第八話 モルドスとの再戦
宿代を踏み倒した俺とバラドは、ノアール島の奥地へと足を進めていた。
「モルドス……どこにいるんだ?」
「へへっ、もう掴んであるぜ」
バラドは胸を張って方向を案内した。
「てか情報速いな?バラド」
「俺はなんてたって“光属性“だしな、闇に呼ばれてるな感じがするんだ」
「属性ってそういう性質もあるのか……」
俺はバラドに行く先を指示されながら、その背中に着いて行った。
森の奥へ進むほど霧が濃くなっていった。
鳥の鳴き声、風の音さえもしない。
「なんもないな」
俺が呟くと、後ろから視線を感じた。
背中に、ひやりとした感覚が走る。
まるで──誰かに見られているみたいだ。
振り返るが、そこには誰もいなかった。
ただ、霧の奥で“何かの影”が動いた気がした。
「……バラド、なんか見えない?」
「いや、何も──って、あ、ライア……あれを!」
バラドが指差した先には、霧の中に、黒い門のようなものがゆっくりと浮かび上がっていた。
「ここはモルドスの拠点か?」
俺がバラドに聞くと、真剣な眼差しで──
「間違いない、ここだ……ここから”闇”が濃く感じられる」
門の前はより一層静寂に包まれており、”不気味”それだけが頭に浮かび上がった。
「バラド……ここに入ったら後戻りはできないぞ」
俺は無意識のうちに唾を飲み込んだ。
「び、ビビってんのか!?今の俺たちはだ、誰にもま、負けねぇ!」
バラドは全身を震わせながらも、目線は前を向いていた。
「震えすぎだろ!」
「武者震いだっ!」
俺たちはゆっくりと門を開いた。
踏み入れた瞬間、背後で門が勝手に閉まる。
「うわっ!? 閉まった!!」
バラドが慌てて振り返るが、押しても引いてもびくともしない。
「フハハ……待ってたぞ」
低く響く声が、モルドス邸全体に反響する。
空気が重く、重たい圧力が肌を刺した。
「モルドス……!」
俺はすぐに武器を構えた。
モルドスは巨大な階段を一歩ずつ降り、その足音さえもが恐怖心を煽らせた。
「心配するな……雑魚の兵士を使ってお前らの体力の消耗を図るつもりはない……だが……」
モルドスはひと呼吸置くと、地を踏み砕くような勢いでこちらに殴りかかってきた。
「──ッ!!」
咄嗟に剣を構え、拳を受け止める。
金属が悲鳴を上げ、腕が痺れた。
だが、止めたのはほんの一瞬だった。
「ぐっ…!!」
次の瞬間、圧倒的な力が剣を通じて全身を襲い、俺の体は宙を舞った。
背中から床に叩きつけられ、鈍い痛みが全身に走る。
息が詰まり、肺の中の空気が一気に押し出された。
「ライアぁぁ!!!」
バラドの叫びが、広間にこだました。
「やはりその程度か……」
モルドスはため息まじりに呟いた。
その声にはどこか怒りが感じられた。
ただ──“失望”だけが滲んでいた。
「まさか無策で来たわけじゃあるまいな?」
モルドスは倒れこむ俺を冷たい瞳で見つめた。
「……勝手に勝った気になってんじゃねーよ。」
俺は血を拭いながら、ぐっと立ち上がった。
モルドスの瞳が、わずかに細まる。
「ほう……立つか」
「当たり前だ。お前を倒すまで、俺はもう負けねぇ!」
その瞬間、空気が一変した。
モルドスが片腕を横に払う。
轟音とともに、空間が変化した。
さっきまで確かにあったはずの床も、壁も、天井も、すべてが消えていた。
残ったのは、ただ無限に広がる“闇”。
重力の感覚すら曖昧で、上下の区別もつかない。
「ここは……!?」
「ここは俺が今作った闇の空間だ」
──気づけば、そこにバラドの姿はなかった。
「バラド……?」
辺りは完全な闇。
俺とモルドス以外、存在そのものが消えたかのように静まり返っていた。
「心配はするなよ。あいつは別のところに送った」
モルドスの声が響く。
「この場にいるのは貴様と俺だけだ」
俺は笑いが止まらなかった。
「死を前にして笑うことしかできないか……哀れだな」
モルドスは冷たく言い放った。
「勘違いするなよ……こっちの方が都合がいいんだっ!」
剣を握りしめて、次は俺から先制攻撃を仕掛けた。
足元の闇を蹴り、剣に全体重を乗せた。
「正面攻撃か!?馬鹿正直なやつめ!」
モルドスはすかさず正面で受け止めようとするが、俺は瞬時に背中に回り込んだ。
「馬鹿正直はお前だぁ!」
しかしモルドスの鎧は固く、何一つ傷つけることができなかった。
「少しは上達したか」
モルドスは肘で俺の肩を思いっきりぶつけてきた。
「くっ!!」
鋭い音が鳴り響き、肩から鮮血が噴き出した。
その威力は今までに受けたことない痛み。
あまりの痛さに倒れこみそうになった。
「まだ死ぬなよ?」
モルドスは躊躇なく、俺の腹を蹴り上げた。
「ぐっ……はぁっ!」
体の臓器が全て出るぐらいの苦痛。
過呼吸を起こしそうになった。
「生命の無駄だな……」
モルドスは小声で呟いた。
「はぁ……はぁ……」
息をするのが精一杯だった。
だけど——
「……まだ、終わってねぇ……!」
俺は歯を食いしばり、腹を抑えながらも無理やり立ち上がった。
「ほう……立つか。」
モルドスは口角をわずかに吊り上げた。
「だが、その体で何ができる?」
「ハハハ…お前は今日で終わりだ……」
俺は何故かこの状況でも負けを感じることは無かった。
「ハッタリはよせよ。生命の無駄だぜ……?」
「……ハッタリなんてかましてねぇーよ。事実だ」
そのとき、俺の視界に変化が訪れた。




