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第4節:室長命令

 マサトは、室長に会議室に呼ばれた。


 そこで、今回の件についての説明を受ける。

 マサトは会議室のテーブルに腰を預け、室長は椅子に座って足を組んでいた。


「《襲来体(イミテイト)》?」

「そうだ。《寄生殻(パラベラム)》とは別種の、人類の敵だ」


 それは宇宙より飛来した隕石から現れた、異質な生命体だと言う。


「奴等は、殺した相手に擬態する。我々が装殻を纏うように、奴らは人体の外部情報を剥ぎ取って纏う」


 室長は言った。


「故に殺された人物からは、外的情報は全て消える。それが『人相不明(ノーフェイス)』だ」

「まぁ、僕も『不明生物襲来事件』は知ってるよ。学科で習ったし。でも、その話は初めて聞いた」

「秘匿されたからな。人を襲って擬態するなんて情報が出回ったら、社会規模の恐慌(パニック)が起こるだろうが」

「まぁ確かに。でも、何で今更出て来たの?」


 大阪隕石と呼ばれるそれが、かつて天王寺と呼ばれた場所に落下した後。

 その隕石から現れた異質生命体は《黒の装殻》を含む政府軍の攻撃により、殲滅された筈だ。


「現れた襲来体は殲滅した。しかし、本体である隕石のコアが破壊出来なかったんだ」

「何で?」

「私が理由まで知っている訳がない。分かっているのは、本条が隕石のある区画を『エリア0』として封印し、政府はその周辺の再開発を放棄した事だけだ」

「襲来体がまた現れたって事は、封印が破られたって事?」

「封印そのものが自然に解けるとは考え辛いが、コアが自力で目覚めた可能性もある。一概には言えん。ーーーが、今すぐにそれを確認するのは不可能だ」

「は?」


 マサトは思わず聞き返した。


「人類規模の災害なのに、ちょっと悠長じゃない?」

「私がそう思っていないとでも?……Lタウンで参式(ザ・サード)が目撃されたらしい。特殻が出張ってて、エリア0周辺区域で作戦行動を取っているそうだ。これが障害の一つ」


 室長は指を立てた。


「エリア0への立ち入りは、司法、立法、行政の最高権力者三名の承認と、本条の許可がいる。これが二つ目」


 室長はさらに指を立てた。


「さらに襲来体の殲滅は速やかに、人員は最小限で、しかも参式を相手にしながら、かつ今言った全てを秘密裏に進めつつ、事態を納めなければならない」


 無理ゲー。


 そんな言葉がマサトの脳裏を過る。


「てゆーか、ちょっと待って。今参式を相手にしながらって言った?」

「ほう、以前に比べて、頭の動きはマシになって来たな。よく気付いた」

「褒めてないよね、それ。良いけどさ。で、何で黒の装殻の相手をしなきゃいけないの?」


 エリア0の話が本当なら、助けてくれても良いくらいだ。

 しかし、室長は表情一つ変えずに爆弾を落とす。


「残念だが、その参式は襲来体の擬態である可能性が非常に高い」

「……黒の参号は、襲来体に殺されたの?」

「そんな訳があるか。襲来体のもう一つの能力だよ。奴らの体組織は流動形状記憶体(ベイルドマテリアル)に酷似している。接触した事のある装殻者の情報を読み取り、自らを変質させるんだ」


 マサトは頭が痛くなって来た。


「奴らは過去に接触した黒の装殻の情報を持ってるって事?」

「そうだな」

「最悪の可能性を訊いていい?」

「言ってみろ」

「下手すると、参式だけじゃなくて《黒の装殻(シェルベイル)》の複製体を、全員分相手にする可能性があるって事?」

「多分な」

「ねぇ、勝てる訳ないよね?」


 マサトは笑顔のまま額に青筋を浮かべた。


「マジで災害規模じゃんか。人間を殺して擬態する生物が、黒の装殻の能力まで持ってるって? 今すぐにハジメさんとジンさんを連れて来て欲しいね」


 詰め寄るマサトに、室長は平然と言った。


「安心しろ」

「何をどう安心したら良いのか教えてくれたらね」

「奴らは日光に弱い。つまり活動は夜間だけだ。最悪日の出まで逃げ切れば生き残れはする」

「安心出来ない! 全然安心出来ないよそれ!」

「そしてお前に対する命令だ」


 室長はわずかに口の端を上げながら、命令書をホロスクリーンに表示した。


「フラスコルシティ司法局捜査第七課、特別出向員、正戸アイリ。本日より20:00〜5:00の間、期間無期限でLタウン全域の巡回を命ずる」

「ふざけんな!」

「勿論、一人でな。人員に余裕はない」

「鬼か!」

「ああ、一時間程度の休憩は許可する。労働基準法に抵触しない範囲で働け」

「全然嬉しくないっ!」

「マサト」


 室長は組んだ足の上で両手の指を絡め、淡く笑ったまま目を冷たく細めた。


「拒否権があると、思っているのか?」

「……………いえ」


 その静かな声音に、あっさりと屈するマサトだった。






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