第30節:参式の真価③
「右だ!」
カヤが装殻への反応を周囲に伝えると、特殻隊員の一人が反応した。
彼らが、殻弾機関銃の連射で二体を始末する。
直後に陸式を纏った井塚が襲来体に向かって飛び込み、装殻短剣で別の一体を始末してカヤの元へ戻って来た。
カヤが纏っているのは灰色の捌式だが、指揮官仕様の電子系を強化したタイプだ。
機動補助機構が小型で、スタッグバイトも装着していない。
代わりに、彼女は普段から携帯している太刀を片手に戦っていた。
危なげなく襲来体を始末出来たが、状況は悪い。
「カヤ。これ、キリないで。ちっと不味ないか?」
「そうだな……」
井塚の言葉に、カヤはうなずいた。
彼女達は十数名で、コア・コピーから逃げつつ東へと向かっている。
途中、東を攻めていた生き残りの特殻と合流したものの彼らもかなり消耗しており、通信妨害によりカヤの索敵機能も制限を受けている為、後手に回ってしまっていた。
残弾も心許ない。
「思った以上に襲来体の数が多い。あのコア・コピーが集めたのか?」
「それにしては動きが散発的や。命令系統がはっきりしとらんような感じやな」
一体、何が起こったのか。
日差しが遮られているとはいえ日没を待たずに、襲来体が地上へ本格的に這い出して来ているらしい。
組織だった動きをしていない為に少人数でも応戦出来ているが、これ以上一斉に来られたら対処出来なくなる可能性がある。
戦闘仕様ではあるものの、競技用で低出力の装殻であるミツキに現状で無理はさせられず、最初の奇襲を生き残った通信士が二名。
怪我人数名を抜いた実質の戦力は、十人を割っていた。
「せめて、どこにトウガがおるか分かれば……」
「いや、待て」
井塚がぼやきかけた所で、カヤはある事に気付いて右の耳辺りに手を当てた。
「……通信が回復した。妨害範囲から抜けたか?」
「お」
カヤが言いながら確認してみると、様々なリンク機能も同時に復活していた。
「ずいぶん唐突にクリアになったな。こりゃ、誰かが装置を壊したんか?」
同じく確かめたのだろう、井塚の声に張りが出ていた。
目配せするようにこちらを見る彼に、カヤは装殻の下で笑みを浮かべた。
自分達以外にも、まだ誰かが動いている。
カヤは信じていたが、目に見える形で確認出来るとやはり安心感が違った。
「おとん!」
二人が少し気を抜いていた所で、ミツキが焦った声を上げる。
彼が指差す方向を見ると、コア・コピーが三体の襲来体を引き連れて、またこちらを発見したようだった。
「チッ! しつこい奴やのお!」
「始末するか?」
「出来るんか!?」
「通信が回復したからな。総員、装殻リンク形成!」
カヤの声に、特殻と井塚が装殻同士のリンクを形成する。
「おい、ミツキ。お前もやれ」
「え?」
「おいおい、参加さす気か!?」
「度胸と気骨だけは親譲りだろう? 役に立てそうなら、役に立って貰う。来るぞ! ミツキも配置につけ!」
「りょ、了解!」
ミツキが慌てて動き、井塚が舌打ちした。
「無茶さすなよ!?」
「過保護だな! 努力はする!」
「なんつー信用出来ひん約束や……」
ぼやきながら、井塚は殻弾機関銃を特殻らと一緒に構えた。
「撃て!」
カヤの合図と同時に、リンク先であるカヤの装殻から送られたデータの範囲に、殻弾をばら撒く。
狙い通りに襲来体に命中し、彼らの突撃が止まる。
「陸式!」
「オメー、俺に一人でやれってーんか!?」
唯一、殻弾にも怯まずに迫って来たコア・コピーに、カヤは井塚をぶつけた。
文句を言いながらも、ナイフを片手に壁役になる井塚。
「特殻! 三人一組で襲来体を殺れ!」
「「了解!」」
答えた特殻達が、それぞれに襲来体へ向かう。
「ミツキ! 私の後に続け。遅れるな!」
「は、はい!」
捌式・指揮官仕様とキラービィ3030が、最後の一体へと向かった。
「撃て!」
ミツキは立ち止まると、一応持たされていた殻弾機関銃の弾を、視界に赤く表示してやったラインに合わせてきっちりばら撒いた。
撃った直後にカヤは飛び上がり、その足の下を銃弾が横に撫でる。
当てなくていい、撒け! というカヤの指示通りにミツキは動いてくれた。
流石に井塚の息子だけあっていざという時は肝が座っている、とカヤは装殻の下で笑った。
一人で偽の参式に立ち向かっただけの事はある。
「一意専心!」
彼女は意識を切り替えた。
カヤの装殻も準軍事仕様の捌式である為に、短距離ながら飛行可能だ。
襲来体の頭上で太刀を蜻蛉に構え。
「ーーーチェストォ!」
