7
ファビアンさんのところで働き出して1ヶ月がたとうとしていた。
言葉遣いも慣れてきて、無事にこの国を出られる準備ができるほどお金もたまりつつあった。
この日の夕方、ファビアンさんに買い出しを頼まれていた。
少し見慣れた市場に行けば、いつも新鮮な食材が売られていた。
頼まれていたお肉や野菜を買って帰ろうとしたとき、肩をたたかれた。
「すいませんが人探しをしていましてね。この人を探してるんですが」
はぁ、と差し出された紙を見てみると、紛れもなく私であった。
「んっ」思わず変な声が出た。
そしてばれないように、紙を差し出した人物を見る。
その人物には見覚えがあった。
あの家に仕える騎士アロイスだった。
アロイスには剣や魔法を教えてもらった。
言うなれば私の師匠だ。
どこか抜けているけれど、強い人だ。
「見たことないですね」
必死に平静をよそおう。
「そうですかー、君って女の子っぽいね。実は男装してたりねー」
笑いながらいきなり顔を覗きこんできた。
まずい、と思ったときにはすでに遅く、
「って、あれ?レティシア嬢じゃないか!髪をばっさり切って!気づかなかったよ~」
そうだった、アロイスはこんな人だった。
思い出したときにはすでに遅かった。
「父上と母上も心配してるよー、レティシア嬢にいい話が来てねー」
逃げようと、後ろを向いて走り出そうとしたとき、手をアロイスに掴まれた。
「どこへ行くの?レティシア嬢?」
にっこりとした顔で言われた。
「っ!《雷よ!》」
手の周りに小さな雷を起こした。
アロイスは一瞬掴んだ手を緩めた。
その一瞬を逃さずに手を抜いて走り出した。
「油断したなぁ、鬼ごっこかいレティシア嬢?」
走り出した時にアロイスが言った言葉に背筋がぞわりとした。
(逃げなきゃ、逃げなきゃ)
いい話、というのは結婚のことだろう。
私、ではなく両親にとっていい話。
ここで捕まってしまったら家出した意味がない。
後ろからはアロイスが追いかけてくる。
そのうち追い付かれるだろう。
無意味だろうが魔法でトラップを仕掛けて路地に逃げ込む。