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終焉ノ帳  作者: 綾瀬 凪
1/3

一焉 「終焉の始まり」

…この世界の終焉しゅうえんを俺は少しだけ知っている…



それは幾多いくたにも変化を重ねて終わりと始まりを繰り返す。

例えるなら、宗教的な考えの人間思想や提唱者の世界予言の様な物が分かりやすいだろう。

滅びる様な未来予想図を提示しても、一般的な人間はそれとは向き合わない。

非合理的な事であって、自分に起き得ないと認識するからだ。


そう、人間にとっては些細な話題の一つなのだ。

しかしその結果がこれだ。


案の定、人間の大半が否定した世界の壊滅は訪れた。


何故、こんな事が起きたのかは俺にも・・・いや誰にも分からない。


全ては一瞬だった。


世界を光ともかすみとも取れる様な物が覆うと、一瞬で存在を消し去ったんだ。


人口の大半が死を迎え、世界のあちこちに謎の怪物が現れる様になり。

あっという間に、俺が見知った街並みは直ぐに消え去った。


そして今も尚、現れた怪物達は廃れた町を壊しながら餌を探している。

まさに人間が想像していたライトノベルの様な展開だ。

荒廃した街並み、溢れる怪物に人間の狂気。

その狂気から生まれるパラノイア。


誰もが予想し得なかった結末、だけれど俺は・・・いや、人間の中にはこの結末を望んだ者もいたのかもしれない。


少なくとも俺は、この世界を望んだ。


薄汚れた人間や怪物を、そして存在を壊す為に。



†††††



・・・・・君は本当に【この世界】を望んだのかい?・・・・・




「っ・・・」


ふと、俺は目覚めた。

荒廃した俺の家に唯一、形を残しているいつものベッドの上で。


「ってて…」

目覚めるや否や体を起こすと、どうやら変な寝方をしたらしく左腕が痛かった。


「寝違えたかな・・・」


見慣れた風景。


静寂せいじゃくの中でリンリンとむしざわめきだけが耳に入った。

足元の壁が崩れており、その隙間から月明りが差し込んでいる。

ふと気づいた様に、俺は瓦礫の間に落ちている奇跡的に動いている時計を見ると午前1時3分。


天辺を通り越し深夜帯へと入っていた。


「少し寝すぎたかな」


夕方から仮眠をしていたはずがどうやら爆睡していたようだ。

寝癖を手で直しながらベッドから立ち上がる。


「早く移動しなくちゃな」


大半の人間は滅びたが人間が生きていた時と同様、尚も深夜は危険なのだ。


なんせ。


と思ったのも束の間、先程まで寝ていたベッドが俺の横を勢いよく抜け崩れた壁へとぶつかった。


「やれやれ・・・」


人間特有の臭いに誘われて不審者何て物よりもよっぽど質の悪い、【化け物】が来るからだ。


背後に姿を現したのは黒い狼の様な怪物。

赤光あかびかり帯びた鋭い眼に、黒い体毛、地にめり込む程鋭い爪に鋭い牙。

このフォルムの化け物は何度も見た事があった。

と言うより、俺の身の回りにいるのはこのフォルムが多いらしい。


分かりやすく言えば化け物の【基本種テンプレ】と言ったところだろう。


その持前の爪や牙も脅威だが、見た目に反して堅い体毛を集束して飛ばしてくる。

普通の人間が見たら、確実に取り乱す様な化け物だ。

しかし俺には、一切恐怖なんてなかった。


何故なら。


俺には【終焉ちから】があるから。



俺は背後から飛びかかって来る黒い狼の方へ勢いよく振り返ると、右手を軽く振りかざす。

刹那、何のエフェクトも無しに黒い狼は下半身だけを残し死んだ。

残った下半身の切り口から夥しい血が溢れかえっている。


この「終焉ちから」がどういう能力なのかは、はっきり分からない。


けれど1つだけ、両の手の何れかを振り払うだけで目標を消し去ることができる。

これだけ知っていれば俺に怖い物なんて何もなかった。


そう【俺は無敵だ】


蟲すら殺す事が出来なかった俺が、今じゃ怪物の血を浴びても何も思わない。

慣れとは怖い物だよね。

そもそも、この能力に気づいたのもこんな夜の事だった。


†世界が壊れた日†


思い返せば、きっと世界が壊れた事が俺の能力開花のきっかけなのだろう。

あれは確か大学の2限目の授業の時だったか?。

正直な所、もう大分記憶も曖昧になってきている。

早弁してた時だか、友達と授業中に隠れてゲームをしてた時なのか。


ただ、それでも。


ほんの数秒?数十秒?時間の長さすら分からなくなる位に深く。


俺や世界を何かが包んだ。


そして、気が付けば周りに人なんていなかった。

孤独、と言う言葉だけがその場に残って。

昼が夜に変わって、無意識の俺の目の前には狼型の怪物の集団だけが映った。


あの時は、「来るな!来るな!」とか「何で俺がこんな目に・・・」とか取り乱しながら言ってたっけな。

けどそんな中で血肉を求めた怪物は待って何てくれない、有無を言わさず俺へと飛びかかって来た。


ただ人間って不思議なもので、もう無理だと分かってても頭では無くて体が必死に抗うんだ。

俺は恐怖を噛み締めて瞳を閉じて、一心不乱に化け物を両の手で薙ぎ払った。


そこからは、言わずもがな。


数秒空けて目を開いた時には、バラバラの怪物の肉塊の山と死臭だけだった。

最初は何が起きたか分からなかったけれど。

そこから数度、怪物を相手にしてるうちに。


「これが俺の能力なんだ!!」


自身の能力は疑問から確信へと変わった。

きっと俺はあの時にもう狂ってしまったんだろう。


今では最初の頃、嘔吐していた死臭や血の臭いも何とも感じなくなった。

そこら辺に肉塊が転がっている事なんて普通だと思うようになった。

何かを殺す事なんて普通だと思うようになった。


けれど、こんな世界になってから未だに良く思うんだ。


何故、他の皆はいないのに俺だけ生きているのだろう?と。


孤独の中で力を得た、俺は一体何なのだろう?と。


「ん?」

「ガルルルルルルル」


不意に我に返り、先程の死体の方を見ると。

先程、倒した狼の血の臭いを嗅ぎつけて新たな2匹の狼型の怪物が現れた。


「またきた・・・か?」

「っ・・・」


俺は、いつもの狼の気配では無い何かの視線を感じた。

獲物を狙うような、冷たい視線を。


照準固定バレットロック


「!!」


突如、俺の前に立ち塞がる2匹の黒い狼の怪物の頭と俺の両腕に十字のロックオンサイトが浮かび上がった。


何処からかは分からない、けれど。


【誰かに狙われている】


生きている人間・・・?

