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美味しい晩御飯を終えて、ギルドに寄ろうとおもったが、足が少しふらついた。
思いの外疲れていたようだった。
ギルドに行く前に宿を見つけようと、先程の屋台のおじさんに、いい宿はないですかと聞くと、そこの曲がり角にいい宿がある、と教えてもらったのでそこへ行ってみた。
宿のドアを開けて
「こんにちはー」
と声をかけると、はーいと、男性の声が返ってきた。
台所であろう場所から出てきたのは、前掛けエプロンをかけた、2メートル近くの茶色い耳の生えた男性だった。
「あ、あの、しばらく宿をた、たのみたいのですが…」
まさかこんな大きな獣人の男性が出てくるとは思わなかったので、どもってしまった。
「もちろんいいですよー!お一人ですか?」
明るく返してくれる獣人男性。
は、はい。と小さく答えることしかできなかった。
「じゃあ、この紙に名前を書いてくださいねー。僕の名前はファビアンと言うので何かあったら気軽に聞いてください。あ、馬は、馬舎があるのでそこにお願いしますね」
そう言ってファビアンさんは、戻っていった。
机に用意された名簿に名前を書こうとして、ペンが止まった。
本名である、レティシア=ドゥラノワと書こうとしたが、それは貴族であった名前で、名字がある。平民の方には名字はない。しかも女名だ。
しばらく悩んだ結果名簿には、ルイと書いた。
そして、言われた通りに馬を馬舎に繋げ、水を魔法で出した。近くに餌用の干し草があったのでそれを餌箱に入れた。
宿に戻ってファビアンさんに声をかけた。
「ファビアンさーん、馬を繋げて来ましたけど、お金はどうしたらいいですかー?」
と、女言葉と言葉使い気を付けながらファビアンさんが入っていった部屋に声をかけるが、さっきの明るい返事がない。
「ファビアンさん?入りますよー?」
断りを入れて入ると、大きなかまどに顔をつっこんでなにか作業をしていた。
かまどから出ているお尻には、ふさふさとした茶色いしっぽが左右に揺れていた。
さっきの耳としっぽから見るあたり犬の獣人だろうか、と思いながらファビアンさんに声をかける。
「ファビアンさん?」
すると、私の声に気づいたのかずるずると出てきた。
「どうしたんですか?あー…」
私の名前を言おうとしたのだろうが、わからなかったことに気づいたのだろう。
「ルイです」と、さっき自分に名付けたばっかりの名前を言う。
「ルイさん!どうしたんですか?」
「お金をどうしたらいいのかと思って聞きにきたんですけど、ファビアンさんこそどうしたんですか?」
「それがですね…魔法石の期限が切れてしまったようで、火が着かなくなってしまったんですよね」と、手に持った透明な石を見せる。
「そういうことなら」と、その石を借りて魔力を込める。
するとたちまち透明だった石は、真っ赤に染まった。
魔法石
使いきっても、また魔力を込めれば再び使える優れもの。安価であり一般家庭に普及している。