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透明だった石がたちまち真っ赤に染まったのを確認してファビアンさんに返そうとして顔をあげると、ファビアンさんは、ポカンとした顔でこちらを見ていた。
「ルイさんって、魔法使えるんですか…?」
なにか不味いことをしてしまった気がする。
「簡単なものはある程度…」
攻撃魔法や防御魔法もできるが黙っていたほうが良さそうだった。
「あの、なにか駄目でしたか…?」
おそるおそるファビアンさんに聞いてみる。
「いや、駄目とか言うわけではないんですが…、魔法使えるって、珍しいじゃないですか?だから、ちょっとビックリしてしまって…」
「あ、あはは!そう、ですよね!」
魔法が使えるのが珍しいと言うのは知らなかった。
両親も含め、友達でさえ魔法を使っていた。
けど、今思い出せば下町の住民は魔法石を使っていても、魔法を使っていた訳ではなかった気がする。
魔法を使える体質があるとすれば、貴族が多いのだろうか。
レティシア改め、ルイは常識は持っていても知識は少し足りなかった。
(もっとまじめに勉強していれば良かったですわ…)
明日本屋に寄って知識をつけようと思った。
「と、ところで!宿泊のお金はどうしたら?」
少し無理矢理に話を変えた。
「一晩食事つきで銀貨二枚です。どのくらい泊まりますか?」
「とりあえず二晩お願いします」と、財布から、銀貨四枚を取り出した時に気づいた。
お金がない。
確かに私は今まで余りお金を使わなかった。が、さすがに家出の準備に大半を使い果たしていたようだった。
宿代は、ある。
けれど、またこの国を出る準備をする分のお金は明らかに足りない。
「ルイさん?」
しばらく固まったままの私を心配したのだろう。ファビアンさんが声をかけた。
「ぎ、銀貨四枚ですよね!」と、手に持った銀貨を渡す。
「はい、ちょうどですね。晩御飯はどうしますか?」
そう聞かれて、ここに来る前に食べてきたから大丈夫と、答えようとしたが、答える前にぐぅ、とお腹がなった。
たちまち私の顔は真っ赤になった。
(男性の前でお腹がなるなんて…!)
「た、食べます…」と小さな声で答えた。
するとファビアンさんは、はははっと、柔らかい声で笑って、
「わかりました、用意しときますね」
と答えた。
用意された部屋に入って、ベットに倒れこんだ。
今までしたことのない旅に予想以上疲れていた。
「お金、どうしましょう…」
言葉使いを直すのもおっくうで、元のしゃべり方で呟いた。
働く。けれどどのようにして働くのかもわからない。働いたこともない。
魔法でなにかできるだろうか。いや、魔法を使えるのは隠した方がいいだろう。
明日は、ギルドに行って、本屋にも行って、と頭のなかで予定をたてていたが、いつの間にか眠ってしまっていた。