第六話 敗北の報酬
──暗闇。
何も見えない。何も聞こえない。
「……ここは……どこだ……?」
俺は、モルドスとの戦いに敗れて倒れたはずだった。
なのに──なぜか、立っていた。
急に目の前が綺麗な水色の世界に広がった。
そして、遠くから“光”が歩いてくるのが見えた。
緑色のロングヘア、柔らかな微笑み。
「ライア! 調子はどう?」
その声を聞いた瞬間、なぜか少し安心感が滲み出た。
「どうって……こちとらクエストのせいで死んだんですけど!?」
俺が文句を言うと、エルミアはため息をつきながら、やれやれと首を振った。
「いやいや、レベル6がレベル99に無策で挑む馬鹿なんて、そうそういないわ。」
「は!? そもそもモルドスはどうやって倒すんだよ!?」
俺は声を荒げると、エルミアはさらに呆れた様子だった。
「共鳴石が無理難題なクエストを“発生”させることはない。立ち回りが悪かっただけよ。」
「はぁ!? もうクエストなんていいから鍵探しに専念させてくれよ!!」
俺は今までの声とは比にならないくらい叫んだ。
「共鳴石を手に入れてしまった以上、クエストを破棄することはできないわよ……破棄したら“死”のみ。」
それを言われた俺は、とてつもない“ショック”を受けた。
「共鳴石を破棄したら死ぬし、クエストを破棄しても死ぬって……めちゃくちゃな仕様だなぁ!?」
それでも俺の愚痴は止まらない。
「あなたが今使えるのは、不完全なゴッドアイ、そして一撃必殺……」
エルミアは俺の愚痴を華麗にスルーして、淡々と告げた。
「ゴッドアイって……もしかして、レベルが見える目のことか?」
俺が尋ねると、エルミアはゆっくりと頷いた。
「もしあなたがそのゴッドアイを戦闘の部分にも生かせれば、勝ちまではいかないけど、引き分けまでにはいけるかもね。」
「いや、結局勝てなかったらクエストクリアできないんだって!」
思わずツッコんだ。
「それに、あなたはまだ死んではいない。気絶しているだけよ。」
俺はそれを聞いた瞬間、ほっとした。
「現実世界に戻る前に、モルドスに勝つ方法を教えてくれ!」
俺は訴えかけるように声を張った。
「そうね……バラド。彼がこのタイミングでいてくれたのは、とてもラッキーなことね。」
「……バラド? あいつが?」
意外な返答で思わず聞き返す。
すると、エルミアは意味深な笑みを浮かべた。
「ライア、あなた“属性”って知ってる?」
「属性? 火とか水とか……そういうやつか?」
「そうそう!」
エルミアが指を鳴らした。
パチンという小さな音が響いた瞬間、世界がまるで呼吸をするように揺らめき、
空間の色が目まぐるしく変化していく。
火、水、雷、風の“属性”が目の前に現れた。
「こ、これは……!」
「属性にはまず、火、水、雷、風があるの。」
エルミアは指を上に向けると、指先から小さく燃えた炎を出し、
次の瞬間、それが小さな水の渦に変わり、一瞬で小さな電流や風を起こした。
「これらは基本の属性ね。」
彼女は微笑みながら説明を続ける。
「そして──さらにその上に位置するのが、“上位属性”。」
両手を表向きにし、片方には丸い光、もう片方にはブラックホールのようなものを生み出した。
「例えば、バラドの持つ“光属性” ──モルドスの“闇属性”……」
エルミアは両手の光と闇を激しくぶつけ合わせた。
だが、どちらも相手を飲み込むことなく、空間の中心で拮抗していた。
「……すげー……」
思わず口が勝手に開いた。
「他の“上位属性”とか“オリジナル属性”というのもあるけどね」
エルミアは拮抗している闇と光に火の力を注いだ。
「でも、上位属性の方が必ず強いと思ってるなら大間違い。力を使いこなせるかどうかは、結局“本人次第”。」
さっきまで拮抗していた闇と光が、燃えて消えた。
「じゃあ俺の属性はなんだ……?」
「……わからない。」
俺はこの世の終わりかと思うぐらい絶望した。
「え、まさかない!?」
「いいえ、人は必ず属性を持っている。だけど──」
「けど?」
「属性は発現しないとわからない。努力だけじゃどうしようもないのよ。」
「なんだよそれー!?」
俺は思わずうなだれた。
雑魚狩りしかしてこなかった勇者だし……どこかで当然だと思い、もはや諦めていた。
その瞬間、足元の光がゆらりと揺れ、視界がぼやけ始める。
「ライア!! 起きて!!」
誰かの声が遠くのこだまのように鳴り響いた。
「もしかして……バラド!?」
俺はすぐさま気づいた。
だんだんぼやける視界、俺はそろそろ現実世界に戻されるんだと思った。
「そろそろみたいだね。頑張ってね。」
エルミアはそう言って、次の瞬間──全ての空間が割れるように裂けた。