カヤは斜めに急降下して、再度足の止まった襲来体を真っ二つに両断した。
縦に斬り裂かれて、襲来体が左右に倒れる。
残心から立ち上がり、大きく右に振って血糊を飛ばす。
そのままカヤは、横に太刀を払ったまま啖呵を切った。
「我に、断てぬ物無し!」
凛、と張り詰めた弦を弾くような声を放ったカヤは、即座に踵を返した。
「ミツキはこちらへ来い! 特殻、その位置から十字放火!」
襲来体を始末し、部隊の配置はカヤの想定した通りになっていた。
特殻が、井塚が飛び下がると同時に左右からコア・コピーに十字砲火を浴びせ掛け。
コア・コピーの動きが止まると同時に、カヤは叫ぶ。
「解放承認! ミツキもやれ!」
「出力解放!」
『承認』
井塚が即応し。
「ス、出力増強!」
『集中』
一息遅れて、ミツキが続く。
さらに、カヤ自身も大太刀を八相の形に構えて。
「出力解放」
『承認』
独自のアレンジを加えた流動形状記憶媒体が、単分子形成の刀身持つ大太刀を覆うように追加装殻を形成し。
より長大な形状の……スタッグバイトの剣撃モードによく似た刀が出現する。
井塚が、ショルダーホーンにエネルギーを濃縮させて体当たりを。
「おおおおォ! 〈突撃衝角〉!」
ミツキが、右のビーピックにエネルギーを集中させて拳打を。
「ッ〈蜜蜂刺突〉!」
最後に持ち得る限りの技量を持って、カヤ自身も刺突を繰り出した。
「〈雲耀〉……!」
三機結一。
ほぼ同時に打ち込まれた三種の必殺を受けて、コア・コピーの動きが止まる。
「ギィ……ガァ、いノつかサ、スイマ、セ……ア、リ」
僅かに残った人の部分、右の瞳が井塚を見て、口元が微かに笑んだように、カヤには見えた。
「日和……」
井塚が呟いた直後に、コア・コピーが砂のように崩れ落ちた。
ザッ、と音を立てて舞い散る砂を見つめて、井塚はぽつりとつぶやく。
「助けれんと、すまんかったな。……」
その後の言葉は、カヤには聞き取れなかった。
『警告』
井塚に聞き返す前に、彼女の装殻がメッセージを寄越した。
周辺状況に目を走らせてから、カヤは顔を強張らせる。
「これは……」
「どないした?」
聞き返す井塚に、カヤは厳しい声で言う。
「時間を掛け過ぎたかも知れん。囲まれている」
「何やと!? 数は!?」
カヤは息を吸い込んで、告げた。
「……50以上」
カヤの宣言に、部隊の空気が強張り。
同時に、襲来体達がその不気味な姿を現し始めた。
※※※
『見つけたぁ! マサト!?」
「言われなくとも分かっている」
焦った声を上げるアイリに淡々と答えて、空から一直線に突っ込みながら、マサトは双刃を構えた。
カヤ達は大量の襲来体に囲まれて、それでも奮戦していた。
劣勢だが、動きは良い。
通信妨害装置を潰したのが功を奏したようだ。
マサトは襲来体のど真ん中に突っ込んで、双刃を振るった。
両手の一薙ずつで、四体を始末し。
「ーーー〈鋸顎翔〉」
タイムラグ無しで放たれた遠隔兵器が、さらに四体を始末する。
一気に10体近く数を減らした襲来体に、呆気に取られる部隊の面々を見回してから、マサトは言った。
「全員、こっちへ」
そのまま、ビルの壁際近くに全員を誘導する。
「マサト! お前、その姿は……」
「悪いけど、おっちゃん。その辺の説明は後ね」
「……おっちゃん?」
「良いよ!」
全員を集合させてマサトが言うと。
〈鋸顎翔〉の牽制によって、半円を描いて囲み始めていた襲来体とマサト達の間に。
艶のない黒の外殻を持つ装殻者が、舞い降りた。
全身に浮かぶ出力供給線。
暗褐色に染まった双眼。
頭部に視覚強化兵装が装着され。
右の半身と左腕の肘から先のみが、追加の外殻に鎧われている。
大きく開いた両手には、殻弾散弾銃と殻弾機関銃が握られていた。
その、装殻者の名は。
「く、黒の一号……!」
驚きの声を上げたのは、誰だったのか。
暗褐色の瞳を輝かせ、黒の一号は静かに宣言する。
「出力解放ーーー」
『実行』
黒の一号の声に応えて、補助頭脳が双銃にエネルギーを供給し始める。
「―――〈黒の銃撃〉」
『機動補正』
原初の装殻者が、死の舞踏を舞う。
二丁の銃が奏でる低音と高音の咆哮に乗って。
彼が舞う度に、魔獣の牙が次々に襲来体に突き立ち、その体を食い破っていく。
「終わりだ」
最後の一体まで、全てを撃ち貫いて。
黒の一号は、銃口から流れる白煙の尾を引きながら舞を終える。
ジャキン、と振り下ろされた双銃が音を立てるのに合わせて。
襲来体組織融解弾を無数に撃ち込まれた襲来体達は、一斉に砂となって崩れ落ちた。