いや、俺は既に約1カ月位の間この生活を続けて来たんだ。

その間、化け物と戯れる事はあったが一切人間の気配何てなかった。


とはいえ・・・。


FPSゲームなどで良く見られる様な、サイトが浮かんだ・・・という事は。


間違いなく【狙撃手スナイパー】だ。


しかもサイトが化け物だけでなく俺にも浮かんでいる辺り間違いない。


「俺を・・・狙ってる」


同時射撃マルチプルショット


俺の小さな呟きに、2匹の狼の背の遥か奥の方で一瞬何かが光った。

仮に本物の狙撃銃だとして2km離れているとするなら着弾まで2秒弱・・・。

こんな所で、ミリタリー趣味が生きるとは。

いや、そんな事考えてる場合じゃない。


何かに隠れないと・・・。


俺は咄嗟に、先程狼に跳ね飛ばされたベッドの陰へと滑り込む。

直線で飛んできた小さな2つの光の塊が途中で弧を描くと、俺へと飛び掛かる2匹の黒い狼の頭の中心を打ち抜いた。


的確な射撃、いや弾が勝手に追尾してサイトに吸い込まれた様にも見えた。

追尾弾なら間違いなくベッドに隠れている何て無意味だ。


けど・・・ただの実弾なら消せる。


俺の終焉で。


何て甘い事を考えていたのも束の間。

怪物を撃ちぬき、俺の背後の壁の隙間から向こうへと消えたはずの弾が。

一瞬、光が見えたかと思うと。


「なっ、下から・・・!?」


突如、地面の隙間から俺へと向かって来た。


「なんだ…!?この弾」


おかしい・・・、追尾する弾なのは分かったが。

それに加えて何かがおかしい。

両腕のサイトを目がけて飛んできたと思った、瞬間には。

俺の回避に連動する様に、あらゆる方向から再び奇襲を仕掛けてくる。

先程から小まめに確認をしているが初期発射された時の様に一瞬の光が見えない辺り、最初の狙撃地点から再び弾を撃ったとは考えにくい。


となると・・・。


選択肢は絞られる。


既に縦横無尽に狙える位置にいる・・・?。

いやまて、数kmある距離からここまでそんなすぐに来れるはずが無い。

ましてや、こんな障壁が沢山ある地点で背後や頭上から撃つなんて…。


「!!」


いや、できる。

もちろん普通の狙撃手なら無理だろう。

そもそも俺は何で今の今まで気づかなかったのだろう。


「俺と同じ・・・能力者‥」


能力は違えど、俺の【終焉】と同じように力を持つ者がいるとするならば・・・。

不可能ではない。


「考えろ・・・俺」


1カ所の狙撃地点から、たった数発の弾で敵を追い詰める能力・・・。

限りなく可能性があるとするならば。


【転移する弾】


今俺が、推測できるとしたらそれしかない。

点から点へ移動するように、ある一定のラインを超えると弾が別の地点から再発射される。


それは分かった・・・けれど。


「何処から来るか分からない弾なんてどうすりゃいいんだよ・・・」


いや・・・。


そう考えると先程から見えている一瞬の光は、きっと転移した合図。

弾が新たに、転移地点から再発射される時、一瞬光るんだ。

つまり、飛んでくる方向が予測できないわけじゃ無い。


弾さえ消せれば・・・。

まだ、この状況をどうにかできる。


とはいえ俺の両腕をロックされている以上、下手には動けない・・・。

かと言って、いつまでも耐久出来る様な余裕は既に無い。


数度の転移した弾を障害物で防いで5回目。

俺の真正面の壁の隙間が光った。

ここでやるしかない。


「っ・・・!来い!!」


俺は、覚悟を決め両の手を光の見えた前方へと大きく振りかざした。


瞬間。


あろう事か前方の光った地点とは真逆の背後にある壁の隙間から弾が現れ、俺の両腕へとヒットした。


「がああっ!?」


2つの弾が俺の両腕にヒットするや否や、激痛と共に腕が動かなくなった。

そして撃ち抜かれた様な痛みも消え去った。

