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諦めてギュッと目をつむった。
その瞬間、体が浮いた。
持ち上げられた、という感じではない。
小さい頃に、〈たかいたかい〉をされたような、内蔵が浮いたような感触。
ビックリして目を開けるとアロイスは、下にいた。
アロイスが下にいる?
家の屋根に着地したようで、私を抱えているのは誰だろうかと、顔をあげると、灰色の耳が生えていた。
(獣人…!)
「おい、お前」
急に話しかけられてビクッとする。
「あいつ、飛べるのか?」
「い、いえ。飛んでるところは見たことないので多分…」
「そうか」
そういうと灰色の獣人は、私を抱えたまま身軽に屋根を飛びうつって、アロイスから遠ざかっていく。
見たところ私を助けてくれたであろう獣人は、猫のようだった。
屋根を飛びうつる、なんてことは初めてのことで、怖すぎて言葉がでなかった。
しばらくすると灰色の猫の獣人は、一軒の家の前に降り立って、なかに入っていった。
見たことがある、と思ったがここはファビアンさんの宿だった。
「おーい、ファビアン!」
私をまだ抱えたままの獣人は、ファビアンさんを読んだ。
「この声はユーグかい?なんのよう?」
灰色の猫の獣人はユーグさんというらしい。
いつもと変わらない柔らかな声で答えながら、ファビアンさんは台所から出てきた。
そして、ユーグさんに抱えられた私を見てギョッとした顔をした。
「ル、ルイさん!?何でユーグに…」
「拾った」
ユーグさんが間髪いれずに答えた。
拾った、私はどうやら拾われたらしい。
「な、成りゆきで…はは…」
魔力が少し回復するのを待って、拘束魔法を解いた。
少し複雑だったが解けないものではなかった。
「それで?何でルイさんはユーグに拾われたんです?」
お茶を用意しながらファビアンさんは聞いてきた。
なんて言えばいいのか、どこから言えばいいのか、そもそもファビアンさんに正直に答えていいものなのか。
考えているうちにユーグさんが喋りだした。