【ネタ帳】魔法の世界で銃器作ってしまった少年の小話
暗い開発室の中に、小さくゴトリ響いた音。
それは、何か重たい物を机に置いた音。
「…で…できた…」
そして、僕、シルフ・ヴィントは何にとも言葉を発していなかった様にそんな言葉を発する。
出来た、そうその言葉は意味の通り何かの完成を意味していた。
「…SS武器…名前は…」
僕は、空中に表示されたステータスを解読していく。
見た事がない形状だから、もしかすれば名前が無いかもしれない。
黄金色にSS武器と表示されたその表示の下を見るとそこには空欄が一つ。
それは、その物に名前が無いことを意味している。
つまり、これは僕が最初に作ったものなのだ。
「やった…僕だけの…SS武器…」
そして、その武器の手持ち部分を持ち、構える。
一見、ただ鉄の塊の前方に穴が開いていて、その穴の開いた部分を支える様に持ち手が取り付けられただけの物に見えるそれ。
ただ、開発者の僕はその物体が何をする物かを知っている。
「えっと…火薬と金属…スライムの粘着液…それから…不燃石を組み合わせて…」
再び、開発魔法陣を開き、材料を魔方陣の中に放り込む、すると魔方陣の中に消えて行った材料が魔方陣の上に表示され、全てが表示された所で僕は開発魔法を唱える。
「クラフト!」
瞬間、ピカッと魔方陣が光って、そのまま小さくなり差し出した僕の手の上で少し重たい金属の小さく細長い円錐状の物に変わる。
これが、この武器の弾になる。
そして、僕は手に持ったその武器の前方に向けて穴の開いた部分を手で引く。
すると、丁度その円錐状の物がハマりそうなくぼみが現れた。
そのくぼみに、僕はその円錐状の金属をはめ込む。
そして、その物体がくぼみに嵌った直後、カシャンと言う音を立てて僕が引いた部分が戻り武器の中に金属が消えていく。
いや、実際に消えた訳じゃない。
そして、僕は腕を伸ばして、両手でその武器を掴み、手持ちの前方に着いた細いトリガーを人差し指で引く。
瞬間、破裂する様な音と共に凄まじい反動が体に加わる。
「うわっ…」
まるで、目の前から押された様に僕の体に加わった力に、僕は少し仰け反る様に後ろに数歩下がってしまう。
だが、それがこの武器の発した物だと分かった途端、僕の視線は前方に向いた。
そこに有るのは、普段魔法や剣術の威力を測る為に使用される的。
当たった衝撃を数値化してくれる優れものだ。
「どれどれ…」
僕は、恐る恐るその的に近付く。
そして、その的に表示された数値を見る。
「え…」
そこに、表示されていたのはゼロという数値。
その数値に、僕は首をかしげる。
「…おかしいな…」
再び、手元の武器の上部を手で引く。
そして、先程金属を嵌めたくぼみを見る。
「…撃ちだされてはいるんだけどな。的まで届いてないのか?」
そう言って、足元をキョロキョロと見る。
だが、そこに金属は落ちていない。
「…仕方ない…改良するか…」
そう言って、僕は再び工場に戻る。
はっきり言って、かなりの威力が出るはずなのは僕の計算上事実なのだが、がっかりだ。
剣や魔法と違った威力と言う訳でもないだろうし、何が問題なのか僕にはまだわからない。
「…ただ、名前は付けてやろうかな…お前の名前は、最初から決まってるんだ」
手に持った黒いそれを見ながら、僕は小さく呟く。
そして、頭の中に最初からあった単語をその金属の武器に唱えた。
「お前の名前は、ピース。お前が、この魔法と剣の世界に平和をもたらしてくれることを信じてるよ」
すると、武器のステータスが光り出し、先程まで空欄だった場所に文字が刻まれていく。
同時に、この場所で初めてこの武器の名前が決まった。
この武器は、ピース。
僕、シルフ・ヴィントの作った武器の最高傑作さ。