まるで、痛覚や腕への神経、骨までもが何もかも無くなったかの様に。

両腕を動かす根本が消え去ってしまった感覚。


両腕の自由を失った俺は、地面へと無様に突っ伏す形に倒れた。


「畜生・・・何なんだよ・・・」


マジで・・・俺が何したって言うんだよ。

うつ伏せのまま、暫くして俺に近づいて来る足音が少しづつ聞こえた。


「うっ・・・」


見上げる視界の中には、見知らぬ少女。


「・・・女?」


「・・・・・・」


俺の目線の前まで歩いて来ると見下す様に少女はこちらを見ている。

見た目的に、俺と同い年位の少女。

金髪のツインテールに薄緑色のパーカーに黒いスパッツ何処となくボーイッシュな姿をしていた。

ただそんな麗美れいびな容姿より目についたものがあった。


少女の手だ。


先程、俺を追撃してきた弾に良く似た光の粒が大量に浮かんでいた。

間違いない、こいつが俺を狙った【狙撃手スナイパー】。


「おい・・・一体何が目的なん・・・」

「がっ・・・」


言葉を遮る様に俺の首元に唐突に鈍い痛みが走り、俺はそのまま意識を失った。



†††††



「ううっ・・・」


どれ位、意識を失って居たのだろうか。


霞んでいた視界を完全に取り戻すと、視界には天井らしき布地が見えた。

布・・・?。


「ここは何処だ・・・?」

「あれ・・・腕が動く」


先程まで棒みたいになっていたのが嘘の様に軽やかな動きを取り戻した、両の腕で俺は上体を起こした。

改めて周囲を見渡すとどうやらテントの中らしい。


「お、目が覚めたか!」


唐突な大声に、一瞬びくっとなったが視線をテントの入り口に移すと。


「えっと・・・?」


何やら狼の化け物の体毛張りにツンツンした黒髪の男が立っていた。


「いや~すまねぇな!わざわざ来てもらっちまって!」

「あ、え?はい?」


来てもらったって何の事だ?。


「いや、俺は・・・襲われて・・・」

「お、そうなのか!すまねぇな妹が迷惑かけちまったみたいで!」


え?妹?。


ってか全然話が噛み合わない。

あれだ、一方通行系男子。


「何だよ!一戦してたのか!で?どうだった!どっちが勝った?」


興味津々で、俺の方に腕を回しながらグイグイと顔を近づけてくる。


「兄貴・・・五月蠅い」


すると、テントの入り口の布が少しずれ、見覚えのある少女が姿を現した。


「あー!!お前は!」


それは、俺を襲った狙撃手。


「・・・・・・」


少しずらしたテントの布の隙間から細めた目で俺を見ている。


「おい、琴葉!なんだよ!一戦したなら言えよな!」

「戦って何ていないよ、ただ狙撃しただけ」


そう、ただ狙撃された俺です。


「そんな事より、君」

「弱いね」


初対面に弱いって言われた。


「おいおい!琴葉!何言ってんだよ!誰だって最初はそんなもんだろ?」

「へへっ!妹がすまねぇな!何にせよ理解してもらうには、まずは自己紹介だな!」


ニコニコと満面の笑みで妹の方からこちらへ向き変えると。


「俺は、熾条しじょう れんだ!よろしくな!」

「・・・・・・熾条しじょう 琴葉ことは

「あ、えっと夜月やがつ とばりです」


「おぉ!良い名前じゃねーか!帳!」


一層大きい声で言うと、俺の背中をバシバシっと叩く。


「あの、えっと・・・俺・・・なんでここに連れて来られたんですか?」


最大の疑問をぶつけてみた。


「おう!訳も分からず連れてきちまって悪かった!」

「ただ、説明する前に先に俺らの仲間共々!お前を歓迎する為の準備をしててな!」

「まぁ!先に俺らの歓迎会に来てくれや!」


言い放った煉は、一瞬俺の腕を強く引くとそのままテントの外へと姿を消していった。


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