001 画面の中にて
最低でも月一更新にはしたいです。
「ごちそうさま」
「はい、ごちそうさま」
土曜日の夜、晩御飯を終えて、お母さんと儀式の様に決まりきった挨拶をする。
「ゲームするー」
「お風呂までには止めるのよー」
これまた、儀式の様に繰り返す。
パソコン起動。インターネット接続。ネットゲーム『フェアリーランド・オンライン』起動、ログイン。
いつもの様に繰り返す。
画面の中で、ぼく、でなくおれが歩き出す。
黒い長髪(姫カット、というらしい)と青いグラデーションの瞳の原初妖精。ただし、装備はいつもの物ではなく、割と初心者向けの物。今日の仕事は釣りなのだ。
ちなみに、この瞳のグラデーションは、青を中心に群青やら水色やら……そういう色がきれいに混ざりきらずに混じり合っている感じ、といえば想像していただけるだろうか。
ゲーム内での友人であるリィトに誘われて、行う仕事。……但し、そのリィト本人にとっては趣味なのだが。
そしてやってきました待ち合わせ場所。画面の中で、るなと、最近この仕事の一環で知り合った初心者さん。
>るな:こんばんわ
>クランベリー:あ、はい。こんばんはです
>るな:リィトはまだですか?
>クランベリー:先ほど、もうすぐ来るって連絡が来ました
画面越しに話をする中のひ……もとい、画面の中で話すおれと初心者さん。黒髪黒目に黒いネコミミとしっぽの少女。由緒正しい……かどうかは知らないが、少なくともこのゲームでは割とよく見る猫人のキャラ造形の一部である。装備もそこそこで、正直ほほえましい。なお、瞳にグラデーションは入っていない。
今回は、未だ来ていないリィトが以前ぼくに、もといおれに誘いかけてきたもので、念のため程度に初心者を誘ってみたらホイホイついてきちゃったのがこのクランベリーさん。もちろん、事後に説明と謝罪は入れます。でも賠償は入れない(きりっ)。
>リィト:わりぃ、遅れた
>るな:やっと来たー
>クランベリー:えっと、時間通りですよね?
>るな:とりあえずさくさく行こうぜ
そんなこんなで時間ちょうどにやってきたリィトさん。黄土色のすっきりした短髪と、緑のグラデーションの瞳をした青年。ところどころに鱗が見える体を初心者向け装備に身を包んだ古代竜人。ふわふわ浮いてる妖精と黒いネコミミ少女と並べると割とでっかく見える。今回のクエストの依頼人であり、これから起こすゲーム内殺人事件の真犯人。まあ殺しても生き返るんですけどね。
>クランベリー:ありがとうございました
>リィト:まだですよ
>るな:そうそう、よく言うでしょう?遠足は帰るまでが遠足って
>クランベリー:そうですね、じゃあ帰りますか
低レベルな狩場で、低レベル素材を入手したおれ達。低レベル装備を付けて、さらに低レベルプレイヤーとレベル差を埋めるためのステータス制限をかけても超がつくほど余裕でした。
ただし、おれとリィトにとってはむしろここからが本番。っていうかこのためだけにこの仕事を依頼してきたのだ、こいつは。
>アシッド:はじめましてー
>闇鍋:ちょっといいかなー
そして、帰り道を歩き出してすぐ、見たことはないけど事前情報で知っている五人組が声をかけてきた。いや、三人は黙ってるけど。
>クランベリー:はい、なんでしょう?
それに合わせて無警戒に話をするクランベリーさん。
>闇鍋:いや、なんでもないけど、君たち、ちょっと殺させてくんない?
>クランベリー:え?
そう言って、いきなり斬りかかって、あるいは魔法を撃ってくる来る五人組。
これはPKと呼ばれるもので、正確にはプレイヤーキル、あるいはプレイヤーキラーと言い、文字通りプレイヤーが同じプレイヤーを殺すことである。極一部のPK推奨のゲームを除けば基本的にマナー違反とされる行為であり、『フェアリーランド・オンライン』では当然、そんなものを推奨していない。
にも関わらず、PKは消えない。どんなゲームだって、可能ならば行う、と言う者はいるのだ。
だから、おれとリィトは、装備をいつもの物に戻し、リミッターを解除した。
おれは、ゴシックロリータ(黒)と大鎌に。
リィトは灰色のコートと二挺拳銃。ちなみにこのゲーム、銃弾は無限であり、リィト曰く「マガジン交換の手間が無くて楽」な仕様である。
>るな:はじめましてー
>リィト:ちょっといいかなー
そして、おれ達は言葉を返す。
>闇鍋:えっちょっま
>アシッド:うそ
>ペリドット:死神と狩人?ほんもの?
>トーテムポール:どうせにせもんだろゆうめいだから
>リィト:ここの名前欄偽れるとでも?
>るな:ちゃんとログとったし、もう死んでいいよ
>クランベリー:え?え?
今回の依頼であり、リィトの趣味、それはPKKである。
PKがプレイヤーを殺すことなら、PKKはPKerを殺すこと。リィト曰く『正義の味方』ならぬ『悪の敵』であり、なにかのアニメに影響されたとかなんとか。
だから今回の仕事は、最近有名になってきたPK集団を見つけ、運営に報告すること。そのついでに、こいつらを斬り捨ててストレス解消すること。一応、この活動自体は有志です。
一応リィトの弁護をするなら、リィトが積極的に狙うのは明らかに格下ばかりを狙うPKのみである。
そして、隠れていた一人を含めた六人組を1分とかからずに殺して(繰り返すけど街で生き返ります)、次の仕事は置いてきぼりのクランベリーさんに説明する事。
>リィト:ごめんなさい
>クランベリー:え?
>るな:いや、それじゃわかんねーだろ
>るな:つまりおれ達は、あんたを餌にしてあいつらを釣ったんだよ
>るな:だから、すみませんでした
>クランベリー:そうなんですか
>クランベリー:でも、しなきゃいけなかったんですよね?
>リィト:やらなかったら、ほかの初心者から抜け出たような人たちが被害にあうからな。
>リィト:早めに対処できてよかったよ
>クランベリー:だったら、守ってくれてありがとうございます
そう言ってくれて助かるよ、と入れようとして、パソコンがおかしくなった。 画面が真っ暗になって音だけが鳴り響く。
とっさに距離をとろうとして、しかし、体は動かず、……いつの間にかすぐそばに床がある感触がする。
いや、おれがおかしくなったのか。
「翔、お風呂空いたわよー」
階下から、お母さんの声がうっすらと聞こえてきた。
ごめんなさい。
ネトゲはやったことはないんで割と適当です