8
仕掛けたトラップも、アロイスは身軽にかわしていく。
けれど長々追い付いて来ない。
アロイスはわざと追い付いて来ないのだろう。
向こうはこの鬼ごっこを楽しんでいる。
そろそろ体力もなくなってきた。
曲がり角を曲がるとそこはいきどまりだった。
一瞬で血の気が引いていく。
逃げるところはない。
飛べるほどの魔力もない。そもそもそれほどの技術を持ち合わせていない。
「レティシア嬢、もう終わりですか?」
後ろからアロイスが現れる。
「な、なぜ!私を連れ戻しにきたのですか!父が決めた相手と結婚しても、あの家の品格が落ちるだけ!あなたも気づいているでしょう!?」
「ああ、わかっているよ、レティシア嬢。けれど主人に言われたら従わなければいけない。知っているでしょう?レティシア嬢」
笑いながらアロイスはゆっくりと近づいてくる。
「誰と結婚させるつもりですか!?」
「誰だと思う?レティシア嬢?」
頭のなかで家を出る前に見た肖像画を並べる。
アロイスは私の考えている顔を見て笑って言った。
「あの第二王子だよ、レティシア嬢」
私は開いた口がふさがらなかった。
ランス王国の第二王子、と言えばアホで有名だった。
お金を使い、平民をバカにして、まさに王子という階級をだしに、めちゃくちゃなことをやっている王子だった。
第二王子、だということがせめてもの救いだろう。
あれがもし、王になったら王国は崩壊するだろう。
「ほら、一応あれでも王子だからさ、レティシア嬢は一生生活に困ることなんかない、妃としての身分も保証される。ほら、いい話じゃないか」
「ふざけないでください!もう、私はあの家に戻らないと決めたのです!結婚もしません!」
帰ってくれ、心のなかで祈る。
「じゃあ、仕方ないなー。拐う形で連れ戻したくなかったんだけど」
アロイスは近づく速度を速めた。
もう魔法も使えない。体力もない。
もう、だめだ。
アロイスの束縛魔法で体が動かなくなり、その場に倒れこむ。