第24節:第二次殲滅戦
某日正午。
総指揮を行う大阪区司法局長の宣言通り、フェイズ3―――エリア0周辺の襲来体掃討作戦が開始された。
日中、激戦の舞台になると予想されるのは、かつて阿倍地下と呼ばれた地下連絡網。
その最前線を担うのは、特殊任務装殻者部隊、及びフラスコルシティ捜査七課所属装殻者、正戸アイリ。
さらに司法局長は、残党駆除の為に周辺地区に司法局の人員を配置。
前線指揮を取るのは、特殻隊長、海野ケイタ少尉。
周辺指揮に当たるのは、フラスコルシティ司法局捜査一課、花立トウガ第三室室長。
作戦従事者、2,000余名。
以前同様の作戦が行われた際の戦死者数にも満たない少なさで、作戦は決行された。
無謀にも見える人員配置だが、過去と現在で、決定的に違う点が一つ。
―――装殻、と呼ばれるものの存在である。
※※※
「総員、戦闘配置」
バレルティガーJ2に搭乗して上空から部隊を俯瞰しつつ、少尉は指示を出した。
数ヶ所ある出入り口の内、少尉直属の小隊は予備隊として待機。
残りの四小隊と司法局の部隊が一つ、計三組に分かれて構内へ突入する。
「スタッグ1。準備は良いか」
通信でマサトをコールすると、即座に返答があった。
『こちらスタッグ1。準備OK』
マサトは、大阪区の七課員達を引き連れている。
特殻にも順に点呼を取ると、少尉はバレルティガーJ2を動かして自身の座標を調整した。
「カウントダウン開始。総員、装殻情報共有。10秒後に攻撃を開始する。そのまま待機して30秒後に突入せよ」
伍式の補助頭脳がカウントダウンを開始するのに合わせて、武装を照準する。
『発射』
突入路以外の出入口に照準向けて、対地迫撃砲とロケットランチャー、合わせて20発を斉射した。
轟音と共に弾薬が炸裂し、次々に爆発を引き起こす。
空気と大地の振動、表示された様々なデータを読み取って確実な破壊を確認した後に、少尉は命令を下した。
「総員、突撃!」
号令と共に、特殻と司法局員が一斉に地下道への突入を開始するのが見える。
少尉は、今の爆発と共に不審な動きをするモノがないか、レーダーで確認しながらその場に待機した。
※※※
「暗いな……」
呟きながら、視界を暗視モードに変更した捌式は先頭を駆け始めた。
大阪区の七課は人数は揃っているが、練度の面ではフラスコルシティの七課よりも低い。
捌式は自身が単騎で囮になって、他の面々で撃ち漏らしを駆除するような隊列を組んでいた。
実際に手合わせをしている為、それに異を唱える局員はいない。
まぁ、進んで危険を買って出る者も他に居ないだろうと言う話でもある。
『通告。アイリ。T字路の先、右に二体。曲がった時点で刺突で仕留めろ。その後ろに三体、こちらは俺が受け持つ』
「了解!」
捌式が無茶を出来る理由は、勿論、生体移植型補助頭脳の存在よる所が大きい。
実質的に手数は二倍、心核出力が制限されていない場合に限るが、量子推論と熱源探知によってほぼ確実に敵の存在が把握できる。
角を曲がると、『マサト』の宣言通りの配置で襲来体が確認出来た。
擬態はしていない。
例の、脈動する鉱石を人型に削り出したような奇怪な姿だ。
「超振動!」
スタッグバイトの超振動刃を起動させ、双刃を一体ずつに突き込む。
『副権利者要請―――〈鋸顎翔〉』
一対のフェザースラスターが捌式から分離して宙を裂き、後ろに居た三体を引き裂く。
倒れ込んだ襲来体は、即座に砂と化して崩れ落ちた。
「次は!?」
『通告。逆方向から五体。司法局員に任せろ。少し行くと直線に出る。そこに十八体居る』
「げ」
捌式は呻きながらも通信を入れて、後ろから追従する七課に連絡を入れた。
「仕留め切れる?」
『限界起動』
少し不安そうな捌式の問いかけには答えず。
『マサト』は先に、捌式を強制的に超速反応領域に突入させた。
『強制起動。これで仕留めろ。アシストはこっちでやるから、真っ直ぐ突き抜けるんだ』
「分かった!」
視界に表示された突撃路を辿る事だけを考えて、捌式は直線の地下道に侵入した。
うじゃうじゃと蠢く人外の姿を見て、装殻の下で顔を引きつらせる。
