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夢の籠  作者: sapom
鈴木の日常
6/15

鈴木:目を疑う。

横断歩道の、真ん中に、黒い染み。

いや水溜まりがあった。

なんか渦巻いてるけど…。アレはなんだ?

気分は大分良くなってきたけど、今度は頭がおかしくなったのか?

周りを見渡してみる。

水溜まりに注目しているのはどうやら私だけのようだ。

走行中の車も、信号が変わって横断歩道を渡る人達も、その水溜まりの上を平気で歩いている。

最近雨降ってないよね?

ってかあの水溜まり、渦巻いてるよ?

私だけに見えているのか、それとも皆見えているのに気にしていないのか…どっちだ?!


…妹に電話してみた。


「もしもし。…私だ。」

「…馬鹿か!仕事間に合ったの?!」

「いや~バスに酔っちゃって途中で降りた。

会社には連絡入れたからどうでもいいんだけどさ~そんなことより、なんか道路の真ん中に水溜まりがあるんだけど何だろ?」

「水溜まり?…そりゃ水溜まりでしょ」


いや、確かにそうなのだが妹よ。


「渦巻いてるんだよ」

「あれだ!蜃気楼的な!よく夏に見えるやつ」


お前も馬鹿か。


「いや、もう夏終わってるし。寒いからそれはないと思います」

「じゃ、わかりません」


デスヨネ~。


「とりあえず、会社行きなさいよ、もう十時半過ぎてるよ!」

「ハイ、ワカリマシタ」


妹にはわかってもらえなかった。

いや、あの水溜まり、あれ変だよ。

普通じゃないよ。

見てるだけで背筋がゾゾッてするもん。

皆様よく平気で上を歩けるな~。


この時の私にはもう会社のことなんてどうでも良くて、今自分の身に起こっていることを理解しようと必死だった。

私がみている間にも水溜まりは黒く、黒く、渦を巻いていく。風も無いのに、波ができていく。


誰か~一緒にこの不思議を分かち合って欲しい~。



「ねぇ、君、あれ見えるの~?」


突然真横から声をかけられた。

水溜まりに集中していた私の体がビクッと揺れる。

悲鳴をあげるのはなんとか我慢した。

水溜まりから視線を外し横を見ると、いつからそこに座っていたのか、同じ歳ぐらいのスーツ姿の男性がいて、私を見ていた。


「あ、ごめんごめん、びっくりさせちゃったね~」

「いえ、はい、気づかなくて…逆にすみません」


本当にビックリした。普通なら睨んじゃうところだけれど…。


「あれって、あれのことですか?」


再度水溜まりに視線を戻して男に問う。


「…やっぱり、見えているんだね~。君、霊感とか、ある~?」


この時の私は普通の思考回路じゃなかった。

だってこんな質問、いつもの私ならいきなりされた時点で変な宗教の勧誘だと考える。

これでも一応女の一人暮らしは長いのです。

危機管理はしっかりしてるのです。エヘン。


「いえ、霊感なんかまったくありません。ってかアレは霊とかそういった何かですか?!」


とにかく水溜まりの正体?いや原因が知りたくて、常日頃の危機管理もなんのその、話しかけてきた男の人に詰め寄る。


「霊じゃないよ~。でも、普通の人には見えない。…はずだったんだけどね~。…どうしようかなぁ~」


いや、お前いい歳して語尾伸ばすな、男のくせに、霊じゃないって知ってるなら霊感ある~とかきくんじゃねぇって今考えるのはそこじゃないか。

今この人、なんて言った?


霊じゃない。


普通の人には見えない。


んじゃ、アレは霊以外のナニかで、私は普通じゃなくて、そして、一緒に座っているこいつはもっと普通じゃない…。


そこまで考えて、思考が止まる。


隣の男が、ニヤッと笑って言った。


「見えるなら、行けるってことだ。幸か不幸か、今僕が居合わせたのは君にとってどちらになるかはわからない。でも、選ぶのは自分だ。この場合は二択。一つ、このまま気にせず会社に行き仕事をする。二つめ、僕と一緒に行く。どちらにする?悪いけど考える時間は余りない。渦の速さが増してきている」


男の口調が突然変わったことにビックリしながら聞いた話の内容が頭になかなか入ってこない。

座りながら頭を抱える。

何故に私が今から仕事だとしっている。

(私の今の格好はノーメイク&マスク。

ちなみに会社で制服に着替えるのでバリバリ私服である。)

見えるなら行けるって何処へ。


普通なら、一つめの選択を選ぶ。いつもの私なら、迷わず会社に行っていた。当たり前だ。

…いや待てよ私。この人一番初めにあの水溜まりが普通の人には見えないって言ってたよね。なら、普通に考えたら駄目なんじゃないか。

何だか胸がモヤモヤする。

これはアレだ。いつものヤツだ。


ふと、顔を上げて男の顔を見た。

さっきより面白そうな目をして、私を見ていた。

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