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第11節:参式捕獲作戦(中編)

「さぁ、今度は手を抜いていて勝てるか?」


 少尉の言葉と共に、特殻が行動を開始した。

 前回とは違い、今回はほぼフルメンバーが揃っている。

 特殻が、その本来の機能を発揮出来る状況だった。


 三人一組(スリーマンセル)

 後方支援一人、前衛二名のチームが六組。


 市街戦において、狙撃手の存在は非常に大きい。

 数名を適切なポイントに配置すれば、ただそれだけで退路は塞がれたも同然だ。


 対して、参式はたった一人。

 多勢に無勢は目に見えていた。


「どうしよう……」


 マサトは悩んでいた。

 特殻は、特殻のみで目標を制圧する訓練を積んでいる。

 介入する事で、その連携を乱す恐れがあり、そう考えれば手を出すべきではない事は、自明だ。


 しかし、マサトは特殻の相手をする参式が、どういう存在なのか計りかねていた。


 Lタウンに出没している参式は、襲来体の擬態である可能性がある、と室長は言っていた。

 しかし今、特殻が相手にしている参式はもしかしたら本物なのではないのか?


 現に彼は、襲来体を始末していた。

 で、あるとするならば。


 彼は、黒の一号と、伍号の盟友だ。


 マサトは、《黒の装殻》が世間で言われるような危険なテロリスト集団ではない事を知っている。

 彼が捕獲されたら、他の面々、特にマサトが知る二名がどういう行動に出るか、分かっていた。


 必ず、参式を取り戻そうと動くだろう。

 そうなれば《黒の装殻》は今度こそ本当に、テロリストになってしまう。


 なら、マサトは助けるべきだろうか。

 特殻を相手に、彼女が加わった所で助けられるかは分からない。

 仮に助ける事が出来たとしても、今度はマサト自身が、テロリストとして追われる事になる。


 彼女を知る人達は、彼女の行動を理解してくれるだろう。

 しかし、もう二度と共に過ごす事は出来ないに違いない。


 これは保身だろうか、と、マサトが自分を情けなく思っていると。


「何突っ立っとんじゃ! 俺らも行くで!」


 言ったのは、井塚だった。


「え?」


 思わず聞き返すマサトに、井塚はどこか呆れたように首筋を撫でながら言う。


「え? ちゃうやろ。参式捕縛の命令は俺らにも出とるやろが。ボサッとせんと、手伝うで」

「でも、僕達が入ったら邪魔じゃない?」

「アホか。邪魔やから待機しとけって言われたんか? 言われてないなら動かなあかんやろ、逆に」


 確かに、言われてはいないが。

 だからって平然と、特務部隊と《黒の装殻》の戦闘への介入を口にする目の前の男はどれだけ肝が座っているのか。


 おやっさんもそうだが……司法局員の一般課は、たまに意味が分からないくらい変な奴が混じっている。


「やりたいようにやったらえーねん。責任取るのは上の仕事や。厄介な事になったら丸投げや!」


 マサトはその物言いに、思わず笑った。

 そして、どこか吹っ切れたような気持ちになる。


 頭が悪いのに、難しく考えても仕方がない。

 そんな単純な事をすぐに忘れ、また言われて気付く。


 そう、室長が何も言わないのだから。

 マサトが好き勝手したって、別に問題はないのだ。

 文句を言われたら、謝ればいい。


「よし!」


 シャラン、と音を鳴らしてスタッグバイトを双刀状態で引き抜き、マサトは跳ねた。


「先に行くよ!」

「待てコラ!」


 井塚が追従するのを横目に、マサトは戦場へ突入した。


※※※


 流石に厳しいか、と参式は考えていた。


 特殻をナメていた訳ではないが、本質を見誤っていたかもしれない。

 彼らは装殻者としての一人一人の力は、参式から見ればさほどでもない。


 しかし特殻はあくまでも軍隊であり、部隊として力を発揮する存在なのだ。

 万全の連携を組まれた状態で相手にした特殻に、参式はじりじりと追い込まれ始めていた。


「人を辞めてだいぶ経つからな。すっかり忘れていたらしい」


 遮蔽物を利用して逃げていたつもりが、参式はビルの中に追い込まれていた。

 周囲四方向、全てに狙撃手が配置されている。


 廊下の曲がり角を利用しながら階を上がると、窓からの狙撃。

 入口と窓は直角に配置されている。


 ぴったりと角に身を寄せて、参式はここが最終到達点(ブレイクポイント)である事を悟った。


「人間の底力、か」


 彼らは、先走るような愚行は犯さない。

 あくまでも堅実に、基本に忠実に、彼と言う獲物を追い詰めた。


「ははっ!」


 確実な敗北が己に迫っている事を自覚しながら、それでも参式は笑った。

 頼もしい。

 特殻がこれ程に頼もしい存在だとは、本当に誤算だった。


 打てる手は、まだある。

 しかしそれは、参式が特殻を全員始末する気ならば、だ。


「ないな」


 自分の作戦を一笑に付して、参式は別の手を打つ事にした。

 彼らがあくまでも、基本に忠実に来るならば。

 次の手は、読めていた。


「せいぜい、抵抗させて貰おう」


 降伏すれば、あるいは命までは奪われないだろう。

 彼らの目的は、あくまでも《黒の装殻》の捕獲にある。


 しかし、たとえ命を落とそうとも、参式にその選択はあり得なかった。


出力解放(アビリティオーダー)、The First」

実行(レディ)


 参式は、右手に力とエネルギーを込める。


 参式は待った。

 やがて部屋に放り込まれたのは、閃光乱殻弾(ベイルドフラッシュ)

 まともに喰らえば、しばらくの間装殻の制御が撹乱され、戦闘の継続は困難になる。


「〈黒の打撃(ナックルブレイク)〉」


 先達より預かった力を使って、参式は自分がいるフロアの壁を撃ち抜いた。

 そのまま外に飛び出すと、閃光、爆風、狙撃弾、装殻弾、砕けた瓦礫、と、幾つもの暴力が彼の周囲で荒れ狂い、吹き抜ける。


 装殻弾が瓦礫に当たって、破片が飛び、跳弾する。

 それらを外殻で弾きながら、参式は状況を確認した。


 読まれていたのだろう。

 目下に、少尉の姿が見えた。


「黒き修羅の力を右腕に」


 誰に聞かせるでもない名乗りを。


「黒き天女の力を左腕に」


 ただ一人、静かに呟きながら。


「鬼神の決意を胸に、不退転の道を駆けるーーー」


 不屈。

 それが、彼が自身に架した唯一無二の生き様。


「我こそが《黒の装殻(シェルベイル)》。名を、参式(ザ・サード)


 己という存在を誇るように、名乗りを終えて。


 参式は、音高らかに地面を踏みしめた。



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