない」
「君がいたあの場所ですら、むしろあの場所が兄貴の範囲じゃなければ君は死んでたんだよ?」
「けど俺には、能力が」
「その力を使いこなせないんでしょ?」
「・・・・っ」
「君の能力は、監視してたんだから何となくわかる」
【手を翳せば目標を、絶対に消し去れる能力】
「確かに傍から見れば、最強の力に見えるかもしれない。けどそれは一般論」
「君は自分自身の能力の本質を分かってない」
「能力の本質・・・」
「はぁ…それに君は危険意識が無さすぎるんだよ」
「あたしが監視してた時もそうだけど、もし自分の手や腕が無くなって能力が使えなくなったらどうするの?」
「さっきの兄貴の手合わせの時だって、兄貴が調子に乗り始めてたら腕ごと持っていかれてるかもしれなかったんだよ?・・・っ?」
・・・・・・
一瞬、お互いが呆気に取られたような沈黙が入った。
そして唐突に琴葉の顔の血色が濃くなると。
「余計な事、言わせないでよ!」
無口な出会いからは想像できない、ありがたいお叱り頂きました。
うん、どうやら俺の監視をしながらもの凄く心配してくれていたらしい。
「ありがとう、琴葉さんは優しいんだね」
「っ…!別に優しくない・・・あと琴葉でいい・・・」
照れくさそうな仕草をしながら立ち上がると、ぷいっと琴葉は背を向ける。
「少し休んだら、西側の門に来て」
「え?」
「あたしが君の能力を引き出してあげる」




