第5節:政府軍特殊任務装殻兵部隊
横暴な上司の理不尽な命令に従って、巡回に出たマサトだったが。
「まさか初日から当たりを引くとは……」
悲鳴を聞き付けて向かった先に、蜂型装殻を纏った装殻者と参式の姿があった。
壊れたビルの残骸が壁を築き、廃材の中で広場のようになっている一角。
古ぼけて傾いた街灯の下で向かい合う二人を見ながら、マサトは首に下げた十字に触れて装殻を展開する。
「Veild up!」
『承認』
最初から対《黒の装殻》戦闘を想定していた為、出力制限は解除してある。
現れたのは、三対の羽型機動補助機構を備えた白色の司法局第七課制式装殻。
執行者・捌式。
「スタッグバイト!」
マサトの命令と共に、両腕に備えたノコギリ型の刃を備えた大型拘束兵器が射出されて空中で結合。
大きく左右に広がったクワガタの顎に似た兵装が、参式を捉える為に迫る。
「限界機動!」
同時に超速反応領域に入り込んだ捌式は、スタッグバイトとは逆側に回り込んで、参式の回避行動を阻害しようとした。
が。
「限界機動」
『実行』
ほぼ同時に超反応を始めた参式は、正面から迫るスタッグバイトを受け止めると。
そのまま、せめぎあって火花を散らしながらスタッグバイトを押し込み、逆にへし折った。
「嘘ぉ!?」
凄まじい膂力に思わず声を上げるマサトを他所に、参式は結合部を破壊されたスタッグバイトを放り出して宙に跳ねる。
直後、彼が居た場所を甲高い音と共に銃弾の十字砲火が薙いだ。
「は、お、うぇぇ!?」
状況について来れないキラービィの装殻者が、尻餅をついて頭を抱える。
彼を庇うように移動して限界機動を解いた捌式は、そのまま周囲を見回した。
周りを、いつの間にか複数の装殻者に囲まれている。
全員が同型の灰白色装殻を身に纏い、青い双眼を光らせていた。
「特殻……」
『検索……照合。IDNo./ACC-04M:アンティフォアGF』
自動照会機能により導かれた装殻情報が、マサトの呟きを肯定した。
参式が、不気味に目を光らせながら低く身構える。
「出力解放……」
『実行』
「ッ!」
迎え撃つ為に身構えるマサト。
「〈紅の連撃〉」
『機動補助』
だが、参式の狙いはマサトではなく、周囲に展開する特殻の装殻者だった。
補助頭脳のアシストを受けて、爆風の速度で彼らの一人に迫る参式に。
二人一組で銃を構えていた特殻が引き金を引く。
しかし。
彼らの銃弾は、参式の手前で不可視の何かに弾かれて参式の体に届くことなく、周囲に弾き散らされる。
「避けろ!」
誰かの声が響くが、時、既に遅く。
『1』
腰だめに構えた左拳を極限まで加速したフックの一撃が、一人目の肝臓を捉え。
『2』
即座に、左拳を引き戻す反動で放たれた右のフックが、もう一方の顔面を捉えた。
「Finish」
参式の小さな宣言と共に。
叩き込まれたエネルギーが、特殻達の外装を爆砕した。
一直線に彼らの間をすり抜けた参式は、そのまま振り返る事なく闇の中に姿を消す。
「追え!」
先程と同じように誰かの声が響き渡ると、特殻達は即座に従って参式を追い始め。
後に残されたのは、マサトとキラービィの装殻者。
そして装殻を纏わずに立つ軍服の男と、指示に対して動かなかった特殻の二名。
特殻の二名は、無言のまま参式にやられた二名を回収して姿を消す。
マサトはこちらを見下ろす軍服の男を意識しながら、元々参式の立っていた場所に向かって歩き出した。
そこに二つの生首と、一つの小さなチップが落ちている。
チップを拾い上げると、どうやらそれは記録媒体のようだった。
「それをこちらに渡せ。司法局の装殻者」
軍服の男が言い、マサトは肩を竦める。
「悪いけど、それを判断するのは僕の仕事じゃなくてね」
言うのと同時に、甲高いサイレン音が遠くから迫ってきて、何人かの司法局員が姿を見せた。
『人相不明』の遺体を報告した津和という室員と、井塚の姿もその中にあった。
「上司の許可があれば渡すよ。ただ、正式な手続きを取ってね」
マサトの言葉に、無言で答える軍服の男。
「僕の名前は、正戸アイリ。フラスコルシティ司法局からの出向員だ。大阪区司法局の本部まで、同行して貰っていいかな?」
軍服の男は廃材の山の上から飛び降りると、マサトに近づいた。
「政府軍特殊任務装殻兵部隊長、海野ケイタだ。階級は少尉」
優男と呼んで差し支えない顔をした少尉は、花立に通じるものがある硬質な表情で告げた。
「良いだろう。同行しよう。ーーーそちらの少年はどうする?」
問いかけに対して、装殻を解除したマサトが答える前に。
「オメー、こんなとこで何しとんねん」
井塚がキラービィの装殻を解除した少年に向かって問いかけた。
少年は、不貞腐れたように目を逸らす。
「お知り合いですか?」
津和の問いかけに、井塚は苦々しい口調で答えた。
「……俺の息子だ」




