転校生は美少女だったのです
変わった夢を見た気がする。
内容は覚えてないが、ゲームとかアニメでありそうな感じの。
ちょっと影響受けすぎてるのだろうか。
●
何気ない毎日。
学校に行って、帰ったら漫画を読んで、ゲームをして。
たまーにいかがわしいタイトルなんか触ってる時に限って家族が部屋に入ってきて、あわてて緊急回避ボタンを押して、ミニゲームに邁進したり。
変わらない日々を平穏に暮らしていると、ある日突然、転機が訪れた。
それは、ある朝のHR――。
「今日は転校生を紹介する」
担任の発言に、クラスがざわつき始める。
「まじかよ……」
「こんな時期にねぇ」
「女? 女だよな?」
「イケメンこいこい!」
「あー、静かにしなさい」
発したのは、梅原隆先生――担任の名前だ。担当科目は体育で、鉢巻がよく似合う。
んんっ、と咳払いひとつでクラスが静まり返った。
つまりは、それなりに生徒に慕われている先生なのである。
「――おめでとう、男子諸君」
梅原先生が、きっぱりと言い放った。
「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」
「女子キターーーーーー!」
「待て! まだ可愛いとは決まってないぞ! 落ち着くんだ!」
「紹介はよ!」
「フタヤ~三次元女だぞ」
ちなみに、『フタヤ』というのはクラスメイトの名前で、ややヲタ率の高いこのクラスの中でもちょっとしたヲタクとしても有名だ。
見た目がイケメンというギャップもあり、その知名度は他のクラスにまで轟いている。
「女子諸君も、是非、友達になってあげるように。では、入ってきたまえ」
っていうか、廊下にいたのかよ。こんなにクラスメイトの期待を煽ってたら余計に入りにくいのでは?
などという心配を他所に、教室の扉がゆっくりと開いていった。
そのまま教壇の前、先生の隣まで進むと、クラス全員と対面するようにこちらを向いた。
(げ…………激カワ)
クラスの男子も同意見なのだろう。そのボルテージは最高潮に達したようだ。
様々な怒号が飛び交う中、あのフタヤ君が珍しくもリアルの女の子に注視している。
それだけ人目を惹くということなのだろうか。
「みなさん、初めまして。今日からお世話になります、神前巴です。よろしくお願いします」
そして、ぺこりと一礼。
再び顔を上げると、純な微笑みを浮かべていた。
「「「あぁぁあぁぁぁぁぁっーー!」」」
「め、め、め、女神だ――!」
「そんな年増と一緒にするんじゃねぇ! 天使だ! 俺の天使だよ!!」
「か、可愛すぎて生きているのが辛い!」
「やば……あたし女なのにキュンってしちゃった!」
「結婚してくれぇぇぇぇ!」
遠巻きに見てると愉快なクラスだ。
ただ、男子が発狂(一部の女子も含む)するのも頷けるくらいにとびきりの美人だ。
「神前君、席は……そうだな。葉飼君の隣が空いているな。葉飼君、悪いが視聴覚室から机と椅子を運んできてくれるかな?」
「は、はい」
担任からの思わぬ白羽の矢が刺さり、動揺してしまった。
葉飼というのは自分の名である。フルネームは、葉飼 進。
「あの、先生。私の机……ですよね? 彼だけにお願いするわけにはいかないので、私にもお手伝いをさせてください」
「うむ。素晴らしい心がけだね。いってきなさい。では、残りの生徒はHRを続ける」
「「えー」」とクラス中からブーイングが上がる。
成り行きとはいえ、結果的にはいきなり初日から美少女転校生と二人きりになってしまった。
や、やば! なんか無駄に興奮する!
「……葉飼君?」
「は、はい!」
って元気よく返事をしてどうする。担任と優等生か、俺は。
あぁ、神前さん苦笑してるじゃないか……。
「私のせいで、いきなりごめんなさいね」
「え? いやいや、全然気にしてないよ? むしろ、光栄なくらいで!」
我ながら、ちょっと小さいと思ってしまった。
でも、こんな美少女の隣歩けるチャンスなんてあんまりないだろう?
ていうか、何で女の子ってこんな良い匂いがするんだろうな。
体臭? じゃないよな。石鹸? シャンプー?
……うーん、よく分からね。
「ふふふ、葉飼君って面白いですね」
「oh……」
そりゃ、同級生相手に光栄なんて普通言わないよな!
言って、ちょっと顔熱くなったわ!
しかし、こんなアイドル顔負け、なんて漫画のような台詞を体現してる女の子に出会うなんてな。
しばらく雑談というなの変なやりとりをしながら個人的には充実したひと時を過ごした。
楽しすぎて、いつの間にか視聴覚室通り過ぎてたけど!
それで、ちょっと男らしいとこ見せようとか息巻いたりもしたのだが、神前さん意外にパワフルというか……。
結果的に、彼女が机で、俺が椅子運んじまって……まぁクラスの視線の痛いこと痛いこと。
まぁ、その後は放課後まで、神前さんはクラス連中(主に女子)からの質問攻め。
どこからきたのー? とか、シャンプーとリンスーはー? とか、美容方法とか化粧とか、ちょっとずつ掘り下げてくようなそんな感じの。
男子も密度上げてたけど、その遠目から人垣作るだけの状態だったな。さすが、転校初日。
それで、休憩時間の矛先はこっちに向いたわけだが……別に先生に直指名を受けたのは俺のせいじゃないだろ、と思う。
とまぁ、初日における俺と神前さんの接点も最初の机運びだけで、それ以上の進展はなかったと。
残念ではあるけど、時折、視線が合ったりしてちょっと嬉しかったり。