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貞夫

一応、テレビに出られるようになったが、この世界は潰しが利かない上に、いつこの幸運が去るかわからない。

それに毎日、テレビの仕事がある訳ではない。

それが貞雄の持論だ。


貞雄の実家は農家だ。

父親がこだわり抜いて作った無農薬野菜が、昨今のマクロビオティックブームに乗ったらしく、かなり売れ行きがいい。

貞雄自身、農業は嫌いではなかった。


土に種を蒔き、大事に育てる。

大地との共同作業だ。

朝は早く、かなり体を酷使する。

悪態をつきながらも貞雄は作業に没頭する。

目的はただひとつ。

卑猥な形に育った根菜を愛でるため。


今は人参の収穫期だ。

テレビ終わりだろうが例外なく狩り出される。

父親曰く、


「まいんち、テレビん仕事ちゃらありゃんしちゃりゃんせんじゃろ?(毎日、テレビの仕事は無いんだろ?)」


だそうだ。

貞雄自身、エロ野菜と戯れるという趣味と、将来、農家を継ぐかも知れない時を考えて、暇さえあれば実家の手伝いをしている。



「おはよ、みゆき、はるか、さとみ。今日も可愛いよ」


普段は冷ややかな表情が春の日の花の蕾のように緩む。


自室に匿ったエロ人参とエロ大根をゆっくりと撫で、キスをする。


「ふふ、みゆきとさとみは甘えん坊さんだなあ、ほらほら、はるかも拗ねてないでこっちにおいで。ああ…そんな…だめだよ、そんなふうにされたら…俺…俺ぇ!」

エロ根菜を顔の上に載せ、身悶える。

ひんやりとなめらかな根菜にうっとりしていると、いきなりドカンとドアが開く。

「にーちゃん、またそっちゃら気持ちの悪か事ちゃして!母ちゃん!母ちゃーん!兄ちゃん、また野菜に踏まれて悶えちゃらしとるー!」


嫌悪では無く、どちらかと言えば母親などが子供に対してする「全く、仕方ないわねぇ」的なそれに近い言い方で、かなりの美少女が凄まじいブス声でがなりたてる。


彼女の名前は貞子。

貞雄の妹だ。

幼い頃から、時に遠慮無く拳で語り合い、時に一緒に空地で大量の蛇花火に火をつけ、モリモリ伸びる黒いアレに狂喜乱舞していたら親からゲンコツ制裁を喰らったりと仲良く育った。

貞雄と同様、綺麗な顔面を持つが、貞子は驚くほど声がブスだった。

その事でイジメも受けたが、兄との拳による対話を経験していた為、難無く乗り切った。

某怖い系映画に自分と同名の幽霊が出てきてショックを受けていた時に、兄が彼女を慰めようと必死であだ名を考えた。

2時間考えて出たあだ名が「さだごん」と「さだぴー」だった。

結局どちらも採用されなかったが、貞子は貞雄の気持ちが嬉しかった。


兄の特殊な趣味を見つけた時も、何となく受け入れたし、両親が兄の趣味を咎めた時も必死で説得した。

妹というよりは、弟に近いような存在だ。

「よかっちゃろ!俺の部屋で誰にも迷惑かけちゃらんように、こん子達とちちくりあっちょらしちゃらね!」

「部屋の外まで丸聞こえっちゃ!母ちゃんが飯ぃ出来たから兄ちゃん呼んで来いって!」


仁王立ちした妹に、ハイハイと生返事をしながらゆっくりと腰を上げる。



ふと窓の外に目をやると、完璧な青空。

ふふ、と笑い、何か善い事が起きそうだと微笑した。

直後、驚きと怒りのために歪むとも知らずに。

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