三つ巴の戦い
俺たちは三人で集まって、俺の部屋で酒を飲んでいた。
しかし、俺たちのうちタケシしか酒が飲めなかったので、テーブルの上にはタケシのビール、俺のコーヒー牛乳、ヒロシのトマトジュースが並んでいた。
「お前ら、こんなところで斬新な飲み物飲むなよなー」
「コーヒー牛乳は別に普通だろ。高校の時の夜のお泊まり会の定番の飲み物だろうが。マイフェイバリットドリンクを貶すな!」
「そうだそうだ!」
「ヒロシ。お前は文句言わせないからな。せめて野菜ジュースにしてくれ」
そう言ってタケシは缶ビールを一口飲む。なぜか負けじと、ヒロシも缶のトマトジュースを一口飲んだ。
「サトシ。お前もお前だ。この年になってコーヒー牛乳ってなんだよ。せめてコーヒーにしろよ。他人のふり見て自分を直せよ」
「なんでだよ。逆にここまで来たらタケシがビールやめたら良かっただろ。ビールじゃなくて間を取って、スポーツドリンクとかにしろよ」
「逆がなんでスポーツドリンクになるんだよ! そこはレッドブル的なやつにしろよ!」
「知らねぇよ! このトマトジュース野郎!」
そう言い合いながら、各自目の前の飲み物をガブガブと飲んだ。飲み終わったのは、ヒロシ、タケシ、俺の順番。というか、俺のは一リットルの紙パックのやつだから、飲み終わってすらいない。半分は残っている。
いくらコーヒー牛乳と言えども、一気飲みをしたらお腹をくだしてしまう。俺はお腹が弱いのだ。
「じゃあこうなったら、誰の飲み物が一番か決めようぜ」
「おー望むところだ!」
「負けねぇぞ!」
そう言ってヒロシが早くも二本目のトマトジュース(缶)を開けていた。
やつの胃袋は無尽蔵か?
「ってどうやって決めるんだよ」
「んーわかんね」
「無責任なやつだな! ゴクゴク」
「お前のそのゴクゴク癖をヤメろ! 会話に参加するのか飲むのかどっちかにしろ! トマト男でトマメンって呼ぶぞ!」
「ハッ……」
「な、なんだよ」
「流行るかな?」
「流行らねぇよ! 流行ってどうするんだよ!」
律儀にツッコミを入れるタケシ。
「じゃあさ」
ヒロシが切り出した。
「混ぜてみよう」
「いや、一番決めるのと関係ないじゃん」
「味が一番残ったのが一番、っていうのはどう?」
「……お前、相当なバ」
「乗った!!」
「……」
バカはタケシとヒロシだったみたいだ。いや、もしかしたら俺がバカなのかもしれないけど。
どうにもこうにも、ワクワクと飲み物を混ぜるためのからのグラスを準備した。
「第一、混ぜて飲めるのかよ」
「一応、トマトジュースとビールで『レッドアイ』ってカクテルがある」
「コーヒー牛乳は?」
「……カルアミルクとか」
「ん。リキュールは反則だね」
「俺のコーヒー牛乳、勝ち目ねぇじゃん」
というわけで始まった即興カクテル大会。
案の定、コーヒー牛乳は初戦敗退で、グループリーグの決勝にすら上がれなかった。
そんなこんなで訪れた決勝戦。
トマトジュース+ビールの七対三の割合の配合のレッドブル。
対する相手は、ビール+トマトジュースの三対七の割合の配合のレッドブル。
ともに優勝候補の二組だったが、割合によって味に差が出ていた。
簡単に言うと、『ビール味のレッドブル』か、『トマト味のレッドブル』だ。
そして三人で一気に実飲!
ゴクゴクと相手の喉を通るレッドブル。
俺もただの無関係なそんざいだえが、一応見守るために、コーヒー牛乳を飲みながら参戦。
まぁ普通に美味しかった。
そしてもちろん、二人の意見は割れた。
『酒で割っているんだから酒が強くないと飲んでる気がしない』というタケシの主張、それに対抗するかのような『トマトで割っているんだからトマトの味が最優先』という主張のヒロシ。
そして二人は俺を見た。
やはり俺に最後の判定を下すように求めてきた。
そして用意しておいた言葉を言い放った。
「みんな違ってみんないいじゃないか。混ぜなくてもそれぞれがオンリーワンだろ?」
俺は明るく言ったのだ。
その言葉に納得してくたのか、二人も戦闘意欲を消し、いつのも二人に戻った。
そしてそれぞれビールとトマトジュースを手に持ち、胸のあたりまで上げた。
「それもそうだな。俺はビールが好きだ」
「僕はトマトジュース」
「俺はコーヒー牛乳」
「よし。それじゃ、カンパーイ!」
「「カンパーイ!」」
掲げられた二つの缶と一つの紙パックが、空中でぶつかりあったのだった。
おしまい。