序章
「う……あぁ……」
『おい、どうした! 応答しろ!』
装殻の通信機能から聞こえてくるのは、指令部の通信士の声。
―――司法局捜査員である彼が居る場所は、かつてはショッピングモールだった。
この大阪区が大都市であった頃の、地下導線の一つ。
今はスラムと化した、浮浪者たちの溜まり場だ。
幾つか生きている反応照明が、薄暗く長い廃路を照らす中。
コツン、コツン、と。
装殻者としても巨大なシルエットが、こちらに向けて歩んでくる。
黒い炎、あるいは固まった血を想起させる紅黒色の外殻。
両腕と脹脛が異様に盛り上がった体躯。
全身を走る出力供給線の中でも特に太い、体幹を走る二条が淡く光り。
腰部には、一対の出力増幅核。
緑に光る鋭い両眼が、不気味にこちらを捉えている。
彼は資料で、その姿を知っていた。
修羅と天女の力をその身に宿し。
誰よりも苛烈と呼ばれた、復讐の鬼神。
数々の戦闘を乗り越え、やがて正義の代行者となり。
今は、人類の敵と目される者達……その、三番目。
「く、黒の―――」
捜査員は、それ以上の言葉を口にする事が出来なかった。
紅黒の装殻者が、爆風の速度で地面を蹴り。
鈍い殴打音と共に、静寂が訪れる。
しばらくして、再び。
コツン、コツン、と歩みを止めぬ音が響き。
動く者がいなくなった事で、その場は暗闇に包まれた。
後に報告が上がった時に、ようやく彼の正体は発覚する。
彼は、《黒の装殻》の三番目。
―――名は、参式。