006 狩場どこー?
またせてごめんなさい
「で、改めて聞くけど学校来てくれるんだよね?」
「行けばいいんだろ行けば」
「分かってくれてうれしいよ。これを使う羽目にならなくてよかった」
そう言って熊切さんが取り出したのは、白い紙。
「……それは?」
「林檎を買った時のレシート」
「お見舞いの対価!?」
なんてものを!
とか思っていたら、他のレシートと一緒に隠した。もとい、仕舞った。
「ええっとぉ、もういい?」
よく知らない人、……えっと、テニス部の人? が口を挟んできた。
……一瞬誰だっけとか思っちゃった。
「え? あ、うん。いいんじゃない?」
疑問形!
「うん、じゃあ改めまして、玄冬高校テニス部部長、3-1の鈴村遥です。よろしくね?」
「あ、はい。2-4の青木翔です。よろしく……お願いします」
ごめんなさい、リンゴ食べ終わるまで待ってもらっちゃって。
「あ、待ってるなちゃん」
「なに?」
何故ここで三島が口をはさむのか。
「今朝のめざましんぐTV(テレビ番組)でやってたんだけど、今日から『変化』事件の被害者の名前はゲーム中で使ってた名前になるって」
「まてまてまて、いきなり変なの聞いた気がするんだけど!? 変化事件ってなに!」
「うん? ネトゲしてたら体がゲーム中のアバターになっt」
「違うし! そっちじゃないし! どうして事件なんだ!?」
「そっちこそどうして事件じゃないなんて思うんだ? 日本中で起きてるのに」
え?
「中国とか韓国でも起きてるって。イギリスにもいるとか?」
そしてこの補足である。熊切さん、それはどこ情報ですか?
「あ、うん。聞いた聞いた。なんか自衛隊の人も何人か『変化』わったって」
鈴村さんも! じゃなくて、自衛隊かよ!
「それ私も視た。かわいかったよね! えっと、沙条……ジョセフィーヌ・ジョーカー、だっけ?」
「ジョセフィーヌさん!?」
あの人……の中の人自衛隊だったんだー。
「知ってるの?」
「時折一緒に狩りに行く程度の仲です」
銀髪赤目の緑精森人。白髪は禁句。漆黒のティアラ(黒ずんだティアラではない)に闇色のドレス(汚れたドレスではない)が基本装備。
杖二刀流使いにしてギルド≪ブラックウイング≫唯一の純魔法使い。
「へー、んで、ジョセフィーヌさんって強いの?」
「んー、一言でいうと器用貧乏。魔法オンリーだけど攻撃補助回復全部育ててるから逆に一撃が弱い」
魔法関連の≪スキル≫を全部育ててる典型的な器用貧乏。もう少しPSがあれば器用万能と言えたのだけれど。
ちなみにこのギルド、加入条件は「黒尽くめ二刀流」である。慣れないとパッと見誰が誰だか判らないけどほとんど全員脳筋だからあんまり問題無い。
ギルドマスター(ギルマス)にパイルバンカー二刀流の“地穿”スティンガーさん、サブギルドマスター(サブマス)に十字剣二刀流の“黒鍵”カイトを据えたネタ系ギルド。物理攻撃力だけならサーバー内でもトップクラス。
と、回想してたらテニス部の人に遮られた。
「えっと、待って、何の話?」
「え? 何って、妖精郷」
「……げえむ?」
「うん? そうだけど?」
「その情報、……現実で役に立つの?」
「えっ」
「えっ」
首をかわいく傾げる鈴村さんの質問を考えてみる。
ジョセフィーヌさんやリィトやらと、ザコモンスターがレベルの割に魔法防御力の低目な“コルフェイル森林”や補助をかけ続けないと満足に動けないせいであまり人気の無い“メモリアル深海”に狩り……に……
「あ、あれ? 狩るザコがいない?」
「そこじゃないよ!?」
「わかってますよ。狩場がないって言いたいんでしょ?」
「多分違う!」
「どこで何を狩れば経験値入るのやら」
「狩りから離れようぜ?」
熊切さんはともかく三島にまでツッコまれるなんて。
まあそれはそれとして、
「でもリアルのジョセフィーヌさん知らないし」
「えっそれがオチ? つまんね」
「ネタじゃねえし」
がらり。
三島に言葉を返した時、そう音をたてて扉が開く。
「あら、お見舞い? お友達来てくれたの? 仲良しさんですねぇ。
ああ、ところで、ここにいる人の中で猫アレルギーの人っていますぅ?」
扉を開けた看護師さんはそう聞いてきた。
「えっと、猫人? の娘が来たんだけど、他に猫人の居る病室無いし、あなた達が大丈夫なら猫人の娘も寂しくないでしょう?」
“地穿”ステインガー
“黒鍵”カイト
“死神”るな
青木翔―るな
沙条勇助―ジョセフィーヌ・ジョーカー
沙『条』勇『助』―『ジョ』セフィーヌ・『ジョ』ーカー
ジョセフィーヌさんの二つ名は作中では出しません。悪しからず。