第五話 勇者ライア vs モルドス
ノアール島の中心地──ノアールタウン。
そこは街というより、“墓場”に近かった。
黒い霧が常に漂い、街灯はどれも壊れている。
建物は崩れかけていて、人々は俺の目を合わせようともしない。
「……予想以上にやばそうだな」
俺は周りに警戒しながらも前に進んだ。
しかし今の俺には鍵探し以外に“モルドスを倒す”という目的がある。
ただそれだけを目指して。
酒場の前が何やらとても騒がしかった。
「おいおい…モルドス税ってなんだよ……!」
「ふざけてるあいつ!早く死ねばいいのに!」
「お前らそれ以上言うな!殺される!」
“モルドス税”については、物価とか奴隷制度とか、そういうのは予想がついた。
しかし騒ぎは収まらない。
「てめぇら誰のおかげで生きていけると思ってんだ!」
「そうだそうだ!他の島に行ったら何もできないクズどもが!」
聞いてて呆れる。まるで自分が正義だと信じ込んで語っているようだ
俺は深いため息をついて、その場を後にした。
──しばらく歩いてると。
「ぎゃああああああああああああっ!!!」
ものすごい悲鳴が響き渡った。
反射的に振り返ると、ゴミ箱を被った男がこっちに走って向かってきた。
「どうした!?」
俺は咄嗟に聞き返すと──
「俺はもうここでしぬんだぁぁぁぁぁぁ!!」
「落ち着いて!何があった?」
「俺を襲うならはやくしてええええ!!」
「襲わねぇよ!!」
落ち着いたのか、ようやく被っていたゴミ箱を外して、茶髪のボサボサ頭を伸ばし涙目でこちらを見てきた。
「よ、よかったぁ……悪魔の手下かと思ったよぉ」
「お前……そんな状態でよく生きてこれたな。」
こいつ、マジで大丈夫かと思った。
男はガタガタ震えながら、人が変わったかのように叫んだ。
「お、おれはサンサ島出身のバラド! 俺は多分光を操る魔術師だ!」
「たぶん“てなんだよ!」
「だって昨日は光を応用した技を出したら失敗したし!」
バラドは手のひらに小さな光を出しながら、血眼になって話した。
「そういえば君の名前は?」
「俺はライアだ。ショトウ島出身の勇者だ。」
──沈黙が続いた。
バラドは俺の顔をじっと見て、
「は? 地味すぎだろ!? 何か特技はないわけ!?」
「うるさい! 俺は前のヴォルカニック島の炎の番人を倒したスーパーエリート勇者だぞ!」
取り繕うように見栄を張ったが、実際は雑魚狩りを得意とする底辺勇者。
流石に初対面のバラドにそんなことは言えなかった。
「……おいおい。騒がしい奴らだな、新しい客か?」
空気が一瞬でぴりついた。
声のする方を振り向くと、そこには灰色の長髪に、ヤギのような湾曲した黒いツノが2本。
上半身から下半身にかけて黄金の鎧をまとった巨大な男が立っていた。
「……」
あまりの恐怖に、俺もバラドも沈黙しかできなかった。
しかし、こいつの正体はおそらく──
「……モルドス……」
俺は恐怖心に駆られながらも、振り絞って声を出した。
「無理はするなよ? 生命の無駄だぜ。」
モルドスはニヤリと口角を上げ、まるで俺たちの恐怖を楽しむかのようにこちらを見下ろしていた。
バラドは俺に小声で囁く。
「こいつ……誰か知らんけどやばいって……!」
バラドの囁きには一切耳を傾けず、俺は戦闘体制を取った。
「俺はお前を倒しにここに来──!?」
俺はモルドスの上に表示された数字に目を疑った。
「どうした? 顔色がさらに悪くなっているぞ」
モルドスはさらに笑いを広げた。
「……レベル99……!?」
俺は半分悲鳴のように叫んだ。
「貴様の目はレベルが見えるのか」
モルドスの声は低く、しかしどこか興味深げだった。
「レベルなんて所詮数字に過ぎない……
大事なのはステータスだ」
太い腕を後ろに引き、モルドスはゆっくりと衝撃波を放とうとした。
その動作一つで周囲の地面が割れ、暗い渦を巻いた。
(俺もバラドもこのままじゃ死ぬ! なら!)
俺は剣を抜き、ヴォルカニック島で覚えた一撃必殺を一か八かで放とうとした。
使い方も成功率もわからないけど、今の俺にはこれしかなかった。
「面白い。まさか本気で俺に対抗しようとするか」
モルドスはさらに出力を上げた。
「黙って死ぬわけにはいかないんでねぇぇ!!」
剣の全体に薄紅色を纏わせ、周りの空気が震える。
「一撃必殺!!」
「アビスバァァースト!!」
二つの力がぶつかり合った。
轟音と爆風が巻き起こり、地面が抉れ、建物が吹き飛んだ。
「なに……!?」
──結果は押し合いにもならず、俺の剣は吹き飛ばされ、俺自身さえも吹き飛ばされてしまった。
「うぁぁぁ!!」
「ライア!!! しっかりして!」
バラドの声は聞こえたが、もはや応えられないほどの意識だった。
「だが所詮俺の前ではその程度だ。威勢だけは褒めてやろう」
モルドスは満足したのか、俺たちにトドメを刺そうとせず、薄ら笑いをしながらどこかに消えた。
「く……そ、お…れは……」
立ち上がろうとしたが全身血まみれ。
──結局俺じゃ......だめなんだ......
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