しかし躊躇わず、捌式は出力解放を宣言した。
「〈大顎喰荒〉!」
『機動補助』
解放状態の追加羽型機動補助機構が全て本体から分離する。
出力解放により装殻に過剰供給されたエネルギーが、捌式の装殻限界性能を叩き出し。
足先まで真っ直ぐに横を向いた姿勢で、白い閃光と化した執行者が超振動双刃を振るった。
横薙ぎに二体、縦に回転してさらに二体。
両翼で羽ばたくように双刃を振るう本体の周囲で、五対の牙が次々に襲来体を破壊して行き。
『散れ』
最後の一体を、両顎で真っ二つに噛み砕いて。
捌式は、両腕を交差させたままかがむように着地し、限界機動を終えた。
『限界機動終了』
フェザースラスターが全て捌式に還ると、超速反応領域から、意識の流れが通常の時流に戻る。
「執行ッ!」
捌式が、宣告と共にシャラン、と鳴らしながら双刃を広げ。
貫き、引き裂かれた襲来体が一斉に爆散した。
※※※
「始まったな……」
「ああ」
振動を感じて、予備隊として室長の傍で待機している井塚が言い、室長はうなずいた。
南第四エリアに構えた前線本部。
局長のカヤと室長を中心に、通信士が数名居る。
さらに、予備隊とは別に、護衛として室長は数人の手ベテランを手元に残していた。
井塚と日和がその中に含まれている。
室長が、待機部隊に指示を出す。
「北第四エリア。準備は完了しているな?」
元天王寺境内で部隊を展開している北第四エリア部隊から返答があった。
『こちら北第四エリア装殻部隊。襲来体組織融解弾の装填及び、部隊編成完了しとります』
「総員南下しろ。誘導対象のマーカーは確認出来るな?」
『問題ありません。全員の認識機能は正常に作動しとります』
「行動開始。今後、一人の犠牲も出すな。擬態には、襲来体組織融解弾を一発でも当てれば良い。日没までにエリア0に到達しろ」
『了解。行動を開始します!』
花立は同様の指示を次々に部隊へ飛ばして行った。
その様子を眺めながら、カヤが少尉とやり取りする。
「東第二エリア。首尾は?」
『内部突入部隊は 現在のところ犠牲者0。進行速度は司法局部隊が突出しています。足並みを合わせますか?』
「ふん、やるじゃないか。流石に花立室長の元に居るだけの事はある。隊列は?」
『特に乱れはありません』
「なら、そのまま行かせろ。一番進行が遅いのはどこだ?」
『西第三エリアです。元総合商業施設内部に予測を上回る数の襲来体を確認しています』
「予備隊は?」
『現在、地上の擬態と交戦中。装殻化しており、建物の遮蔽を利用する事で日光による崩壊を防いでいる模様』
「援護しろ。建物ごと潰して構わん。戦闘終了次第、西第三エリアへ向かわせろ」
『了解。《シャイターン》の残弾を使用します』
そうしたやり取りの合間に、日和が井塚の袖を引いた。
「少し、良いですか?」
「おう。花立室長。ちょっと外に出るで」
指示を出しながら、室長はうなずきだけを返した。
二人が出て行くのを目で追ってから、室長はカヤを見る。
カヤは眉を上げて、室長を見返した。
室長が口を開く。
「作戦は順調に推移しています。まだ姿を見せないコア・コピーをどう見ます?」
他者への影響を気にして、室長は敬語で話していた。
流石にこの段では、カヤも混ぜ返さない。
「タイミングを計っているんでしょう。コア・コピーは前例に則れば三体。一体は既に少尉によって潰されたと見ますが」
「同時に潰さなければ、奴らは復活します。マザーが封印されている状況で何処まで信用出来るかは分かりませんが、三体居る、と見て行動する方が良いでしょう」
「では、その通りに」
「手が空き次第、地上部隊は南第二エリアに集結、再編させて下さい」
「何故です?」
室長は少し沈黙してから答えた。
「何処からコア・コピーが現れるか分からない状況で、戦力を分散したまま置いておくのは危険です。個別に潰しに来られたら、並みの装殻者では対応出来ないでしょう」
「分かりました」
疑いもなく了承し、指示を走らせるカヤ。
そんなカヤから目を逸らし、室長は目に暗い光を浮かべて微かに口元を歪めた。




