表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/40

第14節:運び屋の男


 数日後、正午を過ぎた頃。


 司法局本局の駐車場に、一台の黒い大型バイクが乗り付けた。

 そのバイクは、両サイドとリアシートに計三つのバイクケースを付けている。


 駐車場に降り立った男性は、フルフェイスメットを脇に抱えて、気負った様子もなく入口に立つ警備担当局員に話し掛けた。


「すまないが、窓口に取り次いで貰えないだろうか」

「許可証明があるならそのまま中に入って頂いて構いませんが……」


 訝しげな警備員に、携帯端末のホロスクリーンで正式な許可を示しながら、男性は親指でバイクを指差した。


「少し大事な荷物なので、目を離したくない」


 警備局員は少し不審そうな顔をしながらホロスクリーンに表示された詳しい情報を読んで、背筋を正した。

 そこに示されていたのは、司法局長のサインであり、最優先取次の表示だったからだ。


「すぐにお伝えします」


 男性はうなずくと、敷地内の自販機で飲み物を買って、バイクの側に戻った。

 この炎天下で汗一つ掻いた様子もなければ、日差しを気にする様子もない。


 しばらくして司法局内から現れたのは、司法局長自身と装殻整備課の職員二名。

 男性はもたれていたバイクから体を起こし、手を挙げた。


「すみません。ご足労をお掛けしまして……」


 常とは違う丁寧な態度で頭を下げる司法局長に、見掛けた者たちは一様に驚いていた。


「別に構わない。暇だからな」

「ご冗談を」


 男性が言うと、局長は少し微笑んだ。

 彼はバイクケースを軽く手で叩いて言う。


「要望の品は、全て揃えてきた」

「ありがとうございます。三日、と聞いてはいましたが、正直なところ、もう少し時間が掛かるかと思っていました」


 彼が、フラスコルシティ刑事部長を務める女性……空井シノが花立に伝えていた〝運び屋〟だった。


「しかしこれだけの数を、よく、この短期間で揃えられましたね」

「仲間に、準備の良い男がいる。半分程度はその男が製造させて保管していたものだ。状態も良い」


 局長が振り向いてうなずくと、運び屋はバイクケースのキーを開けて、中に収められていたアタッシュケースを五つ取り出し、一つをバイクのシートに乗せて開けた。

 中に収められているのは、銃弾。

 襲来体組織融解弾(ウィルスバレッド)と呼ばれる、対襲来体用の特殊弾頭を備えた弾丸だった。


「ケース一つで、千発。一発でも当てれば擬態は解除される。数発で体組織は破壊出来るだろう。大事に使ってくれ」


 運び屋の言葉に局員達はうなずいて、それぞれにアタッシュケースを持ち上げると司法局内に戻った。


 男性は、最後に取り出した少し小さめのキャッシュケースだけを自分の手で下げる。


「それは?」

「俺自身の分と、私物と、〝鍵〟だ」

「なるほど。全て滞りなく?」

「彼らだって馬鹿じゃない。国の危機に際しては動くさ。それに……動く以上は、手を出せない。そういう事だ」

「私には無能の集まりにしか見えませんが……まぁ、保身には敏感な連中ですしね」

「君は相変わらずだな」


 運び屋が苦笑し、局長は晴れやかに笑う。


「当然です。あの死線を抜けてもまだ変わらなかったのですから、もう死んだところで変わりませんよ」

「かも、知れないな」


 運び屋は、表情を引き締めて局長に聞いた。


「花立も居ると聞いているが」

「ええ。少し前に、組織再編を手伝って貰おうとこちらにお誘いしていたのですが……。今はこんな事になってしまったので、現場の方に詰めておられます」

「様子はどうだ?」

「かなり張り詰めておられます。状況は聞いていますか?」

「少し位は。後で取り次いで貰っても?」

「勿論です。では、部屋の方で詳しくお話し致しましょう」

「頼む」


 そのまま、二人も連れ立って司法局の中に入って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