第九話 なんか変な空間に飛ばされた挙句、変なババアと戦わされた件
──ライアとモルドスが闇の空間で戦っているその頃。
「ライアぁぁぁ!!どこだよぉ!!」
泣き叫びながら、俺は何度も名を呼んだ。
だが、返ってくるのは風が草を揺らす音だけ。
周囲には長い雑草が一面に生い茂り、足を取られるたびに転びそうになる。
それでも俺は必死に歩き続けた。
ライアを探すために。
……けれど、人の気配はどこにもなかった。
「もうこの世の終わりだよぉ……」
俺は力尽きたように地面に座り込み、嗚咽を漏らした。
そのときだった。
「坊や、こっちにおいで」
背後から、妙に優しい声が響いた。
「誰か……そこにいるのか?」
恐る恐る振り返った瞬間、全身が凍りついた。
そこにいたのは、肩と背中から計四本の腕を生やした白髪の老婆。
額には一つだけ大きな目があり、ぎょろりと俺を見下ろしていた。
「おはよう、私のエサ」
「……なんだこいつぅ!! ヴォエッ!!」
あまりの異様さに、俺は思わず吐きそうになった。
何度でも言う。こいつはやばい。
俺は全力で逃げ出した。
「失礼だな、エサ」
ババァ──もとい化け物は、四本の腕を地面につき、超高速で俺の前に回り込んだ。
「お前そんな見た目でそんな速ぇのかよぉ!!」
方向転換してまた逃げる。
雑草が肌に刺さろうが、そんなの知ったことか!
俺は無我夢中で駆け抜けた。
「逃げても無駄だエサ!」
「うるせぇ! エサエサ言うな!」
どこまでも続く同じ景色。
走っても走っても出口がない。
やがて気づいた。
──ここは、モルドスが作り出した空間。
絶望の匂いが、空気の中に満ちていた。
「もう終わりだエサ!」
老婆が飛びかかる。
俺はぎりぎりで身をかわしたが、足を挫いてしまった。
「隙ありエサ!」
四本の腕が振り下ろされる。
とっさに光のバリアを展開して防ぐ。
「くっ……! なんて力だ……!」
だが防御は限界寸前。
バリアがみるみる縮み、砕けそうになる。
「所詮、人間の力なんてその程度だエサ!」
「……っ!」
俺は押し込まれながら、もうダメだと悟った。
──その瞬間、脳裏に過去の光景がよみがえった。
俺は十五年前、サンサ島で生まれた。
生まれつき首にジグザグの傷があり、それが“不吉の印”だと言われた。
両親に捨てられ、島中から疎まれた。
「うわ、サンサ島の厄病神だ!」
「この世でいちばん生きちゃいけないやつ!」
生きる意味なんて分からなかった。
ただ、消えてしまいたかった。
そんな俺に、声をかけた人がいた。
バンダナを巻いた男──スイバさん。
「なーに座ってんだ?」
「……なにも」
無愛想に答えた俺に、スイバさんは笑って言った。
「腹減ってんだろ。うまいもん食おうぜ!」
そして半ば強引に連れて行かれたのは、街の食堂だった。
中は温かな光に包まれ、磨かれた木のテーブルがずらりと並ぶ。
ランプの柔らかい灯りが壁を照らし、まるで世界が少しだけ優しくなったように感じた。
「ほら、ここのサンサ名物! トロピカルラーメン、美味いんだぞ!」
「じゃあ……それで」
「注文入りましたぁ!」
店主の威勢のいい声が響く。
「なんで俺を助けるんですか?」
俺は尋ねた。
スイバさんは少し笑って答えた。
「助けたつもりはねぇさ。俺がやりたかったことをやっただけだ」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
──この世界にも、俺を見てくれる人がいる。
そう思えた瞬間だった。
「お待たせ、トロピカルラーメン!」
湯気の立つ丼をすすった瞬間、涙がこぼれた。
味のせいじゃない。
まるで「よく頑張ったな」と言われたような、そんな味だった。
「いい食いっぷりだな、少年!」
スイバさんの笑顔は、まるで光みたいにまぶしかった。
そして月日が経ち、俺は光属性の魔術師になった。
その報告をしようとスイバさんを訪ねたとき──
「スイバさん……?」
床に、下半身のない死体が転がっていた。
バンダナが、彼のものだと気づいた瞬間、喉の奥が裂けるように痛んだ。
怒り、悲しみ、後悔。
全てが光のように胸を焦がした。
「てか……なんで俺、魔術師になったんだっけ……」
スイバさんのため?
自分のため?
違う──
「俺は、俺のやりたいことをやるためになったんだ!!」
その瞬間、全身を熱が貫いた。
「もう終わりだエサ!」
「終わりなのはお前の方だ!」
俺は光をまとい、拳を構えた。
「自分を……もっと表現するんだッ!!」
渾身の力でエサ婆を殴りつける。
「いったた……もっと丁寧に扱えエサ!」
「黙れ! この世の中、自分のこと分かってくれない奴ばっかで嫌になるよな……でもな、それでも俺は証明する!」
スイバさんがくれた“生きる意味”を、この手で!
「次で決める!」
全身から光が溢れ出し、空間そのものが揺らいだ。
「サンシャイン......バースト!!」
白い閃光が走り、エサ婆は悲鳴を上げる間もなく消し飛んだ。
空間がガラスのように砕け散り、闇が晴れていく。
「……終わった、のか」
膝をつき、呼吸が荒くなる。
あらゆる力を使い果たした。
「ライア……ごめん、少し休むわ……」
静かに瞼を閉じ、意識を失った
──その頃、闇の空間では。
モルドスとライア、二つの力がぶつかり合おうとしていた。
ご視聴ありがとうございます!誤字の指摘あればお願いします。
バラドの番外編書こうかなぁ......




