第3節:深夜の虐殺者
深夜のLタウン。
大阪区から然程離れていない、ごく浅い区画には、まだインフラが生きている場所もある。
傾き、古ぼけてはいてもまだ明かりのつく街灯の下で、友人達とバカ笑いしていた少年は、ふと制服姿の男に気付いた。
薄暗い場所からこちらを見ていて、顔はよく見えない。
「おい」
友人達に声を掛けると、彼等も一斉に制服の男を見る。
少年達は、ごく普通の大阪区民だった。
Lタウンに入り込んでは火遊びをしている、見つかったら軽犯罪者として補導対象となる程度の。
言うなればまだ『浅い』者達。
彼等は、Lタウンの真の住民である浮浪者や犯罪組織とは繋がりがない。
時折、同じような連中に因縁をつけられたりするが、勝てそうならボコり、無理そうなら躱して来た。
その勝てそうの基準も、相手が装殻を持ってるか持ってないか、というあまりにも低いレベルでの話。
「なんや、お前」
声を掛けても返事はないが、どうも司法局関係者に見える。
少年達はあくまでも粋がっているだけで、本当の危険を望んでもいないし、補導されるのも嬉しくはない。
「行こや」
律儀に自分達が散らかしたゴミを拾って帰ろうとする、少年達に対して。
男はネクタイ緩めると、ゆっくりと腕を構えた。
右拳を、顔の前に。
左拳を、右腰に。
そのまま、体の中心で交差するように両腕を薙ぎ払い、軌跡が太い逆十字を描く。
「参式、纏身!」
『実行』
男の全身を、限りなく黒に近い紅の外殻が覆う。
翡翠の両眼が鋭く光り、体幹と腰に現れる太い出力供給線。
そこから全身に細いラインが伸びて、補助頭脳が告げた。
『装殻状態:全能力制限』
最後に、腰の左右前面に付いた一対の出力増幅殻が輝き。
現れたのは紅黒色の外殻を持つ、両腕と膝下が特に盛り上がったマッシブな体格の装殻者。
――黒の装殻・参式。
※※※
「な、なんやねん、お前……! 俺ら何もしてへんやろ!?」
恐怖のままに声を上げて、少年は叫んだ。
「散れ!」
少年の声に応えて、友人達も逃げ出した。
装殻者は追ってくる気配もなかったが、少年は走りながら、自分のピアス型装殻具を撫でた。
「Veild up!」
『確認。蜂型展開』
簡易型補助頭脳の声がして、装殻が展開する。
MR研製、型式番号/CU03―6:キラービィ3030。
空間機動性と近接戦闘に長けた装殻だ。
しばらくの間、一心不乱に逃げた少年は大阪区とLタウンの境目辺りで足を緩めた。
「……撒けたか?」
言った途端。
がしゃん、と重い音を立てて。
積み上がった物を踏み抜きながら、少年の目の前に紅黒色の装殻者が着地する。
「うぉ!? ……嘘やろ?」
焦りながらも、少年の心の中に過ったのは、友人達の事。
この紅黒色の装殻者が自分を追ってきたのなら、奴等は無事に逃げれただろう、と。
しかし、そこで気付く。
彼の両手にぶら下げられた、丸い物体は。
見知った顔をした―――人の頭。
紅黒色の装殻者が、吊るした首を地面に落とすのと同時に。
少年は、腹の底から恐怖の絶叫を上げた。